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ミャンマー:避難民キャンプは新型コロナウィルス感染症の火口箱

移動・医療・インターネット・人道支援に対する規制を解除せよ

A city worker disinfects government offices as a preventive measure against the coronavirus, Yangon, Myanmar, March 25, 2020. © 2020 AP Photo

(バンコク)―ミャンマー政府は、全土に広がる紛争および暴力で避難を余儀なくされた推定35万人の間で、新型コロナウィルス感染症の感染が拡大することを阻止するために緊急措置を講じるべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。過密状態・モバイルインターネットの遮断・人道支援の阻止・移動制限により、ラカイン、カチン、シャン、チン、カレン各州の国内避難民コミュニティが、とりわけ感染に対して脆弱な状態におかれている。

ミャンマーの貧弱な医療体制から新型コロナウィルス感染症の予防管理能力が憂慮されるなか、国内避難民はさらに高いリスクに直面。その大半が、医療、清潔な生活飲料水、衛生状態ほか重要な公共サービスの標準からかけ離れた環境にあり、危険なほど混み合った避難民キャンプに閉じ込められている。そのうえ、多くは基礎疾患や慢性疾患を抱えており、ウィルスの深刻な影響を受ける可能性が高い。

国営メディアは、政府が国内避難民のために新型コロナウィルス感染症の対策計画を策定中と発表したが、人道支援従事者らによると、その草案について相談されたことも、感染拡大への対策をめぐる指導を受けたこともないという。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長アジア局長のブラッド・アダムズは、「ミャンマー政府および軍による長年の紛争、責任放棄、人権侵害的政策により、数十万人の避難民が公衆衛生上の大惨事の道をたどっている」と述べる。「当局は、情報、人道支援、症状が出ている人の迅速な検査および隔離を含む医療サービスに、これら避難民が確実にアクセスできるようにする必要がある。」

ミャンマー政府は、先週、新型コロナウィルス感染症の最初の症例を公式に確認。同国ではそれまで1件も症例が報告されていなかったことで疑問が高まっていた保健省によると3月30日現在、10件の感染ケースが確認されており、55件の検査結果が保留中、全国の病院で430人が経過観察下にある。が、検査能力が限定的かつぜい弱な医療体制から、実際の感染者数はこれよりもかなり高いとみられている。政府は先週、ミャンマーに入国する外国人および自国民全員に、強制的な2週間の隔離を課すなど、より厳しい規制措置を導入した。

ミャンマーでは1万人あたりの医師の割合が6.1人と、WHOの推奨する最低数に達していない。農村地帯や紛争の影響を受けた地域では、その割合がさらに大幅に下がる。ラカイン州のある郡区には、8万3,000人あたりに医師は1人(1万人あたり0.12人)だ。 現在、新型コロナウィルス感染症の検査を処理できる医療施設は国内にひとつ、検査キットは1,700人分のみで、世界各地で医療制度を圧迫している感染の拡大に対応できる設備がととのっているとはいえない。政府はいまだ、ラカイン州で感染症例を取り扱う病院を指定さえしていない

避難民キャンプの過密状態は常態化しており、物理的な距離を保つのはほぼ不可能なため、感染リスクは大幅に高まっている。政府はこれまで何年も、各地のキャンプ建設および維持をめぐり、十分なスペースや適切な土地の割り当てを拒んできた。その上、国内避難民が出身地や選んだ場所に帰還あるいは移住する権利も否定し続けている。

ミャンマーは国際人権法に基づき、民族・宗教・市民権の有無・年齢・性別を問わず、必要不可欠な医療への平等なアクセスを確保する義務を負っている。これまで複数の国連権利専門家が述べているように、パンデミック対策において「各国は、この危機によって不釣り合いに大きな影響を受けるリスクがもっとも高い人びとに支援の手が届くよう、追加の社会的保護措置を講じなければならない。」

ミャンマー政府は、避難民キャンプの過密状態の緩和や、生活飲料水・衛生状態・医療サービスの改善などで、キャンプにおける新型コロナウィルス感染症対策の国際ガイドラインに従い、スペースやリソースを割り当てるなどの予防・治療対策を確保すべきだ。保健省は専門家や人道機関に相談して感染リスクを削減し、キャンプにいる国内避難民や働いている職員を保護するための計画を公開する必要がある。隔離措置は完全に必要な場合にのみ限られ、その適用範囲・期間は限定されていなければならない。

アダムズ局長は、「ラカイン州、カチン州、シャン州北部の避難民キャンプにおける保健状態はすでに悲惨なものだったところに、新型コロナウィルス感染症が発生し、これら脆弱なコミュニティは破壊の危機に瀕している」と指摘する。 「ドナーは支援の準備ができている。が、ミャンマー政府が移動の制限をやめ、求められている迅速かつ実質的なウィルス対策のために、自由なアクセスを支援団体に許可しない限り、何も先に進むことはない。」

