A 25-year-old gay Iranian man, living now in Turkey as a recognized refugee, is one of hundreds of Iranians who in recent years have sought protection in neighboring Turkey on account of their sexual orientation or gender identity.

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(アムステルダム) - イランで生活する同性愛者などの性的マイノリティ(セクシュアル・マイノリティ)は、差別的な法律や政策により、嫌がらせや暴力はもちろん、死の危険にもさらされている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で指摘した。イランの性的マイノリティ、とりわけLGBT(レスビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)の人びとは、国家からも民間からも攻撃を受けている。性的マイノリティに危害を加えても処罰されないとの認識があることが理由の一つだ。

報告書『葬られた世代:イランの性的マイノリティへの差別と暴力』(102ページ)は、100人以上のイラン人の証言に基づき、LGBTや、政府が認める社会的・宗教的規範に合致しない性行動やジェンダー表現を行う人びとが被っている差別や暴力についての調査記録。ヒューマン・ライツ・ウォッチはこうした人権侵害を、イラン政府による一般市民への人権侵害という観点から調査分析した。具体的には、恣意的な逮捕・拘禁、プライバシーの侵害、被拘禁者への虐待と拷問、正当な法的保護と公正裁判の保障の欠如などが挙げられる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東局長サラ・リー・ウィットソンは「イランの性的マイノリティはあらゆる面で追い詰められている」と述べる。「こうした人びとを敵視する様々な法律があり、政府は公然と差別を行っている。性的マイノリティは、嫌がらせや虐待、暴力の被害に遭いやすい状況に置かれている。犯罪実行者側が、性的マイノリティを標的にしても処罰されないと思っているからだ。」

イランの治安機関(警察のほか、強硬派の準軍事組織バスィージなど)が、差別的な法律に従い、同性愛者の疑いがあるとする人物に嫌がらせを行い、逮捕・拘束していることをヒューマン・ライツ・ウォッチは明らかにした。こうした嫌がらせ事件は公園や喫茶店で起こることが多い一方、ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、治安部隊が、規範に従わない性行動やジェンダー表現を行っていると見なす人物を拘束する目的で、家宅捜索やインターネットのウェブサイトの監視を行っている事例も明らかにしている。

この報告書はまた、警察やバスィージが、公共の場や拘禁施設で、LGBTの人びとやLGBTと疑われた人びとを虐待し、場合によっては拷問したと伝えられる事例も明らかにしている。聞き取り調査を受けた人のうち複数が、治安機関職員による性的な暴行や拷問の被害にあったと訴えている。

テヘラン郊外で喫茶店を営むゲイ男性のナヴィード(42)はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、2007年に2人の治安機関職員から受けた暴行を証言した。氏はこの2人が地元のバスィージの構成員であることを後に突き止めた。2人は氏が職場から出るところを拉致し、手錠をかけて氏の自宅に車で連行。氏を車外に突き落として殴打し、無理矢理家に入れて性的な暴行を行った。

「[1人が]ペニスを私の口に押し込んだ」とナヴィードは述べた。「私は吐き、吐瀉物で身体が汚れた。すると2人は私を洗面所に引きずり込んで冷水を浴びせた。この間体中をひたすら殴られた。」

氏は、この2人から別の家に連れて行かれ、悪臭のするゴキブリだらけの台所に監禁された様子を次のように話した。

「[1人が]私を裸にした」と氏は述べた。「そして懐中電灯と棒で私を強かんした。この男は私を床に突き飛ばして強かんした。もう1人も加わった。」

本報告書には性的マイノリティが犯罪容疑で訴追された際の、適正手続の違反などの深刻な人権侵害についても明らかにしている。合意の元で行われた同性間性交渉の嫌疑を掛けられた場合、公正な裁判を受けられる見込みはゼロに近い。裁判官は、ソドミー罪の審理では刑法が定める証拠認定の指針を無視し、拷問や過酷な精神的圧力で引き出された「自白」に依拠することが多い。イラン国内法と国際法では共に、こうして得られた証拠の採用は禁止されている。

また裁判所は、ソドミー罪で起訴された被告に対して「慣習的な方法によって得られた裁判官の知識」のみを根拠に有罪判決を下すこともある。イラン刑法上のこの証拠認定規定により、裁判官は、根拠薄弱な状況証拠だけに依拠して、他の証拠が一切ない場合、または無罪を証明する証拠が存在する場合であっても、犯罪が起きたかどうかを判断することができる。

イラン国内法の規定は、イラン政府の性的マイノリティに対する敵対的態度があらわれている。刑法では、伝統的な結婚関係の外で行われる性的関係がすべて犯罪とされる。同性による「犯罪行為」は、イスラーム法(シャリーア)が規定するハッド刑の対象となり、原告が神とされる。処罰は厳しい。刑法によれば、ソドミー罪は、裁判官が挿入行為を認定すれば死刑を科し得る。

挿入行為がない男性間の性的関係については、2人に100回の鞭打ち刑が科されうる。4度有罪判決を受けると死刑もあり得る。女性間の性的関係にも同様の刑罰が適用される。

刑法によれば、男性同士または女性同士が「淫欲を催して」キスすると最大60回の鞭打ち刑となる。「血縁関係にない」2人の男性が「必然性がないのに裸で同衾する」と最大99回の鞭打ち刑だ。一連のハッド刑によって性とジェンダーに関して規範に沿った行動が強制されており、例えば「不道徳な」または「退廃的な」集会を組織し、またはそれに参加することや、他人に「退廃的で」「わいせつな」行為を促すことが禁止されている。刑法ではまた、イラン国内法で不道徳とされる資料を作成、使用、配布することも犯罪とされる。LGBT関係のウェブサイトや文献なども対象となる。

