(ニューヨーク) ―スリランカのラニル・ウィクラマシンハ大統領は、平和的なデモ参加者を標的にした厳格なテロ防止法(PTA)の適用を即時停止し、拘禁している人びとを釈放すべきだ、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。当局は権利侵害的なテロ防止法に基づき、2022 年 8 月 18 日の抗議デモに参加した3人の学生活動家の身柄を拘束した。
ウィクラマシンハ大統領は、ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領(当時)の国外脱出と辞任を受けて 7 月 21 日に大統領に就任して以来、表現・結社・平和的集会の自由をはじめとする諸権利を弾圧している。政権は 1 カ月間の非常事態宣言を発出し、治安部隊を使ってデモ参加者を暴力的に解散させ、平和的な抗議行動の参加者を何十人も逮捕。スリランカの歴代政府は、テロ防止法の一時停止と、権利を尊重する法律への置き換えという誓約を反故にしてきた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのミナクシ・ガングリー南アジア代表は、「ウィクラマシンハ大統領はテロ防止法を用いて、平和的に改革を求める人びとを投獄することで、権利保障は政権の優先事項ではないという背筋の凍るようなメッセージを送っている」と指摘する。「大統領が国内の反対意見を弾圧することは、同盟諸国との誓約に反する。」
テロ防止法は 1979 年に「一時的な」措置として初めて採択されたが、恣意的な拘禁および拷問を容認するなど、国際法基準に相反する規定を多く含んでおり、これまで反体制派や少数派コミュニティを標的にして繰り返し適用されてきた。
2015 年当時に首相だったウィクラマシンハ氏は、国連人権理事会が満場一致で採択した決議を支持した際に、当該法の廃止を公約。そして2017年には、ふたたび国際人権条約の遵守という確約と引き換えに、EU 市場における輸出製品の無関税が認められる 欧州連合GSP(一般特恵関税)+ スキームの受益国として再承認された。
7 月、G. L. ピーリス外相(当時)は国連人権理事会に対し、スリランカは「テロ防止法に基づく逮捕で事実上のモラトリアム(一時停止)」を遵守していると述べた。それ以前の 3 月 22 日、当時は法相を務めていたアリ・サブリ外相も国会で、「テロ行為に直接関係する犯罪を除き、テロ防止法の適用は事実上のモラトリアム」中だと述べた。
反テロ防止法下で身柄を拘束された 3 人の男性は、大学間学生連盟 (IUSF)の議長Wasantha Mudalige氏、ケラニヤ大学学生組合のメンバーHashantha Jeewantha Gunathilake氏、大学間僧侶連盟議長のGalwewa Siridhamma Thero氏。3人は、警察が催涙ガスと放水砲を使って解散させた8 月 18 日のデモに続き逮捕された。
国防相も兼ねるウィクラマシンハ大統領は、後にテロ防止法により付与された同相の権限を用いて、3人を証拠や保釈機会なしに90日間勾留する命令に署名。これは最高で1年間延長することができる。弁護人らによると、3人は南部にあるタンガッラ刑務所に劣悪な条件で収監されており、看守の監視なしでは弁護人と接見もできないというが、これは国際基準違反に当たる。
弁護士会をはじめ、政治家や各市民社会団体がこの拘禁を非難している。スリランカ人権委員会は、「憲法の下で基本的権利を行使している被疑者が、不当にテロリストとして扱われてはならない」と述べた。
国家経済危機への対応を模索するスリランカ政府を支援している国際パートナーの一部は、ウィクラマシンハ大統領に対し、反対意見の弾圧、とりわけテロ防止法の適用を停止するよう要請してきた。米国のジュリー・チャン駐スリランカ大使は「反テロ防止法のような国際人権基準を満たさない法の適用はスリランカ民主主義を侵食する」とツイートした。
EU は、「近時の逮捕をめぐるテロ防止法適用の報告を憂慮している。[スリランカ政府は]同法の適用を事実上モラトリアムとしていると国際社会に伝えていた」と述べ、GSP+ で課された義務の遂行をスリランカに繰り返し念押ししている。
スリランカ政府は現在、数十億米ドル規模の救済措置の確保のために国際通貨基金 (IMF) と、そして対外債務の再編のために海外債権者と交渉中だ。新たな国際融資がどのように使われるかについてスリランカ国民に説明責任を問うならば、まず政府が平和的な反対意見の容認姿勢を示さなければならない。
ガングリー南アジア代表は、「ウィクラマシンハ大統領は、政治改革と説明責任を求めるスリランカ国民や、人権尊重の改善を求める海外同盟国の声に、聞こえぬふりを決め込んでいるようにみえる」と指摘する。「国内で民衆が弾圧と経済的困難に苦しんでいる今、スリランカの国際パートナーは、大統領が人びとの訴えを無視することができないよう働きかけていく必要がある。」