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ミャンマー:根本的に欠陥がある選挙

ロヒンギャ・ムスリムの除外、不平等な報道アクセス、批判者の逮捕

A resident checks voting lists at an administrative office in Yangon ahead of Myanmar’s upcoming general election, July 25, 2020.  © 2020 Sai Aung Main/AFP via Getty Images

(バンコク)―ミャンマーの選挙プロセスは、市民から政府を公正に選ぶ権利を奪う組織的な問題と権利侵害によって損なわれている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。 2020年11月8日に議会・州・地方自治体選挙が予定されている。

2015年の国政選挙では国民民主連盟(以下NLD)が圧勝した。同党は1990年の選挙でも圧倒的勝利をおさめたが、軍に結果を無効にされていた。今回はNLDが15年に政権を奪還して以来初めての総選挙となるが、国政選挙をめぐる諸問題は依然としてそのまま存在する。ロヒンギャ・ムスリムの有権者および候補者の大半が選挙に参加できない差別的な市民権および国内法の数々、軍が議席の25%を保有する制度、政府批判者の刑事訴追、選挙当事者の平等ではない国営メディアへのアクセス、独立した選挙管理委員会および不服申立メカニズムの欠如などだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長ブラッド・アダムズは、「ミャンマーが2度目の複数政党国政選挙を実施するのは画期的なできごとだ」と述べる。 「だが、議席の4分の1が軍用に確保され、国営メディアへのアクセスが不平等で、政府批判者が検閲や逮捕に直面し、ロヒンギャ・ムスリムが投票を拒否されている限り、選挙が自由かつ公正なものとはいえない。」

国内では近ごろ新型コロナウィルス感染症の症例が急増しているが、ミャンマー選挙管理委員会は選挙を予定通りに行なうとしている。 過密状態を避けるために投票所の数を増やし、投票所で働く職員には防護具を支給するという。一方、野党の多くは、現状では選挙運動が不可能なため投票を延期すべきだという見解を示している。

感染増加のため、当局は商業首都ヤンゴンおよびマンダレー地方域の一部、ラカイン州、モン州、バゴー地方域、エーヤワディ地方域などで外出禁止令発令。 「エッセンシャル(必要不可欠)」な事業に従事する者のみが、該当地域の郡区間移動を許可されている。

9月20日に政府は報道活動を不必要な事業と宣言。多くの記者が外出禁止令の対象となったため、選挙関連イベントを報道するために移動したり、新聞や雑誌を印刷・出版することが難しくなった。多くの著名報道機関が新聞の販売を停止した一方で、政府を支持する2つの国営新聞は印刷を続けることができている。

アダムズ局長は、「何十年にもわたって軍事的な抑圧に苦しんできたNLDの政府は、報道の自由なき選挙が公正ではないことを認めるべきだ」と指摘する。「政府は決定をくつがえして、報道関係者を『必要不可欠』であると宣言しなければならない。」

ミャンマー政府は、1982年の差別的な国籍法および選挙法を用いて、何世代にもわたってミャンマーに暮らしてきたロヒンギャ・ムスリムの諸権利を剥奪し、選挙への立候補も阻止している。多くのロヒンギャ・ムスリムは、2015年の勝利後、NLDのアウンサンスーチー党首がこれらの法律および政策を変更してくれるだろうと期待を寄せていた。しかしNLDは代わりに、ラカイン州のロヒンギャ・ムスリムに対する民族浄化や人道に対する罪、およびジェノサイドに該当する可能性のある罪を犯した軍をことあるごとに支持してきた。

隣国バングラデシュのロヒンギャ難民100万人およびその他の国々に散らばった数十万人も投票できない。関係当局は、ミャンマー本土に残っているロヒンギャ・ムスリムの大半(その数推定60万人)が、有権者登録して投票することを禁じている。これには、2012年以来ラカイン州中部の国内避難民収容所で、迫害、隔離政策ほか重大な人権侵害(人道に対する罪)に苦しみつつ拘禁されている約13万人も含まれる。7月と8月に全国各地で掲示された有権者リストにロヒンギャ・ムスリムの収容所や村は含まれていない。

国際選挙組織の支援を受けて開発されたミャンマー選挙管理委員会の「myVoter2020」アプリには、候補者とその両親に関する不必要かつ扇動的な人種・宗教情報が含まれている。たとえば、ラカイン州の候補者で、民主人権党のエイ・ウィン(Aye Win)としても知られるダス・ムハメド(Dus Muhammed)氏については、「ベンガル系ビルマ人」と記載されている。ベンガル系とは、ビルマ人民族主義者がロヒンギャ・ムスリムに対して広く使っている人種差別的な用語だ。

アダムズ局長は、「アウンサンスーチー氏がロヒンギャ・ムスリムの有権者と候補者を除外した選挙の実施を決意したことにぞっとする」と述べる。「氏はロヒンギャの人びとに重くのしかかる隔離政策体制下で真の民主主義が繁栄することはないと知っているはずだ。」

