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ビルマ: 米国は対ビルマ政策の見直しの早期完了を

原則に基づいた外交と人道援助と個人制裁を組み合わせ、変化への弾みを

(ニューヨーク) - オバマ政権はただちに対ビルマ政策見直しを終え、外交対話と制裁と人道援助を組み合わせた効果の高い外交政策に向けたイニシアティブを開始すべきだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチはヒラリー・ロドハム・クリントン米国務長官に宛てた本日付の書簡でこのように述べた。

「新しい対ビルマ政策の発表に遅れが出ている。こうした遅れは、ビルマ軍政指導部に対し、米国が人権と多元主義(複数党制の民主主義)へのコミットメントを弱めていると思わせる要因になりうる」とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは述べた。「ビルマ問題への対応は難しいように見えるかもしれないが、オバマ政権がビルマに対し、新たな重点的取り組みを積極的に開始すれば、状況の改善に向けた力になろう。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、米国が独自に国務長官直属のビルマ特使を任命し、ビルマ政府と主な関係国政府や国際機関と、原理原則を守った上で協働するという具体的な指示を与えるよう提言。特に中国、インド、タイ、インドネシア、マレーシアと日本との間の活発な外交が特に求められている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、「ビルマ連絡調整グループ(ビルマ コンタクト グループ)」または類似の多国間グループを設置して会合を行い、様々な問題に関してビルマ政府との交渉のあり方を定期的に協議することも提言。これは中国、インド、タイ、インドネシア、日本、欧州連合(EU)と国連の見解と政策を集約する方向で機能させるべきである。ビルマは関係国を対立させて利益を得てきているので、こうした政策や見解の調整は、ビルマ軍政が得る利益の範囲を次第に狭めていくのに有益であると考える。実際、様々な問題について共通の基盤はすでに存在している。たとえば、政治改革の必要性や軍事支配体制に反対するグループの参加が確保された信頼性のある選挙の実施の必要性、ヘロインとメタンフェタミン(覚醒剤の一種)のビルマからの密輸に対する懸念、HIV/エイズの流行に対する地域全体でのアプローチの必要性などについて、すでに各国は共通の懸念や希望を持っている。但し、こうしたグループの設置に際しては、米国が基本的人権の原則にしっかり軸足を置き、改革の中心課題について妥協するような外交的な駆け引きに加わらないことが求められる。

国連が長期に渡ってビルマ外交の中心となってきたことを踏まえ、ヒューマン・ライツ・ウォッチは米国に対し、国連の事務総長特使の任命を引き続き支持するよう求めた。一方で、国連事務総長と事務総長特使は、ビルマへの入国やハイレベル会合の実現自体を目標としたり、こうした形式の実現のみをもってビルマの変化の兆候と捉えるのはやめなくてはならない。国連事務総長や事務総長特使は、過去に、こうした失敗をした経緯がある。特使には、原理原則をしっかりと持った人物で、かつ、交渉のスキルを有する人物を任命すべきである。また、特使は、国際社会に広く変化をもたらすことができる人物である必要があるので、国際社会が広範に支持する人物でなくてはならない。

「米国政府がビルマ国民の基本的権利を尊重し、真正で信頼に足る政治改革プロセスに向けた取り組みを続けるという前提であれば、ハイレベルな外交の強化は望ましい政策だ。」とアダムズ局長は述べた。「だが、米国政府や他国政府が、ビルマ軍政に対してこれまでよりも融和的な働きかけをすれば、ビルマ軍政指導部が何らかの形で妥協してくるかもしれないなどという希望的観測や幻想は捨てるべきだ。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、一般的な制裁措置については再検討を行い、時期を見計らって段階的に廃止すべきだと述べた。制裁の対称を権力の中枢にいる人物や人権侵害を行なっている者に限定していない、一般的な一般的な制裁措置は、効果をほとんど生んでいないためである。一方で、対象限定型の制裁については、これを適切に実施すれば人権状況の改善をもたらす可能性があるので、強化するべきだと述べた。対象限定型の制裁とは、具体的には、個人や組織への金融制裁や、人権侵害についての重大な懸念がある企業や経済部門に対称を絞った投資・貿易制裁、あるいは、武器禁輸、軍事援助規制、個人への渡航禁止措置などを指す。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは米国政府に対して、金融制裁を、拡大強化するとともに、完全に実施するよう特に強く求めた。米国政府の金融制裁がターゲットとすべきは、主要な人権侵害の責任者たち(軍人も文民も含む)や、その商業利益、あるいは、ビルマ軍政に対し多額の利益をもたらしている個人や組織(多額の利益が一連の制裁を弱体化させる危険があるため)などである。そして、こうした対象を限定した個人・企業制裁について、同様の取り組みを開始しているEU、スイス、オーストラリア、カナダなどと、効果的な制裁に向けた調整を率先して行なうべきだ。制裁対象となる個人は、ビルマ国内のヒエラルキーの頂点にあるため、こうした制裁の影響を感じやすい。米国とその他の国々の調整が大きな効果を発揮すれば、日本やシンガポールなど他の主要国からの支持も強まろう。EU諸国は完全な金融制裁の実施にかなりもたついている。したがって米国は先導役を務めて、EU諸国に米国の例に従うよう強いリーダーシップを発揮すべきだ。米国の金融制裁の発動が遅れ、各国間の十分な調整役を果たしてこなかった結果、金融制裁措置をはじめとした制裁の効力が弱まり、制裁が本来発揮すべき効果が減少してしまった。

「米国にはまだ使っていない法的手段がある。たとえば、問題のある外国銀行に対する米国の金融システムへの接続を拒否するなどの措置もある。制裁対象のビルマ人の口座を保有するなどして米国政府の措置の効果を減殺している外国銀行や、ビルマ政府の主要な収益源である石油・天然ガス関係の政府機関と取引を行っている外国銀行などが接続拒否の対象となろう」とアダムズは述べた。「こうした政策を実施するには、情報関係機関の積極的な協力と、米国当局者による継続的なモニタリングと調整が必要となる。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ビルマ国内の深刻な人道上のニーズに対処するためには人道支援の強化が必要であることを改めて指摘。米国をはじめとするドナー国側は援助額を増額すべき必要性があるものの、調整を行い現実的な形で実施する必要がある。ビルマ軍事政権は国民の福祉に対してほとんど支出を行っていない。社会のための支出の総計は、推計によれば2008年度のGDPのわずか0.8パーセントであり、健康と教育に対する公共支出の割合は世界最低水準である。相当数のビルマ国民が劣悪な貧困状態で生活しており、その原因には数十年に渡る経済政策の失敗と政府の腐敗がある。ドナー国側は、人道援助の実際の際には透明性とアカウンタビリティの必要性を強調すべきであり、たとえば既存の腐敗した権力構造ではなく市民社会を強化し、一般国民の要望とニーズに対応したアプローチを取る必要がある。

「米国などのドナー国側は、適切なモニタリングを伴った形の人道援助の増額を提案すべきだ。ただ、同時に、軍事政権側が、天然資源からの莫大な収入をビルマ国民のために使うことも必要である。軍事政権側の支出にマッチした形での人道援助にする、と米国などのドナー国側は強く求めるべきだ」とアダムズは述べた。

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