Skip to main content

(ロンドン)-ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で、エチオピア政府は海外からの開発援助を悪用して政府批判を封じ込めている、と述べた。与党支持を主要な政府プログラム参加の条件とすることで、エチオピア政府は、海外からの援助を野党支持者抑圧の道具としている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、海外からの援助が「説明責任(アカウンタビリティ)と透明性を備えた方法で行われること、政治弾圧を助長しないこと」を確保するよう、関連援助国政府や機関に強く求めた。

報告書「自由なき開発:海外援助がエチオピアの弾圧を助長している実態」(全105ページ)では、援助国および援助機関からの資金や援助の用途について詳述。与党エチオピア人民革命民主戦線 (EPRDF)が自らの強化に海外からの援助を利用している実態を取りまとめている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアフリカ局長ロナ・ペリガルは、「エチオピア政府は援助へのアクセスを、国民支配と、反体制派潰しの武器として日常的に使っている」と指摘。「与党の言いなりにならなければ、海外援助の裨益から締め出されるのが現状。にもかかわらず、海外援助国や援助機関はそうしたエチオピア政府のやり方に、更なる開発援助増額で応えてしまっている。」

エチオピアは世界最大の開発援助受領国の一つで、その額は2008年だけでも30億米ドルを超えた。世界銀行と援助国政府は、基本的公共サービス提供を目的とした直接支援を、エチオピアの地方自治体に行っている。具体的には、医療・教育・農業・水、並びに同国の最貧困層のための「フード・フォー・ワーク」プログラムなど。EU、米国、英国、ドイツが最大の二国間援助国となっている。

エチオピアの地方自治体は、 野党支持者や社会活動家には支援をしばしば拒否。食糧援助がなければ生死を左右されてしまう農村部の人びとも、支援を断られている。エチオピアの開発・発展の助けとなるはずの海外援助による能力開発プログラム--それを政府は与党イデオロギーで学童を洗脳し、教師を脅迫し、独立した政治的見解を持つ公務員を公職から追放するために使っている。

2010年5月に行なわれた国政選挙が近づくにつれ、政治弾圧が顕著化。そうした状況のなかで、与党は議席の99.6%を獲得した。

政府の規制のため、独立した調査は困難であったものの、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2009年に6ヵ月間の調査を実施。3つの地方全域53村で、200人を超える人びとから聞き取り調査を行った。多くの地域で証言者が差別体験を訴え、問題は広域におよぶことが明らかになった。

与党を支持しなかったために、農業支援や少額融資を受けられず、種・肥料などを提供してもらえなかったと訴える農民たち。アムハラのある農民がヒューマン・ライツ・ウォッチに語ったところでは、「[村の]指導者たちが、野党支持者を特定し、"特典"受領資格を剥奪する」と公言したという。「特典」とは、具体的には、肥料や「セイフティー・ネット」、そして緊急支援さえも受けられないという意味、という。

最も脆弱な立場にある700万人を援助する「フード・フォー・ワーク」や「セーフティ・ネット」プログラムへの加入を、野党支持者の家族の多くが拒まれたと、農村部の人びとは訴える。エチオピア国内全域で、地方自治体当局からこれらのサービス提供を拒まれた野党支持者たちの多くが、こうした対応に対し与党や政府に異議申立てをしても、「自分の党に助けてもらえ」と言われるだけだった、と証言している。

また、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、諸外国政府の援助が資金源となっている能力開発プログラムの一環として、与党のイデオロギーに基づいた洗脳集会が開催され、高校生・教師・公務員らが参加を強制された実態を取りまとめている。集会参加者が与党に入党しない場合、脅迫を受けたという証言も多い。教師たちは上司から、与党党員であることが昇進や研修機会の条件だと告げられるなどしている。エチオピアでは、教育、とりわけ学校制度および教員研修は、海外からの援助資金に大きく支えられている。

前出のペリガルは、「与党はあらゆる政府機能を掌握しており、すべての援助プログラムがその手中にある」と述べる。「効果的で独立した監視なしには、国際援助は抑圧的な一党独裁国家の強化に濫用され続けることになるだろう。」

2005年、世界銀行やそのほか海外援助国・機関などは、エチオピア政府への直接援助の停止を決定。国政選挙後のデモで200人が死亡し、3万人が逮捕され、数十人もの野党指導者が投獄された、一斉弾圧を受けての措置だった。当時、援助国および機関は、与党による援助資金の「政治的掌握」に対する懸念を表明した。

結局、援助は資金を地方自治体に直接回す新しい「基本的サービスの確保」プログラムの下で、すぐに再開。これら地方自治体は国政同様に与党の支配下にある。のみならず、その監視が更に困難なため、より直接的なかたちで住民に対する日々の抑圧の道具として使われている。

この間エチオピア政府は、政治活動の自由をどんどん収縮させており、独立したジャーナリストや市民運動家を迫害し、沈黙あるいは亡命に追い込んだ。加えて、結社の自由と表現の自由を侵害。2009年に可決された市民社会活動に関する新法は、資金の10%以上を国外から得ているNGOに対し、人権・統治・紛争解決関連の活動を行うことを禁じた。

