2023年にフン・マネット氏が首相に就任してから、カンボジアの人権状況は悪化の一途を辿っている。政府はあらゆる反体制行動を抑え込む作戦を続けている。与党カンボジア人民党(CPP)は、司法を含む政府の全部門を掌握している。政府は恣意的拘禁によって反体制派を処罰した後、自白や公の場での謝罪をしばしば強要している。また、国外に逃れた政府批判者に広範な監視や越境弾圧を行っている。
政治的及び越境弾圧
キャンドルライト党、クメール・ウィル党、ネイション・パワー党など野党勢力は、依然として絶え間ない圧力にさらされている。幹部や支持者は嫌がらせ、恣意的逮捕、政治的動機に基づく訴追に直面している。2025年5月には、ネイション・パワー党の上級顧問ロン・チュン氏が扇動罪で有罪判決を受け、4年の刑を宣告された。
9月には、反逆罪や扇動罪の容疑で野党政治家や活動家が一斉に逮捕され、過密状態の刑務所に収容された。11月時点で政治囚は88人に上った。野党指導者のケム・ソカ氏は、2023年に政治的動機に基づく反逆罪で27年の刑を受け、現在も自宅軟禁下にある。
カンボジア政府はまた、亡命する政府批判者を沈黙させ、威嚇しようと、タイ、マレーシア、日本などで越境弾圧を続けている。2025年1月には、元野党議員でフランスとカンボジアの二重国籍を持つリム・キムヤ氏がバンコクで射殺された。政治的暗殺という見方が大勢だ。タイ当局は容疑者を逮捕・起訴したが、誰が殺害を命じたかは今も明らかではない。
市民社会とメディアへの制限
エクイタブル・カンボジアやCENTRALなどの市民社会組織では、アドボカシー活動を理由に、職員が行政的・法的な手段や刑事訴追の脅しを通じた攻撃の標的となっている。カンボジア当局は、陰謀、扇動、国家安全保障に関する定義の曖昧な法律を用いて反対意見を抑え込み続けており、市民社会が活動できる余地はほぼ完全に奪われている。意味ある市民参加は、現在ほぼ不可能な状況だ。
報道の自由は深刻な脅威にさらされている。独立系メディアやオンライン媒体は法的威嚇・検閲・強制閉鎖の危険に直面し、調査報道はますます危険なものとなっている。
2024年12月4日、環境ジャーナリストのチョウン・チェン(Chhoeung Chheng)氏がブオン・パー野生生物保護区付近で違法伐採を調査中に銃撃され、3日後に亡くなった。2025年5月に容疑者1名に有罪判決が下ったが、不処罰がまん延する中では極めて稀な例外だ。
カンボジア当局は、英国人ジャーナリストのジェラルド・フリン氏が「偽造」ビザを使用したと主張し、ブラックリストに載せた。カンボジアのカーボンオフセット事業を批判するFrance24のドキュメンタリーに出演した直後のことだった。
2025年7月31日、タイ・カンボジア国境で発生した軍事衝突のその後を取材していたジャーナリスト2人が逮捕された。その後、刑法445条の反逆罪で起訴された。有罪になると刑期は7年~15年だ。当局は、2人が立入禁止の軍事区域を撮影し、国防に有害な情報を提供したと非難した。
国連のカンボジアの人権状況に関する特別報告者は、国連人権理事会への年次報告で、人権活動家や「反体制派と見なされた」人びとが、表現の自由や平和的集会の権利の行使を理由に扇動罪などで訴追されていると指摘した。
国籍法
2025年半ば、政府はカンボジア国内法において国民の国籍剥奪を禁じる規定を撤廃する憲法改正と関連法を成立させた。フン・セン元首相・現上院議長は6月27日、「外国と結託してわが国に害を及ぼす」カンボジア国民の国籍剥奪を検討するよう司法大臣に指示したと述べた。
これにより、反逆罪で有罪とされたり、国益に反する行為をなしたと見なされたりした人の国籍剥奪が可能になった。カンボジアの市民社会団体は、この法律が曖昧で恣意的な適用を招きかねず、野党関係者、海外在住の政府批判者、人権活動家などを標的にする恐れがあると非難した。
環境保護活動家
カンボジア政府は環境保護活動への弾圧を続けている。NGO「マザー・ネイチャー・カンボジア」の活動家たちは2024年に有罪判決を受け、6〜8年の刑を宣告された。2025年5月には、違法伐採を暴露した環境問題の専門記者オウク・マオ(Ouk Mao)氏がストゥントレンで逮捕された。森林破壊や環境被害を明らかにする環境保護活動家たちが「社会秩序の混乱」を招く虚偽情報の流布や扇動の罪で起訴されている。