ラカイン州中央部のロヒンギャ難民
ラカイン州中央部では、2012年以降、約13万人(その大半はロヒンビャ・ムスリム)が野外のキャンプに収容されている。恣意的に移動の自由を否定されているため、事実上、ミャンマー政府および治安部隊に悪質な条件で投獄されたのと同様だ。医療施設へのアクセスはかなり限定的で、受付時間が限られた国営の保健センターが2つあるのみだ。床数も数えるほどで、いずれも遠隔地のキャンプからはアクセスできない。それ以外は臨時の移動クリニックがあるのみで、いずれにせよ、新型コロナウィルス感染症の検査能力は有していない。

深刻な健康問題に直面している人びとにとって、州都にあるシットウェ総合病院への紹介状を緊急で入手することは、事務的な処理に時間がかかる上、費用も高い。キャンプにいるロヒンギャ避難民のわずか16%しか、必要な治療が受けられていないという報告がある。ラカイン州のその他の場所にいるロヒンギャ避難民も、同様に人権侵害的な医療サービスへの制限に直面している。

政府は、紹介状システムやシットウェ総合病院の利用に必要な金銭的条件を廃止するなどし、かつ24時間年中無休の救急医療サービスを増やして、ロヒンギャ・ムスリムほか少数民族が公平な医療へのアクセスを得られるよう、早急に規制を解除すべきだ。

キャンプ内の生活飲料水周りおよび衛生設備はかなり不十分で、たとえば1つのトイレが最大40人で共有されている。水道設備は多ければ600人が使う。新型コロナウィルス感染症などの伝染性疾患は、混雑で環境が悪化しているキャンプ内の居住施設内で簡単に広がってしまう可能性が高い。キャンプの診療所では、たとえば結核の発病率が通常の9倍と元々高く、ほかに疥癬や赤痢、インフルエンザの罹患率も近隣の村の診療所よりはるかに高いことがわかっている。

いずれのキャンプも、国際基準で推奨されている最低限のスペース(1人あたり45平方メートル)が確保できていない。実際は平均20平方メートルと、最低基準の半分未満だ。 もっとも混雑したキャンプでは、1万2,500人のロヒンギャ難民が1人あたりわずか7平方メートルのスペースで暮らしている。

難民支援をブロック
地元団体によると、ラカイン州およびチン州では2019年1月以降、ミャンマー軍と反政府勢力アラカン軍の紛争により、少なくとも10万人の一般市民が避難を余儀なくされた。その大半はラカイン民族で、村落や僧院に設置された間に合わせの避難所に身を寄せている。地元住民は、一時的な避難所で清潔な生活飲料水にアクセスすることの難しさや、それに伴う保健衛生上の悪影響、増え続ける栄養失調のケースなどを訴えている。紛争への対応として、当局はラカイン州の半数にあたる郡区で人道支援活動を制限したことで、命を救うための物資の供給が困難あるいは不可能になった。

10万7,000人超が、ミャンマー軍と民族武装集団との間の継続的な戦闘によって避難し、カチン州とシャン州北部の避難民キャンプに暮らす。人道支援団体への厳しい政府の制限で、医療、住居、清潔な生活飲料水、衛生設備、および食糧へのアクセスがさらに悪化している。当該地域の約7万人の避難民、とりわけ政府の管理が及んでいない中国国境沿い一帯の人びとは、十分な支援を拒否されている

政府は、とりわけ新型コロナウィルス感染症のスクリーニングや検査といった緊急医療サービスのために、人道支援をめぐる全面的な制限を解除し、人道支援団体および国連機関に対し、避難民への即時かつ無制限かつ持続的なアクセスを許可する必要がある。ミャンマー軍および民族武装集団は、一般市民が戦闘に巻き込まれるのを防ぎ、かつ医療他の支援がぜい弱な立場に置かれている人びとに届くよう保障しなければならない。

インターネットの遮断
2019年6月以降、政府は紛争を理由にラカイン州およびチン州でモバイルインターネット通信に規制を課した。現在、紛争下にある9つの郡区で約100万人がその影響を受けている。インターネットおよび人道支援の遮断地域は重複しており、新型コロナウィルス感染症の症状が出ても、多くの人が医師の指示をあおげないことになる。このような全面閉鎖は国際的な人権法に反する。国家によるインターネットのアクセス制限は必要かつ適度であることが義務づけられているからだ。

情報へのアクセスは健康に生きる権利の重要な部分を占める。国連専門家が述べたように、パンデミックの際は「政府がインターネットの遮断を控えることが非常に重要だ[後略]。とりわけ非常事態時は情報へのアクセスが必要不可欠であり、インターネットへのアクセスの広範な制限は治安維持や国家の安全保障を根拠に正当化できるものではない。」ミャンマー政府はインターネットの遮断をただちに解除し、ウィルスや公共サービスへのアクセス、サービスの中断情報、その他の対策について、複数の言語、そして読み書き能力の低い、あるいはない人にも伝わるかたちで、正確かつ最新の情報を提供しなければならない。

アダムズ局長は、「新型コロナウィルス感染症の迫り来る脅威は、責任放棄や人権侵害から緊急保護へと、紛争の影響を受けた人びとへの対応の変更をミャンマー政府に突きつけている」と述べる。「避難民キャンプにおける対策を優先し、長きにわたる医療への壁を早急に取り除く必要がある。さもなければ、キャンプ内および全国で予防可能な死を招くことになる。」

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