(ニューヨーク)— カンボジアでますます強まっている独裁的な一党支配を支えているのは、重大かつ体系的な人権侵害の責任者である治安部隊の将官たちだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。フン・セン首相と与党カンボジア人民党(CPP)は、陸軍、憲兵隊、警察の高官たちによる揺るぎないサポートを背景に、野党勢力を次々と排除した末に、党を解散させ、2018年7月の国政選挙を無意味なものにした。
報告書「カンボジアのダーティーな12人:フン・セン政権下の将官たちによる長い人権侵害の歴史」(全213ページ)は、人権侵害的かつ権威主義的な政治体制の中核をなす12人の治安担当高官に焦点を当てたもの。これら高官は、20年以上前からフン・セン首相と政治的・個人的に強いつながりを持ち、高い地位と有利な立場を享受してきた。そしてフン・セン首相に代わって権利を濫用する意思を隠すこともない。公に仕える代わりに、もう33年超になるフン・セン首相の支配を守ることに専念してきた。12人のキャリアは、これまでずっと控えめな給与の公職であったにもかかわらず、説明できないほど膨大な富を築いている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長ブラッド・アダムズは、「フン・セン首相は何年にもわたり、彼の命令を無慈悲かつ暴力的に実行する治安部隊の中心層を形成・発展させてきた」と指摘する。「こうしたカンボジアの将官たちの重要性は、7月の国政選挙に先立ち、より際立つようになってきた。ジャーナリストや野党、反体制派の抗議者たちに対する弾圧を行い、堂々とフン・セン首相の選挙運動にも参加している。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、フン・セン首相の著しい人権侵害記録を長らく文書化してきた。これまで30年以上にもわたって、何百人もの野党政治家、ジャーナリスト、労働組合の指導者などが、政治的な動機に基づく襲撃で殺害されている。多くの場合、こうした殺害の責任を負うのは治安部隊関係者だったことがわかっているが、信頼できる捜査や訴追には至らず、もちろんいかなる有罪判決も下されていない。実際に手を下した者が訴追された例も一部にはあるが、命令を下した側は無傷のままだ。治安部隊は人権活動家や労働運動家、土地権利活動家、ブロガー、ほかオンラインで自らの意見を表明した人びとなど、多くの政府批判者たちに対し、恣意的に逮捕や暴力、嫌がらせ、威嚇を行っている。
フン・セン首相は、公に仕えるはずの軍隊、憲兵隊、警察機関の関係者を忠誠心に基づいて昇進させることで、自らの抑圧的な支配をかためてきた。
本報告書は、1970年代後半から現在に至るまで、カンボジアで人権侵害に関与してきた治安部隊高官12人の責任について詳述している(なお、一部は7月の国政選挙にCPPから出馬するため休職中)。
Gen. Pol Saroeun, Supreme Commander of the Royal Cambodian Armed Forces (RCAF)
Gen. Kun Kim, Deputy Supreme Commander of RCAF and Chief of the RCAF Mixed General Staff
Gen. Sao Sokha, Deputy Supreme Commander of RCAF and Commander of the Royal Khmer Gendarmerie (GRK)
Gen. Neth Savoeun, Supreme Commissioner of the Cambodian National Police
Lt. Gen. Chea Man, Deputy Commander of the Army and Commander of Military Region 4
Lt. Gen. Bun Seng, Deputy Commander of the Army and Commander of Military Region 5
Lt. Gen. Choeun Sovantha, Deputy Commander of the Army and Commander of Military Region 2
Lt. Gen. Chap Pheakdey, Deputy Chief of the RCAF Joint General Staff and Commander of Special Forces Paratrooper Brigade 911
Lt. Gen. Rat Sreang, Deputy Commander of the country-wide GRK and Commander of the Phnom Penh Gendarmerie
Gen. Sok Phal, Deputy Supreme Commissioner of National Police and Supreme Director for Immigration
Gen. Mok Chito, Deputy Supreme Commissioner of National Police and Secretary-General of the National Anti-Drugs Authority
Gen. Chuon Sovan, Deputy Supreme Commissioner of National Police and Commissioner of the Phnom Penh Municipality Police
これら高官は、政党ではなく国を代表する法的責任を負い、公平かつ中立的な方法で職務を遂行しなくてはならないが、全員が公然と、非常に党派的なやり方で行動してきた。いずれも与党カンボジア人民党の最高政策決定機関である中央委員会の一員だ。同委員会会員は党の全方針を遂行するよう義務づけられている。これは治安部隊関係者が政党を自由に選んで投票し、個人意見を表明する権利を保護する国際人権基準に矛盾する。そして、公職者は職務遂行に際して党派的であったり、一つの党を優先させてはならない。
フン・セン首相と同じく、高官の一部はかつてのポル・ポト政権(1975年4月〜79年1月)の関係者でもある。同体制下では120〜280万人とも言われるカンボジア人が犠牲になった。
6月12日、治安部隊の13番目の高官であるヒン・ブン・ヒーン軍副最高司令官が、米国の制裁措置で資産の凍結と渡航禁止を課された。同司令官は四つ星の将官で、事実上の私設部隊であるフン・セン首相の護衛隊を長く指揮している。米財務省はこの部隊が「何年もの間、非武装のカンボジア人に対して行われてきた複数の襲撃に関与している」とし、「米国人1人が爆弾の破片で負傷した事件など、抗議集会や野党集会の威嚇に軍事力が使われた事件と、少なくとも1997年までさかのぼってつながりがある」と結論づけている。米国人が巻き込まれた事件は、1997年3月30日に起きた。野党カンボジア救国党を当時率いていたサム・レンシー氏が主催した政治集会を憲兵隊が襲撃、16人が殺され、150人超が負傷した悪名高い事件だ。
前出のアダムズ局長は、「近ごろの人権侵害および20年にもなる野党への手榴弾攻撃のために、米国がフン・セン首相の最高将官のひとりであり、もっとも近しい腹心に制裁措置を発動したことは、政府高官および軍指揮官たちへの警告になるはずだ」と述べる。「カンボジアの人びとに対して残虐行為を犯したのであれば、フン・セン首相が彼らを永遠にかばうことはできない。」
フン・セン首相は1985年に就任した。2015年からは、1979年以降、与党の座を維持してきたカンボジア人民党の議長でもある。ジンバブエのロバート・ムガベ政権が崩壊した現在、フン・セン首相は世界でもっとも長く独裁の座にある5人のうちの1人となった。彼は公の場で自らを三人称で語り、数百もの学校(その多くは寄付金で成り立っている)に自身の名を冠するなど、個人崇拝を確立しようとしている。クメール語によるフン・セン首相の正式な称号は「Samdech Akka Moha Sena Padei Techo Hun Sen」。文字通りに翻訳すれば、「君主にふさわしく誇り高い、栄光勝利軍の最高に偉大な司令官」ということになる。これまでに自らを「永遠の五つ金星元帥」と呼んだこともある。
アダムズ局長は、「独裁者が頂点に到達しそこにとどまるには、無慈悲な側近たちのサポートが欠かせない」と指摘する。「フン・セン政権の根底には、カンボジアの人びとを虐待し、威嚇してきた将官による中核集団が存在する。彼らはフン・セン首相が33年間の支配を通じて示してきた多元主義および民主主義への軽蔑を同様に抱いている。将官たちは上司であるフン・セン首相同様に、犯した罪を非難され、かつ責任を問われなければならない。」