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(ロンドン)― ヒューマン・ライツ・ウォッチは、活動対象としている100か国近くの2022年の人権状況をまとめた『人権年鑑2023』(ワールド・レポート)を本日発表した。代表代行のティラナ・ハッサンは「ウクライナから中国やアフガニスタンまで、2022年に続々と起きた人権危機によって夥しい人が苦しんだ。一方で、世界各国が、人権のための指導力を発揮する新たな機会も開かれた」と述べた。

暴力的な指導者たちが、国際的な人権システムを破壊するための動きを強めている。そんな中で国際人権システムを保護し強化するためには、世界各地で力関係が変化している今、現在の政治的な関係性を超えた、すべての政府のコミットメントが必要である。

「この1年間で、すべての政府が世界中の人権を守る責任を負うことが示された」と前出のハッサンは述べた。「力関係の変化を背景に、新たな連合や新たな指導者の声が現れ、各国政府が人権のために立ち上がる余地はむしろ広がったといえる。」

ロシアのプーチン大統領のウクライナに対する全面侵攻は、民間のインフラが標的にされて数千人の民間人が死亡し、世界の注目のもとで人権システムが全力で対応するきっかけになった。国連人権理事会は人権侵害の調査を始め、ロシア国内の人権状況を監視する専門家を任命した。国際刑事裁判所は、過去最多の加盟国からの付託を受けて捜査を開始した。EU、米国、英国、カナダその他の政府も、ロシア政府と関係を持つ個人や企業その他の組織に対して前例のない国際制裁を科した。

ウクライナに対してかつてない団結した支援を行っている各国政府は、ウクライナ東部での戦争が始まった2014年に、あるいはシリアでの人権侵害について2015年に、またはそれよりも前の過去10年間でのロシアでの人権状況の悪化について、プーチンの責任を追及していたら状況がどうなっていただろうかと問うべきである。

ウクライナで示されているような国際的な行動はエチオピアで必要とされている。同国の紛争ではすべての紛争当事者による2年にわたる残虐行為にもかかわらず、ウクライナに比べてほんのわずかな注目しか得ておらず、その結果、世界最悪レベルの人権危機が助長されている、とハッサンは述べた。

国連安保理は国際平和と安全を維持する責任を有するが、アフリカの加盟国やロシアと中国に阻止されて、エチオピア問題を正式な議題にできていない。アフリカ連合(AU)が主導した平和プロセスによって休戦合意に至ったばかりであるが、同合意は脆弱だ。休戦合意を持続させるためには、合意を支持したアフリカ連合、国連、米国などの国々は、暴力と不処罰の致死的な悪循環を断つために、紛争で重大な犯罪を犯した者の責任追及を求め、圧力をかけ続けるべきである。被害者にとって、法による裁きと補償を得ることは極めて重要であるのに、その見込みは今のところ不透明だ。

新疆ウイグル自治区では、100万人ものウイグルその他のテュルク系ムスリムの大量拘束、拷問、強制労働について、中国政府が責任を取らない状態が続いている。新疆での人権侵害が人道に対する罪に相当する可能性があると結論づけた国連人権高等弁務官事務所の報告書が発表されたが、国連人権理事会は、この報告書の討議を求める決議案を、2票差で採択できなかった。

国連人権理事会での否決は僅差であり、中国政府の責任追及に関する各国政府の支持は強まっているといえる。責任追及などないという中国政府の予測に抗する、地域を超えた協力や新たな連携体制の可能性を示唆するものだ。

オーストラリア、日本、カナダ、英国、EU、米国など、中国政府との関係性を再検討する各国政府は、インドとの貿易や安全保障関係を強化しようとしている。しかしナレンドラ・モディ首相率いるヒンドゥー・ナショナリズム政党であるインド人民党は、中国による国家人権弾圧を可能にした類の人権侵害の多くを真似てきた。人権を尊重するようモディ首相に圧力をかけずにインド政府との関係を深めることは、インドでますます危険にさらされる市民社会スペースを守るための貴重な影響力を、無駄にすることになる。

「強権的指導者らは、安定のためには暴力的戦術も必要だという錯覚に頼っている。しかし、人びとがこれまで世界各地で勇気をもって抗議の声をあげてきたとおり、弾圧は安定への近道ではない」と前出のハッサンは述べた。「たとえば中国政府の厳格な『ゼロコロナ』政策下のロックダウンに対して中国各地の都市で起きた抗議行動。人権に対する人びとの望みを、中国政府が抑えようとしても消せなかったことを示している。」

人権尊重を掲げる各国政府は、スーダンやミャンマーなどの国々で、暴力的な政府に抵抗している抗議運動や市民社会団体に政治的注目と力を貸す機会を有するとともに、その責任も負っている。スーダンでは、スーダンの軍事政権に関与している米国、国連、EU、地域内関係国の関係者は、市民の抗議の声及び被害者団体の法の正義に対する要求及び指揮官らの不処罰を止めることを優先するべきである。また東南アジア諸国連合(ASEAN)は、ミャンマー国軍の外貨収入を断つ国際的な取り組みと提携し、ミャンマー軍事政権への圧力を強めるべきである。

国際社会はまた、気候変動という存亡の危機を、人権面から捉えるべきである。パキスタンからナイジェリアやオーストラリアまで、世界の至る所で人間の活動が原因となった壊滅的な洪水や大規模な山火事、旱魃が休みなく繰り返されている。これらの災害は不作為の代償をはっきり示しており、もっとも弱い立場にいる人びとが最大の代償を払っている。化石燃料や伐採などの産業は、ビジネスモデル自体が基本的権利の保護と相容れない。政府関係者は、そうした産業を規制する法的・道徳的義務を負う。

「最前線にいるコミュニティや環境保護活動家を支援することは、環境を悪化させる企業や政府の活動に抵抗し、気候危機に対処するのに必須の重要な生態系を保護するために、最強の手段の一つである」とハッサンは述べた。「ブラジルでは、ルラ大統領がアマゾンの森林伐採をゼロに減らし、先住民の権利を守ると約束した。大統領が気候や人権の約束を守ることができるかどうか、ブラジルと世界にとって決定的に重要だ。」

世界各地で起きている人権危機の深刻さ、規模、そして頻度は、新たな枠組みと新たな行動モデルが緊急に必要であることを示す。現代の世界にとっての最大の課題や脅威の中心に人権を置くことは、起きている危機の根本的な原因を明らかにするとともに、対処方法を導く手助けとなる。すべての政府には人権を守り、そのために立ち上がる義務がある。

「各国政府が協力すると何が可能か、ウクライナについて世界が動いたことで示された」とハッサンは述べた。「すべての国の政府の課題は、世界中の人権の保護と促進のためには何が必要か、同様の連帯精神を発揮して考え直すことである。」

 

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