© 2017 Jun Cen for Human Rights Watch

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(香港)— 中国政府は公立病院や民間診療所が提供している矯正療法をやめさせるため、速やかな措置を講じる必要があると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。個人の性的指向を同性愛や両性愛から異性愛に変えるこうした施設の「療法」は、本質的に差別であり人権侵害にあたる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのLGBTの権利プログラムのディレクター グレイム・リードは、「中国が同性愛を法的に犯罪としなくなってから20年以上も経つが、LGBTの人びとはいまだ、性的指向を変えるための強制収容や投薬、時に電気ショックの対象となっている」と指摘する。「中国当局がLGBTの人びとに対する差別や人権侵害を終わらせるべく真摯に取り組んでいるというのであれば、医療施設における一連の実践をやめさせる時がきている。」

報告書「『両親の幸せを考えたことがありますか?』:中国におけるLGBTの人びとに対する矯正療法」(全52ページ)は、矯正療法を施された17人に対する聞き取り調査をもとにしたもの。親たちが成人または未成年の子どもに矯正療法を受けるよう脅したり、強制していることや、子どもを時に力づくで施設に送り込んでいることなどを明らかにしている。政府が運営・監督している公立病院、国家衛生・計画生育委員会が認可・監督している民間診療所を含む医療施設では、医療従事者がLGBTの人びとを「療法」対象にし、一部のケースでは望まない収容や強制投薬、および拷問の一形態に該当する電気ショックなどを行っている。

中国精神科医学会は2001年、中国の精神疾患の分類から「同性愛」を公式に取り除いた。2013年の精神衛生法は、精神疾患の診断および治療が診断基準に準拠したものであることを義務づけている。同性愛行為は疾患ではないため、同法は矯正療法を違法とする。さらに精神疾患の診断および治療が個人の基本的権利と人間の尊厳を尊重するものであることも義務づけている。

しかし中国政府当局は、医療施設や医師が矯正療法を提供しないようにするために、積極的な措置はとっていない。矯正療法を禁ずる明確なガイドラインの発行や、矯正が行われていないかの監視、行われている場合の法的措置などの対策が欠落している。

中国心理学会は、心理カウンセリングの実践において性的指向による差別を禁ずる専門的ガイドラインを発行しているものの、専門家団体は医師が矯正療法を行うことを止める行動は取っていない。ヒューマン・ライツ・ウォッチが聞き取り調査した17人全員が、家族や社会の強い圧力がなければ、矯正療法は受けていなかっただろうと強調した。誰も自由な選択を与えられたり、インフォームドコンセントを受けたりはしておらず、うち3人は施設からの脱出を試みたと話す。Luo Qingさんは逃げ出そうとした時のことを次のように語った。「警備されていないドアにどんどん近づいていきましたが、直前で2人の警備員に捕まってしまいました。気がついたら床に横たわっていました。」

5人が矯正「治療」の一環としての電気ショック「療法」を経験した。典型的には、同性愛行為のイメージや動画、描写といったある種の刺激と同時に、電気ショックによる痛みや不快感を与えられる内容だ。目的は、患者が同性愛を不快感や痛みと結びつけ、同性への性衝動を抑える方向に導くことだ。5人のうち4人はこうした療法の対象になるだろうとは思っておらず、トラウマになったと述べている。Liu Xiaoyun(仮名)さんは、「彼らが強度を上げた時、しびれではなく痛みを感じ始めました。針が肌を刺すような感じです。それから数分後には体が震え始めました[中略]それが電気ショックマシンであることがわかったのは後になってからです」と証言した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応じたうちの11人は、「治療」の一環として、経口または注射で強制的に薬を服用させられた。処方箋の目的や潜在的なリスクについて説明を受けた人はいない。医療関係者は抵抗した場合でも服用させたという。

調査対象者のほとんどすべては、病人・倒錯・悪病・異常・汚いといった言葉を含む口頭での嫌がらせや侮辱を、医師や精神科医から受けたと訴える。Zhang Zhikunさんは、医師との会話を再現した。 「医者が私にこう言いました。(同性愛は)みだらでいかがわしい。 自分を変えないのならいつか病気になって、エイズで死ぬことになりますよ。幸せな家庭を築くこともできない[後略]。ご両親の幸せを考えたことはありますか?」

国家衛生・計画生育委員会のガイドラインでは、すべての省・自治体・自治区が、2013年の精神衛生法に抵触する病院および診療所の活動を調査しなければならない。しかし、ヒューマン・ライツ・ウォッチが同法の執行監視を担当する当局に連絡を取ったところ、代表者は矯正療法に関連するいかなる人権侵害も知らないと述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査に応えた矯正療法の経験者は、1人も被害届を出していない。その理由として複数人が、自分の性的指向が一般に知られることを恐れているからだとした。

2件の訴訟が、矯正療法の一側面を違法として原告側が勝利している。ひとつは病院が原告を強制的に収容したとして、もうひとつは電気ショック治療で原告が受けた身体的および心理的ダメージのために、病院側が損害賠償を命じられている。しかしながらこれら判決は、矯正療法を行っている医師たちへの抑止効果にはなっていない。

中国には性的指向や性自認に基づく差別から個人を守る法律がなく、矯正療法の被害者が法の裁きを求めにくい状況がある。

中国政府は、拷問等禁止条約および子どもの権利条約の締約国であり、自由権規約にも署名している。そのいずれも、矯正療法の様々な面を禁ずる条項を含んでいる。

前出のリードディレクターは、「中国が世界的なコンセンサスに参加する時がきた。強制的な医療矯正療法は人権侵害かつ差別であり、禁じるべきというコンセンサスだ」と述べる。「そうしてはじめて、同性愛を犯罪としないことが法的にも社会的にも意味のあるものになる。そしてLGBTの人びとが中国全土で、この残酷な実践に対して保護を求める行動が取れるようになる。」