北京五輪は流血の記念日に開幕
2008年08月08日
世界中が北京オリンピックの開会式を祝うのは結構だが、少し冷静になって、20年前に起きたビルマでの虐殺のことを思い起こすべきではないか。
エレーン・ピアソン、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長代理

(ニューヨーク) ビルマでの民主化蜂起から20年が経ったが、ビルマ軍事政権は基本的人権をいまだ厳しく制限し、反体制運動を力で押さえつけている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日このように述べた。当時の運動に対する弾圧の記念日は、北京オリンピックの開会式と日を同じくしており、開催国の中国といえば、ビルマ政府への支援を通して、同国の抑圧的な政権の生命線となっている。

1988年8月8日、何百万人ものビルマ国民が、国軍支配の終結と民主主義を求めて、全国でデモを行った。ビルマ国軍はデモを暴力的に鎮圧し、デモ隊数百人を殺害したことで、この日は同年3月に始まった全国的な大衆運動の分岐点となった。抗議運動が行われた7ヵ月間にビルマ全土で推計3千人が殺害されている。しかし1988年の暴力的な弾圧に関与したビルマ治安部隊の構成員には、独立した調査も訴追は行われていない。現在の軍政首脳の多く(タンシュエ軍政議長、マウン・エイ陸軍司令官など)は、当時の国軍幹部だった。

「世界中が北京オリンピックの開会式を祝うのは結構だが、少し冷静になって、20年前に起きたビルマでの虐殺のことを思い起こすべきではないか。今年の記念日(8月8日)は、ビルマ国民が自由を求め続けていることを、また世界が抑圧的な軍政を終結させられずにいることをはっきりと示している。さらに言えば中国は、残酷な統治を行うビルマ軍政の存続を、他のどの国よりも強力に支えている。」ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長代理エレーン・ピアソンはこのように述べた。

2007年8月~9月に活動家、僧侶や一般市民が行った平和的なデモに対しても、治安部隊は1988年と同じように暴力的な弾圧を行った(http://hrw.org/reports/2007/burma1207/burma1207/burma1207jasum.pdf)。治安部隊による発砲で、少なくともデモ参加者30人が殺害された。また数千人が逮捕され、その多くが拷問や虐待を受けた。軍は国内の少数民族に対して現在も残虐な軍事作戦を展開しており、国際人道法違反の虐殺を繰り返している(http://hrw.org/english/docs/2007/10/25/burma17168.htm)。

ビルマ国民5千4百万人のうち3分の1は、絶望的な貧困状態に置かれている。教育と公的医療の水準は世界最低レベルにまで低下している。2008年5月初めにビルマ南部をサイクロン「ナルギス」が襲った際、ビルマ軍事政権は国民の窮状よりも国内治安の維持に関心を払った。そして被災者への国際的な救援活動を妨害した後、憲法制定のための国民投票を実施したのである。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、報告書『投票しようのない国民投票:ビルマ2008年5月の国民投票』(http://www.hrw.org/reports/2008/burma0508/)で、国民投票が実施された際には、情報へのアクセスが厳しく制限され、抑圧的なメディア統制が敷かれ、表現・集会・結社の自由の行使がほぼ全面的に禁止されるといった状況が存在し、政治活動家の広範囲にわたる身柄拘束が続いていたことを指摘した。国民投票にはプロセスと実施に関して明確な瑕疵があるにもかかわらず、中国政府はこれを前進と賞賛した。現在のところ現軍政=国家平和発展評議会(SPDC)は2010年に総選挙を実施すると発表している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、中国がビルマの緊密な同盟国である以上、北京オリンピックのスポットライトはビルマにも向けられなければならないと述べた。主要な対外投資元で貿易相手国、また外交上の後ろ盾として、中国政府はビルマの軍政支配を強化している。中国政府の行動は、国連安全保障理事会の対ビルマ決議の阻止などの形で、数十年におよぶ政治的抑圧状況を終わらせようとして、各国や国連に協力を求めるビルマ国民の取り組みを妨害している。

8月8日には、米国のブッシュ大統領、フランスのサルコジ大統領、胡錦濤中国国家主席、オーストラリアのラッド首相とビルマのテインセイン首相など各国首脳が、オリンピックの開会式出席のために北京に集まる。

「中国政府とオリンピック・ムーブメント(注:オリンピックを世界に広げる運動のこと)は、冷酷な支配を行うビルマ政府の首脳をゲストとして招いたことを恥じるべきだ。最低でも中国政府は、同国のテインセイン首相に対して、政治改革を行う時期だと告げるべきである。責任ある大国として、中国政府は、商取引からの利益や、現軍事政権のみを利する武器輸出での収入よりも、ビルマ国民の福祉を優先すべきである。」

ビルマの人権状況に関する国連人権理事会特別報告者に任命されたばかりのトマス・オヘア・キンタナ氏は、今週初めてビルマを訪問した。ビルマ問題に関する国連事務総長特別顧問のイブラヒム・ガンバリ氏も8月にビルマを訪問し、政治改革についてビルマ軍政と協議する予定だ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、国際社会、特に中国、インドと東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国に対して、ビルマ政府が両特使に完全な形で協力し、人権状況改善など、以下に掲げた事項に関する基本的な改革に協力するよう、同国政府に圧力をかけるよう求める。

  • サイクロン被災地域の支援に関して国連や国際援助団体と完全に協力し、援助の実施については、完全な透明性、アカウンタビリティー、コミュニティ参加の上で行うこと
  • 約2千人の政治囚(ノーベル平和賞受賞者アウン・サン・スー・チー氏など)を即時無条件に釈放し、政治活動に自由かつ妨害を受けることなく参加することを許可すること
  • 表現・集会・結社の自由への権利の制限を止めること
  • 少数民族への軍事作戦を停止すること、また戦争犯罪に対して責任がある治安部隊の全構成員の責任を追及すること

    「ビルマ政府指導部は、中国からの支援があるからこそ、その責任を追及されることなく残虐行為を続けられている。情勢を憂慮する諸国は、軍政に対する批判の継続と対象限定制裁措置に力を入れ、ビルマ国民がこれからの20年も残忍な抑圧の元で過ごさずにすむようにすべきだ。」ピアソン局長代理はこのように述べた。