ペリガルは、「人権侵害を監視する独立したNGOはほんのわずかしか存在していないのに、その数少ないNGOが政府と新たな悪法によってぺちゃんこにされている」と指摘。「しかし、これらの団体こそ、援助が悪用されないよう確保するためにきわめて重要な存在なのに。」

近年のエチオピアの人権状況の悪化にもかかわらず、援助国および援助機関は、資金援助を増やしている。2004年から08年の間に、エチオピアに対する国際開発援助は倍増。エチオピア政府の資料によれば、同国は貧困の削減に向けて大きく前進しているため、援助国および援助機関は国連ミレミアム開発目標の達成にむけてエチオピアを支援することに満足している。が、こうした「前進」の代償は大きい。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが本調査結果を援助国関係者に提示すると、援助国の多くは、非公開の場では、エチオピアで人権状況が悪化し、与党が権威主義化している実態を認めた。12カ国の西側政府機関関係機関が、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、援助プログラムが政治弾圧に悪用されているという疑いを承知しているもののその程度については知るすべもない、と語った。エチオピアでは、援助プログラムのモニタリングのほとんどが、エチオピア政府との共同事業なのだ。

こうした実態にも拘わらず、自国民の税金がエチオピア政府により悪用されている可能性について、これまでに公的に懸念を表明した援助国はごく少ない。援助ドナーのコンソーシアムである開発援助グループ(Development Assistance Group)は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、机上の分析の結果と公式見解として、プログラムはしっかりと機能し、援助は「歪められて」いないことを監視体制が明らかにしている、と回答。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、援助国(ドナー国)の国会や会計検査機関に対し、開発援助が政治弾圧を後押しすることのないよう、エチオピアに対する開発援助を再検討するよう求めた。

「エチオピアが前進していることを示すのに熱心なあまり、援助関係者は公式統計の陰に隠れた弾圧から目をそらしている」と前出のペリガルは語る。「エチオピアに経済援助を行っている政府及び機関は、自分たちが出した援助の一部が人権侵害を引き起こしているという事実に気づかねばならない」と述べた。

背景

ティグレ人民解放戦線(TPLF)がリードする与党は民族集団の連合体。メンギスツ・ハイレ・マリアムの軍事政権を倒し、1991年に権力の座についた。エチオピア政府は、1994年に基本的人権を定める新憲法を採択したものの、過去19年の間に多くの自由が現実には制約されるようになってきた。

与党は1991年に政権を握った後、複数政党による選挙を導入したものの、野党は様々な妨害を受けてきた。例えば、事務所の設置や組織的な活動に加えて、国政・地方選挙運動に関しても、深刻な妨害がある。

エチオピア全人口の85%が地方の農村部に居住しており、そのうち毎年10%から20%が、国際的な食糧援助に依存している。エチオピアへの国際開発援助は1990年代以降、2年間続いたエリトリアとの国境紛争(1998-2000)の際に一時的に横ばい状態になったことを除いて、着実に増大し続けている。エチオピアは今や、アフリカ諸国では最大の、世界銀行援助および二カ国間援助の受領国となっている。

2008年の援助総額は33億米ドル。うち米国の援助額はおよそ8億ドルで、その大半は人道的または食糧援助。EUは4億米ドル、英国は3億米ドルを援助している。一般的には、エチオピアは貧困削減に関する国連ミレミアム開発目標に向け、素晴らしい進展を遂げているとみられているものの、根拠データのほとんどが同国政府出所であるため、中立的検証はなされていない。

報告掲載の証言の一部

「みんなが使っている少額融資制度があるけれど、私たち(野党)党員にとっては利用はすごく難しいんです。担当者は『これはお前たちの政府からのものじゃなく、お前たちが憎んでいる政府からのものだ。そんな政府から何かをしてもらおうっていうのか』って言うんです」-南部地方のある農民

「昨日、村の与党委員長が、『こんなにたくさんの仕打ちにあいながら、なんでまだ懺悔の書類を書いて党に入らないんだ?」って言ったよ』-飢えた子どもを抱える南部地方の農民。「フード・フォー・ワーク」への加入を拒まれている。

「セーフティ・ネット・プログラムは与党への忠誠心を「買う」ために使われているんだよ。その金は海外から来ている。海外からの援助が民主主義を破壊しているんだ。金が何に使われているのか、援助国は知っているんだろうか。民主主義破壊のために悪用されているって知らせてくれ」-アムハラ地方の農民

「私たちの援助金が政治的な洗脳に使われているのは明らかです」-在アディスアベバのある援助国コンサルタント

「脅しは各地で起きています。住宅・経済・農業が政治的に利用されているのです。国民の多くが、セーフティ・ネットに参加するために、与党への入党を余儀なくされています。多くは選択肢を持たず、強いられているのです」-在アディスアベバの援助関係者

「肥料、融資、セーフティ・ネットなど、すべての手段が、野党支持者を思いのままに潰すために使われていることを、私たちは知っています」-在アディスアベバの西側援助関係者

「私たちはどんな国をどう構築しようとしているんだろう?たぶん「支配と弾圧の国」の構築を後押ししてしまっているんだろうな」-アディスアベバの世界銀行職員

皆様のあたたかなご支援で、世界各地の人権を守る活動を続けることができます。

人気の記事