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A male resident is chained to a wooden platform bed at the Bina Lestari healing center in Brebes, Central Java. The chain is so short that it does not allow him to move around and he is forced to eat, sleep, and urinate in this room. © 2016 Andrea Star Reese for Human Rights Watch 

(ジャカルタ)— インドネシアでは心理社会的障がいをもつ人びとが、手かせ足かせをはめられることが多く、また虐待行為が常態化している施設に強制収容させられている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。

報告書「地獄の生活:インドネシアでまん延する心理社会的障がい者に対する人権侵害」(74ページ)は、精神障がいをもつ人びとが本人の同意なしに、鎖によって動きを封じられたり、過密状態の不衛生な施設内にしばしば幽閉されている実態を調査・検証したもの。こうした現状は、精神障がいに関する偏見や、地域に根ざした十分な支援サービスまたは精神保健医療の欠如が理由だ。施設で人びとは、身体的暴力や性暴力、電気ショック療法など望まない治療、幽閉、身体の拘束、強制避妊を余儀なくされている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの障がい者の権利調査員で、本報告書を執筆したクリティ・シャルマは、「精神障がい者に手かせ足かせをはめることはインドネシアの国内法に反するにもかかわらず、この残虐な慣例がいまだ広く残っている」と指摘する。「家族は他になす術を知らず、政府も人道的な代替手段をうまく提供できていないため、人びとは何年も鎖で拘束されたり、木製の檻やヤギ小屋に閉じ込められている。」

 

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、心理社会的障がいのある成人および子ども、その家族、介護者、メンタルヘルスの専門家、施設の責任者、政府関係者、障がい者の権利団体関係者など、149人に聞き取り調査を実施。また、ジャワ島とスマトラ島にある18の施設を訪問した。具体的には精神科病院や社会福祉施設、宗教的な癒しを提供するセンターなどで、手かせ足かせをはめられたり幽閉されている人びと、または最近解放された人びとの事例175件を、5州で調査・検証した。

インドネシアで精神障がいをもつ5万7千人超が、これまで少なくとも生涯に一度は「pasung」(手かせ足かせで拘束されること、または狭い空間に閉じ込められること)の対象にされてきた。公開されている政府の最新データによると、現在も約1万8,800人が身体の自由を奪われているという。政府は1977年にこの慣習を禁じたが、身内や伝統的なヒーラー、施設関係者などが時には何年も続けて、心理社会的障がい者の自由を奪っている。

ある事例では、心理社会的障がいをもつ女性が隣人の作物を破壊するため、その父親が宗教的ヒーラーに相談をしたところ、部屋のなかに娘を閉じ込めるようになったとヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。娘が一度穴を掘って部屋の外に出ようとしたため、後手に縛ったという。この女性は解放されるまでの15年間を裸のまま、がれきのなかで寝食や排泄をしながら過ごした。

インドネシア政府はこうした慣習をなくすために、いくつかの措置を講じてきた。保健省および社会省が、手かせ足かせ禁止キャンペーンをそれぞれ開始。新しい精神保健法は、プライマリーヘルスケアに精神保健医療を統合することを義務づけた。加えて、政府関係者、医療従事者、政府機関スタッフからなる複数のチームが、人びとを拘束から自由にする任務を与えられている。しかし、中央集権的ではないインドネシア政府の体制の影響もあり、地方自治体レベルでの実行は遅々として進まずにいる。

人口約2億5千万人のインドネシアだが、精神科医の数はわずか600〜800人で、これは30〜40万人に1人の計算だ。しかも全土に48ある精神科病院のうち半数以上が、全34ある州の4州のみに集中している。 政府のデータによると、2015年政府予算総額のうち、保健分野に割り当てられたのは1.5%。精神保健サービスへのアクセスを希望する可能性がある人びとの90%が、サービスの不足が原因でそれを利用できないでいる。政府は2019年までに、精神保健医療も含む国民皆保険(ユニバーサルヘルスケア)の実現を目指す。