選挙関連の主要問題
自由かつ公正な選挙のために必要不可欠と国際的に認識されている多くの要素が、ミャンマーの選挙プロセスにはない。国際基準には、表現・結社・平和的な集会・移動の自由、暴力・脅迫・威嚇なき環境における候補者・有権者の選挙参加、普遍的かつ平等な参政権、公職に立候補する権利、秘密投票する権利、差別されない権利などが含まれる。

これら権利の行使には、効果的かつ公平かつ独立し、かつ説明責任をはたせる選挙管理委員会が求められる。そして、国のリソースや偏見のない国営メディアへの同等な全候補者/政党のアクセス、不服や争いを解決するための独立・公平なメカニズムが必要だ。

ロヒンギャ・ムスリムに対する選挙法の制限
ミャンマーのロヒンギャ・ムスリムは、投票権や立候補権を事実上否定されている。選挙法第10条が候補者の両親が2人ともミャンマー市民であることを義務付けているからだ。2010年の政党登録法は14年に改正され、政党を結成またはそれに参加する者は完全な市民でなくてはならないと定められた。2010年および12年の選挙では、多くのロヒンギャ・ムスリムが市民権を有していないものの、選挙に参加することを許された。

しかし2015年2月、暫定的市民権として多くの少数民族に支給されていた一時登録証明書(ホワイトカード)は期限切れとなり、有権者資格も取り消されると当時の軍事政権が発表。この決定はロヒンギャ・ムスリムを対象としていたが、結果として約70万のロヒンギャならびに数万人の中国系およびインド系の権利が剥奪された。

多くのロヒンギャ系候補者は、当局が出生時の両親の市民権を証明できないとして、選挙法第10条に基づき立候補を禁じられている。公務員の父親のもとに生まれ、ミャンマーでその生涯を過ごしてきたヤンゴン在住のアブドゥル・ラシード(Abdul Rasheed)氏もその1人だ。ミャンマーに3つあるロヒンギャ系政党の1 つである民主人権党のキャオ・ミン(Kyaw Min)党首も1990年の選挙に出馬し、党員数千人とともに政治囚として何年も過ごしてきたにもかかわらず、立候補を禁じられている。

争地域におけるインタネットの遮断
ラカイン州とチン州で政府が行っているインターネット規制は、該当する地域の有権者が候補者や政党、政治的立場に関する情報にアクセスする力に重大な悪影響をおよぼすことになる。2019年6月21日に当局は、ラカイン州の8つの郡区(ムラウク・ユー、ブティダウン、ラテーダウン、ポンナーチュン、ミェーボン、マウンドー、ミンビャ、チャウクトー)およびチン州のパレトワ郡区でモバイルインターネットの遮断を命じた。マウンドー郡区の遮断は今年5月2日に解除されている。が、その他の8郡区では引き続き規制が適用され、約100万人がその影響を受けている。

運輸通信省は6月23日にインターネット規制は8月1日までの暫定的延長と発表したが、3Gおよび4Gサービスは依然として遮断されたままで、2Gデータネットワークのみが利用可能な状態だ。2Gの速度は非常に遅く、ビデオコールや電子メールなどのサービス利用や、各政党およびニュースのサイト上で写真や動画を含むページへのアクセスができない。

8月1日、ノルウェーのモバイル通信サービス事業者テレノール(Telenor)は、運輸通信省がすべてのモバイル通信サービス事業者に対し、8つの郡区で3Gと4Gモバイルデータサービスへのインターネット規制を10月31日まで延長するよう指示した旨を明記したメディアリリースを発表。 同社は「『有用な』インターネットサービス(の欠如)および一般市民への悪影響」への深い懸念を表明した。

紛争で利を剥される有者と候補者
全国各地で起きている政府軍と民族武装勢力間の紛争は、各地の選挙計画や運動、および自由かつ公正な選挙の実施を非常に複雑なものにしている。ラカイン系武装集団アラカン軍が関与する戦闘で、選挙管理委員会はラカイン州の一部の地域で有権者リストを掲示できなくなった。自由かつ安全な選挙を実施するために必要な行政インフラの大半は、ほぼ2年間絶え間なく続いた戦闘のなかで崩壊してしまった。

何十年にもわたる武力紛争により、全国の長期避難民収容所に23万人超が暮らし、国外脱出した数十万人は難民となっている。地元グループの推定によると、2019年1月以降、ラカイン州とチン州で起きた戦闘により、さらに20万人が避難を余儀なくされている。選挙規定は国内避難民に対し、現在の居住地に最低90日間住んでいることを証明する文書の提出を義務づけている。この規定により、多くのラカイン仏教徒、チン民族、ムロ民族が選挙参加をめぐり影響を受ける。

