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ロシア:欧州裁判所に従い残虐行為の終焉を

北コーカサスでまん延する、人権活動家の殺害を含めた暴力の脅威

(モスクワ)-ロシア政府は、チェチェンに関する欧州人権裁判所の一連の判決を無視し、北コーカサスにおける暴力を悪化させてきた、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書で述べた。近時の北コーカサスでの人権活動家の殺害を受け、欧州評議会議員会議は2009年9月28日、同地域の人権活動家に及ぶ危険に焦点を当てた審議を行うかを決定する予定。

本報告書 「消された息子たち:チェチェンに関して欧州人権裁判所が下した判決のロシアによる履行の実態」 (38ページ)は、チェチェンに関する事件に対する欧州裁判所の判決へのロシアの対応を検証している。115件の判決のほぼ全てにおいて、同裁判所は、ロシアに超法規的処刑、拷問、強制失踪の責任があるのみならず、ロシアはそれらの犯罪を捜査してこなかった、としている。ヒューマン・ライツ・ウォッチが調査した33件の中で、ロシアは1人の犯人をも裁判にかけていない。人権侵害を犯したものや、その行動を指揮したものが、欧州裁判所の判決で名前を挙げられているような場合もである。

「これらの事件を法廷に持ち込んできた家族は、愛する者への残虐な行為に対する法の正義の実現を得るべきである。」とヒューマン・ライツ・ウォッチの上級ロシア調査員で、本報告書の著者であるジェーン・ブキャナンは述べた。「犯罪が処罰されないままの現状では、同様に恐ろしい虐待を行っても罰を免れる、との明確なメッセージとなってしまう。」

この数ヶ月、チェチェンでは人権活動家に対するパターン化した暴力や脅迫が相次いだ。2009年7月15日、チェチェンで人権保護を訴える指導的立場にいたナタリア・エステミロワ(Natalia Estemirova)氏が拉致、殺害された。それから1ヶ月も経たない8月10日に、地元の人道団体Save the Generationの活動家、ザレマ・サドゥライエワ(Zarema Sadulayeva)氏と夫のアリクドズハライロフ(Alik Dzhabrailov)氏がグロズヌイにある同団体の事務所から誘拐され、翌日遺体で発見された。地元の警察の事件への関与が疑われているが、誰も逮捕されていない。

ロシアの著名な人権保護団体であり、エステミロワ氏が調査員として所属していたNGOメモリアルの職員数名も、ここ数週間、治安維持機関による自宅への不審な訪問など、脅迫や嫌がらせを受けている。ラムザン・カディロフ(Ramzan Kadyrov)チェチェン大統領は、エステミロワ氏殺害の責任はカディロフ大統領にあると7月に述べたNGOメモリアルのオレグ・オルロフ(Oleg Orlov)代表を訴えている。この民事名誉毀損訴訟の審理は、9月25日にモスクワの裁判所で始まった。

欧州における最高の人権監視機関である欧州評議会の議員会議は今週、フランスのストラスブルグで秋の会議を開催する。同会議は本日、北コーカサスにおける人権活動家に対する脅威に関し、「時事問題審議」(current affairs debate)を行うかどうかについて、採決を行う予定である。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書で取り上げられている事件の1つに、ハージ-ムラト・ヤンディエフ(Khadzhi-Murat Yandiyev)氏に関わる事件がある。2000年2月2日、母親のファティマ・バゾルキナ(Fatima Bazorkina)氏は、夜のニュースで連邦軍が息子を逮捕している映像を見た。映像では、ロシア陸軍准将のアレクサンダー・バラノフ(Alexander Baranov)が兵士たちに「来い、来い、来い、やってしまえ、こいつを連れていけ、とどめをさせ、撃ち殺せ!」と叫び、その後ロシア兵がヤンディエフ氏を連行していくシーンを映し出していた。以後彼は消息を絶ち、遺体も発見されていない。

2006年、欧州裁判所は、ロシア政府はヤンディエフ氏を不法に逮捕し、殺害したあげく、彼の失踪に関して適切な捜査を行わなかった、との判決を下した。今日まで母親のバゾルキナ氏は、ロシア捜査当局から息子の消息について何の情報も得ていない。

欧州人権条約の締約国として、ロシアは欧州裁判所によって決定された損害賠償金と法定費用の支払いに従う義務がある。ロシアはこの支払いには応じたが、これのみならず、個々の事件に対応し、類似の違反行為が発生するのを防ぐために、政策や法の改定を行う必要がある。

2005年から2009年の間に下されたチェチェンに関する欧州裁判所の判決は、1999年から2004年までチェチェンで行われた、ロシア軍及び情報機関の作戦における違反行為と関連がある。殆ど全てのケースにおいて、同裁判所は、ロシアは自国軍兵士が犯した犯罪に対する効果的な捜査を、日常的に怠っていた、と判断。このような事件における違反行為を是正するための重要な措置のひとつは、ロシアが捜査を行い、犯人を裁判にかけるということである。しかし、欧州裁判所の判決が下された後でさえ、ロシアは捜査を事実上行っていない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは明らかにした。

懸念される新しい傾向として、ロシアの捜査当局が、チェチェンでの人権侵害の責任は国にあるとした同裁判所の判決に対し正反対の見解を明らかにして、判決をただ無視するケースも数件でてきている。人権侵害を犯した当局の関係者や、その上官が裁判所の判決の中で識別されたり名前を挙げられたりしているケースでさえ、異議を申し立てている。

「欧州評議会への義務と判決の真髄をロシア政府があからさまに無視していることは、被害者やその家族にとって大きな失望である。」とブキャナンは述べた。「欧州裁判所の判決を完全に実施することは、被害者やその家族にとって真の法の正義の実現であるのみならず、チェチェンとロシアにおける人権状況の恒久的改善をもたらす大きな可能性を秘めている。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチはロシア当局に対し、これらの事件の犯人を訴追し、今後の判決に従うことで、捜査を意味ある結果につなげるよう要求した。また、欧州評議会の加盟国に対し、欧州裁判所の判決の実施を、ロシアとの二国間かつ多国間の対話における優先事項とするよう強く求めた。

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