(プノンペン)- カンボジアで酸攻撃のサバイバーが無料医療を受けることができず、不十分な和解に応じるよう圧力をかけられている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表された報告書で述べた。カンボジア政府は、酸攻撃のサバイバーに法的、社会的、そして医療の面で支援を行わなければならないと定める法律を施行するべきである。

48 ページの報告書『「地獄とはこのこと」:カンボジアでの酸攻撃(‘What Hell Feels Like’: Acid Violence in Cambodia)』は、私人が被害者に苦痛を与え一生消えない傷跡を残すために硝酸または硫酸を使い、被害者が正義と医療を求めて奮闘する状況を記録している。カンボジアでは、広く報じられた酸攻撃事件が何件か起きた後の2012年、政府が攻撃に使われる酸の流通を抑制し被害者に医療と法的支援を提供するために「濃酸規制法」を承認した。同法の承認後、首都プノンペンでは酸攻撃は少なくなり、規制によって酸の流通も減った。しかしヒューマン・ライツ・ウォッチの調査により、酸攻撃のサバイバーの多くは同法が定める適切な医療や十分な補償を受けることができず、攻撃をした者が訴追されることもめったにないことが明らかになった。

「カンボジア政府は濃酸規制法を通じて酸攻撃のサバイバーに明確な約束をするという重要な一歩を踏み出した」とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムスは述べた。「政府がプノンペン以外で同法を施行せず、犯人の責任を問わず、被害者に適切な治療と補償を保証していないため、その約束は守られないままである。一方で生存者は一生残る損害を被るのである」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは81人に話を聞いた。これにはプノンペンとコンポンチャムで起きた酸攻撃のサバイバー17人、サバイバーの親戚、弁護士、酸攻撃の専門家、そしてプノンペン、コンポンチャム州、トボンクムン州のオートバイのバッテリー販売業者その他の酸販売者が含まれる。

カンボジアの濃酸規制法は国営病院が酸攻撃のサバイバーに無料で医療を施すよう定めているが、ヒューマン・ライツ・ウォッチがインタビューしたサバイバーの中で無料の治療を受けた者は一人もいなかった。。それどころか、サバイバーたちは自前で費用を支払う、または支払いができる証拠を示すまでは治療を受けられなかったと供述した。火傷専門科がある唯一の病院であるカンボジア最大の公立病院の職員でさえ、同法が無料の治療を施すよう定めていることを知らなかった。

大変な痛みを伴う酸による火傷を負ったサバイバーは、オピオイド系鎮痛剤を厳しく制限することで知られるカンボジアの規制に直面する。モルヒネの処方も7日間に限られている。首都プノンペンの外ではどの公立病院も経口モルヒネを置いていない。結果、貧しい地方在住者は痛みの緩和治療を受けたくても費用が高すぎて受けられない。プノンペンでも、経口モルヒネを含むモルヒネが今も不足している。

カンボジアでの酸攻撃のケースでもっとも悪名高いと言えるのは、1999年に起きたタット・マリナ(当時16)に対するものだろう。閣僚評議会の副次官でフン・セン首相の側近だったスヴァイ・シータ(当時40)がアメリカ人ビジネスマンになりすまし言葉や暴力を使用し、自分との関係を続けるよう彼女を脅したとマリナは供述している。二人の関係を知ったシータの妻Khoun Sophalは男らを雇い、マリナが気を失うまで殴り顔に硝酸をかけるよう命じた。この攻撃があったのは昼間、混み合う公設市場でのことで、現場には襲撃犯たちの身元がわかる物が残されていたにもかかわらず、この攻撃については誰も訴追されず、マリナもいっさい補償を受けなかった。2018年9月6日、フン・センはシータを閣僚レベルで首相の筆頭補佐役である特命大臣に昇進させた。

報告書のためにインタビューを受けた酸攻撃のサバイバーの大半は公正な裁きを受けていない。サバイバーのうち数人は、不十分な和解に合意するよう政府の役人に圧力をかけられたと述べた。裁判に至った数少ない事例のなかでも有罪判決が出たものはほとんどなく、有罪判決を受けた者が刑をまっとうした例はさらに少ない。被害者には損害賠償を受ける権利があるとする規定がカンボジアの民法と刑法にあるにもかかわらず、ヒューマン・ライツ・ウォッチが話を聞いたサバイバーのなかで司法制度を通じて補償を受け取った者は一人もいない。

カンボジア政府は刑事事件について非公式の金銭的和解を禁止し、司法妨害を刑法上の罪とするべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。この司法妨害には警察、役人、裁判官、検察官に対する不適切な介入が含まれるべきである。カンボジアの汚職防止班と司法省は、長らく約束してきた被害者や目撃者の保護に関する法律の草案を早急に完成させるべきである。

「カンボジア政府はすべての公立病院に対し、酸攻撃の被害者を無料で治療すること、また政府がその費用を補償することが法で定められていることを明確に伝えるべきである」とアダムスは述べた。「政府は酸攻撃のサバイバーが非常につらい痛みに一生苦しまなくてもいいようにオピオイド系鎮痛剤に関する規制を更新し、オピオイド系鎮痛剤が流通し、それを必要とする人が入手できるようにするべきである」