ヒューマン・ライツ・ウォッチは、日本を含む世界90カ国以上の人権状況についてモニタリングと報告を行う非政府組織(NGO)であり、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー(LGBT)などのテーマを取り扱う専門家チームを有しています。ヒューマン・ライツ・ウォッチは2016年に、報告書『出る杭は打たれる:日本の学校におけるLGBT生徒へのいじめと排除』(全84頁)を発表し、日本の学校でLGBT生徒が、暴力と言葉による虐待、嫌がらせ、他の生徒や教職員からの辱めなどを経験することが少なくない実態を明らかにいたしました。憎悪を含むLGBT差別のメッセージが文字通り蔓延しているために、LGBT生徒は声を上げることができず、自己嫌悪し、時には自傷行為すら行っております。

日本の内外でLGBTの権利に関して培ってきたグローバルな専門的知見に基づき、ヒューマン・ライツ・ウォッチは「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念実現のための条例(仮称) 条例案概要」のうち「2 多様な性の理解の推進」についてパブリックコメントを次のとおり提出します。

●該当箇所及び意見内容

2 多様な性の理解の推進のうち:

1)「都と責務」「都民や事業者の責務」の部分に次の文言を入れること

東京都と事業者は何人に対しても、雇用、教育、公に開かれた施設その他の空間やサービスのアクセスに際し、その人の真の又は認識された性的指向又は性自認を理由として差別的取扱いをしてはならない。

2)「目的」に次の文言を追加すること

・性的指向や性自認にかかわらず、すべての人に法の下の平等を保障すること

・同性に惹かれることや、ジェンダーに不一致であることは、人間の経験に生じる自然な違いであり、社会的逸脱や「精神障害」とみなされたり扱われたりしないようにすること

●理由

日本政府は近年、LGBTの権利保護について前向きな歩みを見せています。文部科学省は2015年には全国の教育委員会等に向けて「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」(平成27年4月30日児童生徒課長通知)を示し、翌2016年には手引き「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」を発行しています。また文部科学大臣は2017年3月、「いじめ防止基本方針」を見直してLGBT生徒を明文化して対象に含めました。日本は国連の場でもLGBT権利擁護でリーダーシップを発揮してもいます。2011年と2014年には国連人権理事会での決議に賛成票を投じ、国連コア・グループにも参加しています。東京都は、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催都市でもあることからも、日本の国際的なリーダーシップを国内の政策に適用することが求められているのです。

東京都は、2020年東京オリンピックの開催都市としても、ヒューマン・ライツ・ウォッチによる勧告を実行に移すべきであります。なぜなら、国際オリンピック委員会(IOC)が2017年に行った開催都市契約の改訂(人権保護及び国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に沿うことなどを追加)を反映して東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、「東京2020オリンピック・ パラリンピック競技大会 持続可能性に配慮した運営計画 第二版」において、「人種や肌の色、性別、性的指向、性自認(…)等による差別等がな[い](…)大会となるように努める」とともに「国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に則り大会の準備・運営を行う」ことを宣言しているからです。