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日本:「人質司法」による人権侵害

適正手続と公正な裁判を受ける権利を侵害される被疑者・被告人

(東京)― 日本の「人質司法」によって、刑事事件の被疑者・被告人の適正手続と公正な裁判を受ける権利は侵害されていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公開した報告書で述べた。 

報告書「日本の『人質司法』」(全86頁)は、未決勾留中の被疑者に対する人権侵害の実態を明らかにした。当局は、被疑者が黙秘する権利を侵害し、弁護人の立会いなしで取調べを行い、逮捕を繰り返したり保釈を否定したりすることによって自白を強要し、警察署内で常時監視下での長期の身体拘束を行っている。日本政府は、刑事訴訟法の改正を含む広範な改革を早急に実施し、被拘禁者に対して公正な裁判を受ける権利を保障し、警察官や検察官のアカウンタビリティ(責任)を高めるべきである。 

「日本の『人質司法』は、無罪の推定、迅速で公正な保釈審査、取調べ中の弁護人へのアクセス(相談)などの被疑者・被告人の権利を侵害している」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗は指摘する。「人権侵害にあたるこうした実務慣行は、被疑者・被告人の人生や家族を破壊し、えん罪も生み出している。」 

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2020年1月から2023年2月にかけて、栃木、千葉、東京、神奈川、愛知、京都、大阪、愛媛の8都府県で調査を実施した。調査員は、その時点で刑事事件の取調べを受けているか、起訴されている、あるいはそれらの経験がある30人に対面またはオンラインでインタビューした。またヒューマン・ライツ・ウォッチは、弁護士、研究者、ジャーナリスト、検察官、被疑者・被告人の家族からも話を聞いた。 

日本の刑事訴訟法は、検察官が起訴するまで被疑者を最大23日間拘束することを認めている。捜査当局は、被疑者は身体拘束中ずっと取調べを受ける義務があると刑事訴訟法を解釈している。黙秘権を行使しても取調べは続けられ、捜査官は被疑者に、質問に答え、容疑をかけられた犯罪について自白するよう迫り続ける。 

多くの被疑者は、警察の常時監視下にある警察署内の留置場に収容され、接見等禁止命令によって家族への連絡すらできないことも少なくない。 

裁判官は、捜査員による再逮捕や勾留延長の請求をしばしば認めている。起訴前の逮捕・勾留には最長23日間という制限があるが、未決拘禁の実質的な歯止めにはなっていない。捜査官は、別件の軽微な容疑で被疑者の身体を拘束できるし、実質的に1つの事件を複数に分割して、繰り返し逮捕・勾留する理由とすることもできるからだ。 

生後7か月だった息子に対する虐待を疑われて傷害罪で2018年9月に逮捕され、のちに嫌疑不十分として不起訴処分になったT・ヒデミ氏はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、黙秘権の行使後も取調べが続いたと語った。「逮捕後すぐに、黙秘すると警察に伝えました。すると刑事はイライラした様子で、それでも息子に暴行を加えたと自白させようと、取り調べを続けました。」 

起訴前勾留中の被疑者は、保釈を請求することができない。起訴後ようやく保釈請求ができるようになっても、自白していない又は黙秘しているなどの場合には、裁判官から保釈の許可を得ることが難しいことが多い。未決拘禁は数ヵ月、場合によっては数年続くことすらある。 

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調べによれば、2020年時点で、裁判官が検察官の勾留請求を認めた割合は94.7%であり、裁判での有罪率は99.8%だ。 

日本も批准する、国連の「市民的及び政治的権利に関する国際規約」は、刑事上の容疑で逮捕または抑留された者は、「速やかに」裁判官の面前に連れて行かれるものとする。国際人権(自由権)規約委員会は、48時間が裁判官に引き合わせるのに通常十分な時間であり、それ以上の遅れは「絶対に例外的でなければならず、また状況を勘案して正当化される場合でなければならない」としている。さらに同規約は、原則として公判前の勾留は避けるべきとしている。 

ヒューマン・ライツ・ウォッチと一般財団法人イノセンス・プロジェクト・ジャパンは、「人質司法」の廃止を訴えるキャンペーンを2023年6月に開始することも本日発表した。 

「日本政府は刑事司法制度改革にただちに着手し、すべての人が持つ、適正手続と公正な裁判を受ける権利を尊重する制度にすべきだ」と、前出の土井代表は述べた。「日本は、起訴前の身体拘束中に保釈を申請する権利を保障し、保釈に関する規定を、無罪の推定と個人の自由に関する国際基準に沿ったものに改正すべきである。 」

証言の抜粋

佐戸康高氏は、2017年10月に逮捕され、14ヵ月間拘禁された後に保釈された。氏はこう語っている。

黙秘を続けようと試みましたが、「やましいから黙秘するのだ」「黙秘により周りにどれだけ迷惑がかかっているかわかってるのか」などとずっと非難されました。朝の9時から正午、午後1時から4時、夜の7時から9時~10時までと、1日3回検察から取調べがあり、それが最初の20日間続きました。休みになったのは、弁護士接見か病院受診のときだけでした。 

傷害致死罪で起訴され、裁判にかけられた吉野量哉氏は、2010年に受けた取調べについてこう述べた。

警察に、何が起きたか鮮明に話しましたが、全く違う事件のように話を進め誘導してきました。逮捕直後、夜から明け方まで取調べが続いたあと、5時半頃に留置場所に送られて、朝食後また取調べが再開しました。そして逮捕2日目に検察庁に送られました。検察は、私が怒りにまかせ、自ら暴力を振るう目的で亡くなった男を何発も殴ったのだと自白を強要してきました。警察と検察からの取調べは朝から晩まで続きました…警察署で朝からの取調べが終わると、腰縄と手錠をつけられて、検察まで連れていかれました。そこで20時頃まで待たされたあと、担当の検察官から「どう、しゃべる気になった?」と聞かれる。そんな嫌がらせと自供を迫られる毎日でした 。

2015年、N・カヨ氏は詐欺を共謀した容疑で逮捕された。逮捕・勾留された後、裁判官は罪証隠滅のおそれがあるとして接見禁止命令を出した。氏は1年間、弁護人以外の人と面会することができず、手紙も受け取ることができず、成人した2人の息子には裁判長の許可を得てしか手紙を書くことができなかったという。氏はこう述べた。 

東京拘置所に移動した後、2016年4月から2017年7月まで「鳥かご」(独居室)でした。とても寒くて、野原に布団を敷いて寝ているようでした。初めてしもやけになりました。声を出すのは1日2回、朝と夕方の点検の時に自分の番号を言うだけ。声が枯れて出なくなりそうでした。逮捕から1年後に接見禁止がとれました。でもその後も独居室のままでした。 

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