世界には、合意による同性間性行為に死刑を科すとする法律を持つ国が7つある。イラン以外の6カ国はモーリタニア、ナイジェリア、サウジアラビア、ソマリア、スーダンとイエメンだ。

イランの新聞やメディアは、1979年のイラン革命以来、同性間の性行為への死刑判決に関しても多く報道してきた。既に処刑された人や現在死刑囚となっている人びとの圧倒的多数はソドミーにより有罪とされており、犯罪があったとされる当時18歳未満だった未成年者も存在する。イラン政府はこうした人びとの大半が強制ソドミーあるいは強かんにより起訴されていると主張する。

イランではハッド刑の裁判は通常非公開で実施されるため、同性間性行為で起訴され、処刑された人びとのうちどの程度がLGBTなのか、またどの程度が合意による性行為に関するものだったのかを判断することは難しい。透明性が低いため、イラン政府が、実際には合意による同性間性行為を行った性的マイノリティを、強制ソドミーや強かんを行ったことにして有罪判決を下している可能性は否定できない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する 。

「イランは合意による同性間性行為を死刑とする数少ない国の1つであるだけではない。未成年の時にソドミーを行ったとされた人びとにも死刑判決を下している」と前出のウィットソンは述べる。「イラン司法権は合意による性行為を理由として、あるいは事件当時未成年だった人びとに対して死刑判決を下すたびに、国際法上の義務に違反しているのだ。」

子どもの権利条約と市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)は、犯行当時18歳未満だった人びとに対する死刑を禁止している。イランが両条約に加盟したのは、後者については1975年、前者については1994年だ。

中東では、イラン以外にも同性愛行為を犯罪として処罰している国があるのは事実であり、そうした国でも、性的マイノリティが深刻な人権侵害を被っている。しかし、イラン政府の性的マイノリティに対する立場は、実情(特に大都市)とあまりにかけ離れている。アフマディーネジャード大統領は2007年に「イランには同性愛者は存在しない」と宣言したが、LGBTとしての自己アイデンティティーを持つ何千人もの人たちが公的空間と私的空間の両方で交流を持ち、ペルシア語のブロゴスフィア(ブログ圏)の中の活気と反骨精神あふれるLGBTコミュニティを支えている。

1979年以降、イラン政府は、今日のイランにおける性的指向とジェンダー・アイデンティティーに関する複雑な実情に対応するため、様々な政策を実行してきた。一見すると、政策の中には寛容なものもあるように思われる。たとえば政府はトランスジェンダーのイラン国民の存在を法的に認めた。ただし、性別適合手術(SRS)を受けることに同意することが条件とされる。またゲイ男性・トランスジェンダー男性・男性と性行為をする男性(MSM)は、自分たちがゲイかトランスジェンダーであることを証明できれば「行動障害」を理由にした兵役免除を申請することができる。

確かに寛容な政策も存在し、その恩恵を受ける人もいる。だがこうした政策の究極の目的は行動を管理し、規範を強制することにあるとヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘。一方で、性的マイノリティに更なる嫌がらせや虐待、恐喝、強要、拷問を強いる政策もある。

「イランの差別的な法律と政策を廃止することは、弱い立場に置かれた性的マイノリティを確実に保護する上で極めて重要だ」と前出のウィットソンは指摘。「イラン国内の性的マイノリティを攻撃する人びとは、被害者が、保護や司法的救済を求められないのをわかった上で実行に及んでいるのだ。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチのイラン政府に対する提言は以下のとおり。

  • Ÿ 合意による同性間性行為を犯罪として処罰するイスラーム刑法に基づくすべての法律や規則を廃止すること
  • Ÿ 合意による同性間性行為あるいは性的関係を理由とする、有罪判決と量刑判決を直ちにすべて取り消し、こうした理由で現在服役中の人びとを全員直ちに釈放すること
  • Ÿ 合意によるか、強制されたかを問わず、犯罪があったとされる時点で18才未満だった人びとに対するソドミー罪での死刑判決を、すべて直ちに取り消すこと
  • Ÿ バスィージなどの治安部隊による、性的マイノリティへの政府関係者による嫌がらせや虐待、ジェンダーに基づく暴力を禁止し、こうした行動に関わる治安部隊の成員を捜査・訴追すること
  • Ÿ 性的マイノリティや、政府の定めた規範に従わない性的アイデンティティー、ジェンダー・アイデンティティーの持ち主を標的として、治安部隊が行う取締りやおとり捜査(インターネットによるおとり捜査作戦や家宅捜索)をすべてやめること
  • Ÿ 拘束中に治安部隊が行う性的マイノリティへの嫌がらせや虐待、拷問、性的暴行を禁止すること、またそのような行動に関わる治安部隊の成員を捜査・訴追すること
  • Ÿ 拷問や拷問の脅迫、その他の虐待によって得られたと思われる証言や自白について、すべての訴訟で使用を禁止すること
  • Ÿ トランスジェンダーのイラン国民に対し、性別適合手術を受けた人びとへのホルモン療法など物理的・心理的支援への十分なアクセスを提供すること

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、イラン以外の国々と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に対し、弱い立場にあるLGBT難民と庇護申請者の権利を保護する政策と勧告を履行することも求めた。

過去数年にわたり、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、オランダスウェーデンなど各国で、イランに送還されると迫害を受けるという十分根拠のある恐れを抱いているイランのLGBTの人びとの送還を停止するため、複数回の介入を行ってきた。