カチン州、カレン州、シャン州の一部の人も投票できない可能性が高く、自治地区のワ州で投票は行われない。選挙管理委員会は軍の勧告に基づき、選挙区の一部または全体の取り消しを必要に応じて10月に行うと述べている。

批判者の刑事
数十人の学生が、ラカイン州の戦闘終了やインターネット規制の全面的な即時解除を求めるパンフレットとステッカーを配布したのち、最高で2年の刑が科される可能性のある容疑で訴追または逮捕されている。全ビルマ学生連盟のメンバーによると、当局は刑法第505条(b)を適用したり、デモ活動の事前届けを怠ったとして、多くの学生を訴追した。

刑法第505(b)条は、「公衆に恐怖や警戒心を抱かせる意図をもつか、それらを抱かせうる言説や流言、報道を行い、公表し、あるいは流通させる」ことを禁ずる過度に広範な法律で、政府に批判的な言論を弾圧するために長く適用されてきた。ミャンマーの平和的なデモ活動および集会法は、主催者がデモ活動または集会の48時間前までに事前届けを提出するよう義務づけている。違反には最高で3カ月の刑と罰金が科せられる。

独立系候補者のHtay Aung氏は、アウンサンスーチー国家顧問兼外相が公的資金を選挙運動に悪用していると非難したあとに、刑法第124(a)条のもと、教唆扇動罪で訴追された。訴追はヤンゴンのパズンダウン郡区の地方行政官が行い、同氏はインセイン刑務所に収監されている。

国営メディアへの不平等なアクセス; 報道の自由の規制
7月、選挙管理委員会は、国政選挙投票日までの2カ月間国営テレビ局およびラジオ局で、各政党が選挙演説や政策を語る機会を得ると発表。しかし、こうした政見放送では、放送内容に関して過度に広範かつあいまいな規制に各政党が従い、事前に内容の承認を受けなければならない。これは言論の自由をめぐる国際基準に抵触している

NLD率いる政府は、ことあるごとに国営メディアを利用してその政策を推進し、アピールに成功してきたようだが、各野党はその機会を1度しか与えられていない。そのうえ少なくとも4党が、選挙管理委員会による政見放送の検閲があったとして国営メディアでの放送を辞退した。

新社会民主党は、物議を醸しているレトパダン銅鉱山について言及することや、そのほかの土地の権利問題について言及することを禁じられたと述べている。 国民民主勢力党は、現在NLDが大多数を占める議会を一党制と呼ぶことや単純小選挙区制から比例代表制への変更を求めることについて検閲を受けたとしている。人民党党首によると、同党は雇用機会の創出と国民が十分な収入を得る必要性についての意見を削除するよう言われたことから、政見放送を辞退したという。The Union National Democracy Partyも同じく選挙管理委員会から検閲を受けたのちに辞退している。

9月、選挙管理委員会のHla Thein委員長は、選挙が自由で透明性を保ち、信頼できるものであるためには記者や報道の存在が必要不可欠であると認識していると述べたが、記者や民族系報道機関の迫害は続いた。ラカイン系報道機関Development Media GroupのAungMarm Oo編集長は、事案の「開始」が宣言されてから1年以上あとになって、違法結社法に基づく訴追に直面している。Voice of MyanmarのNayMyo Lin編集長は、のちに取り下げられたものの、テロ対策法に基づいて訴追された。

政府はまた、国家安全保障上の懸念と「偽ニュース」の出版を主張し、インターネットサービス事業者に対して、数多くの民族系報道機関のサービスを遮断する命令を発出。8月には活動家団体Justice for Myanmarのそれを遮断するよう事業者に命じた。同団体は軍関連の汚職を明らかにするための活動をしているが、当局は「偽ニュース」を出版していると主張している。

非民主的な憲法
軍が利権を保持するために実施したみせかけの国民投票ののちに公布された2008年憲法のもと、議員の75%のみが選挙で選出され、上院下院議員ののこり25%は軍が指名する。つまり、 軍に属していない政党は、議会の過半数を得るために75%の議席の3分の2以上を獲得する必要があるのに対し、軍に属している政党なら議席の3分の1強でよいことになる。

2015年の圧勝で下院の議席の86%を占めたNLDは、憲法改正に向けたキャンペーンを展開した。が、改正には75%の賛成票が義務づけられているため、軍が指名した議員25%が得られず改正できなかった。以来、軍の拒否権を廃止する努力は失敗に終わっている。

アウンサンスーチー氏が大統領にならないよう、軍は大統領が外国市民権を有する配偶者や子どもを持つことができないという条文を憲法に含めた。同氏の2人の息子は外国の旅券を保有している。氏は2015年の選挙後、国家顧問というあらたな役職を設置することでこの問題を部分的に回避したが、大統領にはなれないままでいる。

全ビルマ労働組合連盟と全ビルマ学生連盟は、軍が起草した憲法がより民主的に改正されるまで、選挙のボイコット求めている

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