数少ない施設や、存在する限られたサービスも、心理社会的障がいをもつ人びとの基本的人権をかえりみず、人権侵害に大きく加担することが多い現状も本報告書の調査で明らかになった。心理社会的障がい者の女性アスミラ(Asmirah)さん(22歳)は、「地獄に住んでいるのを想像してみて。ここでの生活がそうよ」と、強制的に入所させられていたジャワ島ブレベス県にある宗教的ヒーリングセンターについて語った。

インドネシア国内法の下、心理社会的障がい者を施設に強制収容することは比較的容易だ。本報告書の調査では強制的な拘禁の事例が65件確認されており、かつては施設で暮らしていた聞き取り調査の対象者のうち、自発的に入院・入所したと答えた人は皆無だった。なお、ヒューマン・ライツ・ウォッチが確認した入院・入所期間の最長例は、社会福祉施設での7年間および精神科病院での30年間だった。

一部の施設では、深刻な過密状態と不衛生な環境でシラミや疥癬がまん延していた。ジャカルタ郊外の社会福祉施設パンティララス2(Panti Laras 2)では、合理的に判断しても30人以上の収容は不可能という部屋に、約90人の女性が暮らしていることも本調査で分かった。

前出のシャルマ調査員は、「これら多くの施設に収容されている人びとは、単に外に出たり、入浴することさえ許されておらず、衛生状態のレベルは最悪だ」と述べる。「寝食や排泄を同じ空間ですることが強制的に常態化してしまっている。」

調査で訪れた16の施設のうち13で、入所者が日常的に薬の服用を強制されたり、調合された「魔法」ハーブや伝統的ヒーラーによる激しいマッサージ、耳元でのコーラン朗読といった代替「治療」の対象となっていた。 訪問した6つの精神科病院のうち3つでは、麻酔も同意もないまま電気ショック療法が行われており、ある1つの病院では子どももその対象に含まれていた。

また不服従やけんか、性的行為への罰などとして、強制隔離が常態化していたことも分かっている。

本報告書では身体的暴力や性暴力の事例についても調査・検証。訪問した施設のうち7つで、男性スタッフが意のままに女性専用エリアに入れたり、女性エリアを担当していた。これは女性や少女に対する性暴力のリスクを高めることとなる。ヒーリングセンターでは、男性と女性が隣り合わせで鎖で繋がれており、女性が虐待を受けても逃げ場がない状況に置かれていた。そして3つの施設では、本人の同意や告知もなしに、女性に対して避妊処置が行われていた。

インドネシア政府は、早急にすべての公立および民間施設に対して検査と定期的なモニタリングを実施するよう命じるべきであり、かつ、心理社会的障がい者を拘束したり、人権侵害を犯している施設に対し行動を起こすべきだ。また、心理社会的障がいをもつ人びとが自らの人生について意思決定をできること、治療のためのインフォームドコンセントを義務化することを保障する措置を講じなければならない。

政府は2014年の精神保健法を改正して、心理社会的障がいをもつ人びとに他のインドネシア人と同様の権利を保障すべきだ。また、インドネシアが2011年に批准した障害者の権利に関する条約に沿うかたちで、障がい者の権利法案(the Rights of Persons with Disabilities Bill)を改正すべきである。

政府は自主的で利用可能な、地域に根ざした支援および精神保健サービスを、心理社会的障がい者たちと協議のうえ策定し、かつ看護師から精神科医まで、精神保健関係者のトレーニングも行うべきだ。

前出のシャルマ調査員は、「幽閉されて全くかえりみられないまま、孤独のなかで15年間も自らの排泄物にまみれて生きている人がいるという事実は、考えるだけで恐ろしいものだ」と述べる。 「多くの人たちが『これは地獄に住んでいるようなもの』と私に語ったが、まさにその通りである。」

皆様のあたたかなご支援で、世界各地の人権を守る活動を続けることができます。

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