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タイ:ビルマへの帰還を迫られるタイに逃れてきたカレン難民たち

地雷原地帯への送還は生死に関わる問題

(ニューヨーク)- タイ政府はカレン族難民に対し、ビルマに帰還するよう圧力をかけるのを即刻停止すべきだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日こう述べた。国境のビルマ側に指定された「帰還地域」への送還は、難民を人権侵害と地雷の深刻な脅威にさらすことなる。

2月5日、タイ軍当局と行政当局はカレン族3家族12人をタイ国境の仮設避難キャンプから、ビルマ・カレン州側にあるレーペーヘー国内避難民キャンプに送還。この3家族は、ビルマ側で2009年中盤の戦闘後に避難してきたものの、同じ地域に帰還するよう最近指名された30家族の一部。タイ軍当局は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に、帰還は自発的なもののみが実施されると確約した。だが帰還の何週間も前から、難民に帰還を迫る強引なアプローチが続いていた、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

「タイ当局はカレン難民を騙し、脅迫して危険な地域に送還しようとしながら、国際難民法には違反していないと主張する」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ アジア局長のブラッド・アダムズは述べた。「タイ政府は方針を撤回し、これらの難民が地雷の被害に遭ったり、ビルマ軍政の強制労働に動員されたりすることを防ぐべきだ。」

2009年5月と6月にはカレン族約4,500人が、強制労働への広範な徴用と、ビルマ国軍とその代理の武装民兵組織・民主カレン仏教徒軍(DKBA)が反政府組織・カレン民族同盟(KNU)と軍事部門のカレン民族解放軍(KNLA)に対して行ったカレン州北東部での攻撃によって避難民となった。難民はタイ側に越境し、タイ西部ターク県ターソーンヤーン郡にあるノーンブアとメーウスの仮設難民キャンプに身を寄せた。うち約2,400人が現在も、アクセスの悪い国境付近のこれらの仮設キャンプで最低限の生活を送っている。

地元のタイ軍当局は、国境のビルマ側では現在戦闘は行われておらず、タイ側に避難したカレン難民が帰還しても問題はないと主張する。しかしある仮設キャンプの難民たちはヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、ビルマ側にある自分たちの村は地雷原地帯となっており、ビルマ軍とDKBAにポーター(訳注:部隊に随行して食糧や弾薬、物資を輸送する役)として徴用される恐れもあると述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、戦闘が活発に行われているビルマ側の交戦地帯に強制送還された民間人の安全を深刻に懸念する。カレン州の紛争に関わる3つの当事者(ビルマ国軍、DKBA、KNLA)はすべて、対人地雷や簡易爆発物(IED)を広範に用いている。これらの軍事組織は自軍の基地付近や森林地帯の小径、民間人の住居や畑の周囲での地雷埋設を続けている。『ランドマイン・モニター・リポート』年鑑のビルマの項によれば、2008年の同国では地雷による負傷が元で721人が死亡した。ビルマは対人地雷禁止条約を批准しておらず、対人地雷禁止に関する国際会議にもほとんど参加してこなかった。ビルマ東部で地雷除去は実質的に行われておらず、地雷認知教育の機会も限られている。

1月18日、妊娠9カ月のカレン族女性(25)がビルマ側に戻った際に地雷を踏み、左足半分を失った。

「甥(10)を連れてカレン州に徒歩で戻るところでした。妊娠9ヵ月でした。自分の村に通じる小径を歩いていたのですが、その径をちょっと外れた水牛を追いかけてしまい、地雷を踏んでしまいました。足の半分が吹き飛びました。歩くことはできませんでした。甥がタイ側に走って引き返し、私を助けるために夫を呼びにいきました。助けが来るまで30分くらいでした。男性3人が私を[竹製の簡易]ストレッチャーに乗せてかつぎました。心配でした。赤ん坊が無事なのか気がかりでした。[タイの]メーソット病院に入院して、その日のうちに赤ちゃんを[帝王切開で]取り出しました。[ビルマ側にある]自分の村には帰りたくありません。たった一度帰っただけなのに地雷を踏んでしまったのです。もう一度帰るのが恐ろしい。安全な場所などないのですから。」

「送還された人びとが地雷の被害者となる危険性は非常に高い」とアダムスは述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはタイ政府に対し、難民送還計画を全面的に停止し、UNHCRが難民へのインタビューを行い難民審査をすることを認めるよう求めた。世界各地の難民支援組織は、この2,400人のカレン族全員を一時的にメーラ難民キャンプ(ターソンヤンから南に車で1時間)に移動させるよう繰り返し勧告している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、タイ政府がDKBAとKNLAの空約束をあてにすべきではないと述べた。両勢力はタイ軍当局と、ノーンブアとメーウスの難民の代表者に対して帰還先のレーペーヘー一帯の地雷除去を行うと述べたと伝えられる。DKBAはビルマ軍の「国境警備隊」への編入に合意して勢力を拡大し、カレン州のタイ・ビルマ国境の大半を支配下に置いている。一般に武装集団は、散発的な戦闘が行われる長期的な低強度紛争下では支配地域確保のために地雷を広範に用いる。

「武装民兵は自ら埋設した地雷を除去すると主張するが、その言葉を信頼しても難民の安全はまったく確保されない。タイ当局はこうした見え透いた嘘に荷担すべきではない」とアダムスは述べた。「タイ政府は難民たちを国境のビルマ側に追い返すと脅迫するのではなく、適切なスクリーニングと登録作業を行った上で保護するべきだ。」

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