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(ニューヨーク)-ビルマ国会は、ムスリムなど宗教的少数者への抑圧と暴力の悪化をもたらす宗教法案を廃案にすべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。この改宗に関する法案は2014年5月27日に国営メディアで発表された。同法は、宗教の変更を望むビルマ国民に不当な規制を課すものである。

「ビルマ政府は宗教を政治化して信仰の決定に政府の関与を認める法律を提案し、宗派間の緊張を煽っている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは述べた。「ムスリムへの暴力は直近2年以上続いている。今回の法案はムスリムなどの宗教的少数者をさらに不安定な状況においやるものだ。」

法案によれば、ビルマ国民は改宗を希望する際、政府機関(宗教省、教育省、移民・人口省、女性問題省など)の地方出張所に一連の届け出を行い、許可が出るまで90日間待機しなければならない。政府の許可を得ない改宗についての刑罰は明記されていない。他人を改宗したり、他人に改宗を強要したり、他の宗教を侮辱すると1年以下の刑で処罰される。

同法案の全文はビルマ語国営紙に掲載された。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、政府が宗教省のFAX番号を記して意見を公募していることを認識しているが、ビルマでFAXを使える国民はきわめて少数だ。

法案が成立すると、ビルマ政府は信教・良心・表現の自由の尊重という国際法上の義務に背くことになる。自分が改宗すること、他人を改宗させること、説教することを規制する今回の法案の内容は世界人権宣言に反する。同宣言は18条で「すべて人は、思想、良心及び宗教の自由に対する権利を有する。この権利は、宗教又は信念を変更する自由を含む[…]」とする。また19条では「すべて人は、意見及び表現の自由に対する権利を有する。この権利は[…]情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む」と定めている。

法案はまた、ビルマも批准する女子差別撤廃条約が定める「自由に結婚相手を選び、結婚する」女性の権利を侵害するものだ。

ビルマの2008年憲法は国民が「公安・倫理・健康に従う宗教を自由に信仰し、実践する」(34条)ことを認めている。また国は「民族、生まれ、宗教、公的地位、身分、文化、性別、財産に基づいて[…]国民を差別してはならない」(348条)と定める。

「改宗に政府の許可を求めることは信教の自由のイロハの侵害である。当局者に広範な裁量を与えて、恣意的にふるまい、許可を与えないことも許すものだ」と、前出のアダムズ局長は指摘した。「この法案はビルマのムスリム少数者に対するさらなる暴力の口実となる。政府は過激派仏教徒におもねるのではなく、ビルマの脆弱な改革プロセスをゆるがす分裂を調停するよう動くべきだ。」

宗教省は、婚姻・宗教・重婚・家族計画に関する4つの法律の1つとしてこの法案を作成している。草案は民族宗教保護協会(通称「マバタ」)が提案した。同協会は民族主義的仏教僧侶が主導する「969運動」とつながる。草案は2013年半ばにテインセイン大統領に提出された。テインセイン大統領とトゥラシュエマン下院議長は関係省庁に対し、仏教団体側が起草した草案を政府提案の法案に変えて世論の検討に付した後、現在の国会会期中、6月20日以降に下院で審議入りさせるよう命じた。

マバタ指導者のウィラトゥ師はマスコミに対し「[ムスリムは]大変な勢いで子どもを増やしている。われわれ仏教徒の女性を奪い、強かんしている」と述べている。またビルマのムスリムの大半は「札付きの悪人」だとも発言した。

一連の法案はビルマ国内のムスリム、とくに長年迫害され、実質的に無国籍状態に置かれているアラカン州のロヒンギャ民族を標的にしたものだというのが一般の受け止め方だ。しかし相当数存在するキリスト教徒も被害を受けることになると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

5月6日、国内の97の女性団体と地域団体が共同で政府に請願書を提出。宗教の異なる男女の婚姻を規制する法律を公然と批判。これに対して民族主義者の仏教僧は賛同団体を「皮膚の下に潜むシラミ」と呼んだ。またウィラトウ師はこれら団体を裏切り者呼ばわりした。ビルマで政治改革プロセスが始まって以来、民族主義的な仏教僧がビルマの世論形成に及ぼす力は大きくなってきており、ムスリム住民やイスラーム諸国機構(OIC)などの国際的なムスリム団体が標的とされている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2012年にアラカン州での暴力事件を調査し、治安部隊と政府の支援を受けた組織がロヒンギャ民族などムスリム住民に対する「民族浄化」作戦を行い、人道に対する罪を犯している証拠を発見した。ロヒンギャ民族は18万人以上が国内避難民となっている。この他にも多数が国外に逃れた。

「政府が国内でのイスラームへの弾圧と暴力を放置することで、事態は一触即発の状況にある」と、アダムズ局長は述べた。「国際ドナー、投資家、各国政府は、宗教法をはじめ、ビルマでの宗教差別を長期的にもたらす恐れのある法律や政策に明確に反対を唱えるべきだ。」

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