今週日本は、水銀の世界的脅威と闘うための歴史的な第一歩を踏み出しました。「水銀に関する水俣条約」の批准国となったのです。この条約は、漁業の町である水俣市にちなんで名づけられました。同市は1950年代に世界でも最悪レベルの水銀中毒公害が発生したことで知られ、約1,700人が犠牲になりました。ひとりの被害者は私に、彼女の父親とその他大勢が、発作に苦しみながら亡くなっていった様子を語ってくれました。ある化学工場が水俣湾を水銀で汚染して、水銀中毒被害をもたらしていたことが発覚するまで、なぜこの町の人びとにそんなことが起きているのか誰も分からなかったのです。
現在でも水銀は重大な健康への脅威です。毎年推定で1,960トンの水銀が、世界各地で空気や水、土に排出されています。水銀がもっとも使われているのは、手掘りや小規模の金鉱山においてです。金鉱石に水銀を混ぜて合金(アマルガム)を作り出すのに用いられています。そして、合金を燃焼させて金を抽出する際に、水銀が気化した有毒ガスが発生するのです。私はガーナやフィリピン、タンザニア、マリで水銀を使った労働に携わっている、多くの大人や子どもと話をしました。みな水銀が脳に損傷を与えたり、健康を害したり、はては死にさえつながることを知りませんでした。
水俣条約はこの水銀の害から人と環境を守ることを目的とするものです。水銀を使わない精錬技術を導入することや、とりわけ有害な水銀使用を廃止すること、水銀に暴露する可能性のある子どもに特別保護の措置をとることによって、金鉱山での水銀使用問題に対処することを、各国政府に対して義務づけています。また、水銀に関わる健康状態の検査および治療も求めています。
水俣病の悲劇から多くを学んだ日本は、水俣条約の締結交渉において重要な役割を果たしてきました。
水俣病被害者の苦しみにむくいるためにも、日本は今こそ、国内外の水銀汚染防止の動きを導いていくべきではないでしょうか。そのためには、自国内産業における水銀使用の段階的廃止、そして同じく廃止を目指したり、水銀中毒の検査実施を目指す発展途上国への技術支援の提供が、日本に強く求められています。