公正な裁判の最低基準に違反する裁判
2009年10月16日
7月のウイグル暴動は、重大な犯罪行為だった。しかし、適正手続に関する最低基準を無視した裁判では、正義は実現できないし、社会の安定も得られない。裁判の過程の透明性がなければ、判決の信用性も揺らぐ。
ソフィー・リチャードソン、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア・アドボカシー・ディレクター

(ニューヨーク)-2009年7月におきたウルムチ暴動の容疑者21人に対して行なわれた裁判は、公正な裁判と適正手続に関する国際基準に違反する裁判だった。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日このように述べた。

10月12日、ウルムチの中級人民法院は7人に対する公判を実施し、うち6人に死刑、残り1人に無期懲役を言い渡した。その2日後、残る14人の公判も行なわれ、判決を言い渡された。14人のうち、6人が死刑(うち3人は2年の刑執行延期付)、残りの被告には懲役10年などが言い渡された。公判の実施は事前に開示されず、判決言い渡しまでに1日かからなかった。

「7月のウイグル暴動は、重大な犯罪行為だった。しかし、適正手続に関する最低基準を無視した裁判では、正義は実現できないし、社会の安定も得られない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア・アドボカシー・ディレクターであるソフィー・リチャードソンは述べた。「裁判の過程の透明性がなければ、判決の信用性も揺らぐ。」

今年7月5日から7日にかけてウルムチで発生した抗議行動は、この数十年に中国でおきた民族間の衝突のうち最悪の事態となった。政府の発表によると、死亡した197人のうち134人が漢民族であり、負傷者は1600人以上。抗議後、治安当局は数百人もの容疑者を逮捕。そして、直後の7月9日には、重大犯罪に対しては死刑を適用するなど、厳罰を持って対処すると表明していた。

数週間前から、ウイグルの司法当局は、明らかな証拠のある21件から裁判を開始すると発表。この21件のうちの数件では、治安カメラのビデオが証拠とされている。10月9日、Liu Boウルムチ次席検事が新華社通信に対し、法執行当局は「暴動の過程で犯罪に関わったとされる容疑者ひとりひとりについて、確固たる証拠を合法的に集めることに尽力した」とし、「残りの容疑者の訴追を迅速に進めたい」と述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、裁判の適正手続の重大な違反が存在し、被告に対する公正な裁判が妨げられたと述べた。例えば、弁護士の選任の制限、司法の政治化、公判審理の日時の非開示、裁判が法の求める真に公開の手続でなかった点など。これらの点は、中国における司法制度の慢性的な問題でもある。今月行なわれたウイグル暴動裁判について、ヒューマン・ライツ・ウォッチは以下の3点について特に懸念を表明する。

  • 弁護士選任権の違反。2009年7月11日、ウルムチ司法当局と北京の司法当局は、弁護士たちに本件の弁護を引き受けないよう暗に警告。暴動関連の弁護をする場合には注意深く行なうよう指示するとともに、法律事務所のパートナーたちに対し、弁護案件を当局に報告するとともに「司法当局と弁護士会の監視と指示を積極的に受け入れるよう」注意を促した。また、この警告は、メディアにコメントしたりインターネットでコメントすることも禁止。本件裁判に対し、公けの監視の目が届かないようにした。8月9日、ウルムチの司法支援センターRen Guoshen副代表は、弁護士としての技量のみならず「良好な政治的資質」を備えている人物が弁護人に選任されたと新華社通信に語った。被告人の利益のためには検察官に反論するという勇気のある弁護士が選任されたか、疑問が残る。
  • 本件ウイグル暴動事件を取り扱う裁判官も検察官も、政治的な基準に則って特別に選任されたほか、7月5日の事件の公判のやり方について党から直接指示をうけた。複数の公式文書によれば、ウイグル高級人民法院共産党委員会が、本件の裁判手続き関与する職員たちにトレーニングを行なったとのことである。ウイグル高級人民法院長は、7月5日の事件に対応するため、ウイグル司法当局が「この地域全体から政治的資質を兼ね備えた者を選任した」という7月16日付当局文書を公開した。また、他の公式報告書によると、この件に関する裁判に関わる司法関係者を対象に、ウイグル高級人民法院共産党委員会による勉強会が開催されたことも明らかになっている。この勉強会では、「プロパガンダ教育の手引き-ウルムチにおける7月5日事件の真実」が配布された。これは、「共産党中央と地方の考え方の一致を測り、幹部と警察の政治的鋭敏さと判断力の向上を図るため」共産党当局が準備したものとされる。司法官を政治的傾向により選別することは、国際法の定める「独立かつ公平な裁判」の明らかな違反にあたる。
  • 中国刑事訴訟法の違反。ウルムチの中級人民法院は、7月5日事件の公判審理の開始を事前に告知しなかったほか、公開裁判を行なわなかった。誰が公判の傍聴を認められたのかは不明である。外国人記者や外国からのオブザーバーは傍聴していない。中国では、政治的に敏感とされる事件の公判で、司法関係者や役人を傍聴人に見立てて、傍聴を恣意的に制限した例が多い。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、あらゆる死刑に反対しているほか、暴動以来、正式に逮捕され拘留されただけでも数百人に上る人びとの今後について懸念をしている。これらの人びとは、拘束場所も明らかにされていない。

「中国政府は、中国国民と国際社会に対し、法に基づき公平な裁判を行うと約束してきた。しかし、その約束を破った」と、リチャードソンは語った。「今回の裁判により正義が実現されたと考えるべきではない。」

 

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