環境活動家オウク・レン(Ouch Leng)氏は、2024年11月にストゥントレンで、保護林の違法伐採を調査していたところを軍に拘束されたが、その後も嫌がらせを受け続けた。釈放後には警察に自宅が包囲されたため、氏は国外脱出を強いられた。
先住民の権利
カンボジアの先住民コミュニティは、先住民の認定を得ようと努力しているが、カンボジア国内法の煩雑かつ複雑な手続きのせいで、集団として土地権利証を取得できない場合が多い。土地の権利が不安定なため、アグリビジネス、カーボンオフセット事業、観光インフラ建設によって拍車化する強制立退きの危険にさらされている。
先住民コミュニティは、搾取的なマイクロファイナンス融資の被害に直面している。マイクロファイナンス融資では、地方当局が発行する「暫定土地権利証」を、共同所有の土地権利証と重複する場合ですら担保として受け入れてきた。過剰債務によって、土地売却を余儀なくされたり、食料の確保が難しくなったり、伝統的な生活様式や就労機会が失われたりしている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、他団体と共に、融資を受けた先住民の人びとが債務の返済に困り自死した事例を明らかにしている。
世界銀行グループの国際金融公社(IFC)の監察部門は、カンボジアの市民社会団体による申立てにより行った調査を完了したが、本稿執筆時点で結果は公表されていない。2023年の初期審査では、借り手への「被害が疑われる初期的所見」や、先住民に関するIFCパフォーマンススタンダードへの違反が認められ、本格調査が開始された。
国境紛争と移住者の帰国
2025年7月に発生したタイ・カンボジア間での国境紛争では、子どもを含む民間人が死傷し、約30万人が避難を余儀なくされると共に、宗教施設や文化施設に被害が出た。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、戦闘中に人口密集地で爆発性兵器が使用されたと報告した。
衝突に先立ち、係争状態にある国境地帯で地雷が爆発し、複数のタイ軍兵士が重傷を負った。両国は、対人地雷の生産・移転・蓄蔵を包括的に禁止する1997年の対人地雷禁止条約を批准している。カンボジアはまた、タイが国際法で禁止されているクラスター弾を使用したと主張した。10月25日には、プレアビヒア州の国境付近でセルン・ソヴァン君(10)が、自宅近くの畑から持ち帰った物体の爆発により死亡したと伝えられた。カンボジア側はクラスター弾の子弾だと訴えたが、タイ側はこれを否定している。
7月28日に停戦が発効したが、12月8日に戦闘が再び発生し、国境沿いの複数地点で両軍が攻撃を行い、50万人以上が避難した。12月27日、両国は新たな停戦に合意した。その一環として、7月からタイ側に拘束されていたカンボジア兵18人が帰国した。
緊張が高まる中、カンボジア人移民労働者90万人以上が、嫌がらせを恐れてタイから帰国した。カンボジア政府は労働者に対して、仕事を用意するから帰国するようにと呼びかけたものの、帰国した労働者は緊急の支援ニーズが満たされず、生計を営む手段もない状況に置かれている。融資担当者はマイクロファイナンス債務の返済を迫り、重い負債を抱える世帯はさらなる負担に苦しんでいる。
オンライン詐欺拠点
オンライン詐欺拠点のオペレーションを伝える報道は後を絶たない。人身売買の被害者が犯罪行為を強要されている。当局は散発的な摘発を行うが、報じられる人権侵害は依然として組織的だ。被逮捕者は保護されず、救済策もほとんど利用できない。2025年10月、米国と英国は、カンボジアを拠点とする「プリンス・グループ」関連の個人と団体を制裁対象にすると発表した。米財務省外国資産管理局(OFAC)は、この団体をオンライン投資詐欺に関わっているとして国際犯罪組織に指定した。
2025年1月21日、プノンペン市内のオンライン詐欺拠点での拷問の模様とされる動画を含む記事を掲載したとして、ジャーナリスト2人が拘束された。警察は、国家安全保障および国家指導者の威信を脅かす虚偽情報を流布したとして、この2人を扇動罪で起訴した。