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ミャンマー:日本政府が供与した旅客船を国軍が利用

日本政府は人道支援以外のODAを停止すべき

Officers march during a parade to commemorate Myanmar's 77th Armed Forces Day in Naypyitaw, Myanmar, March 27, 2022. © 2022 AP Photo/Aung Shine Oo

(東京)― 日本が供与した旅客船をミャンマー国軍が今年9月に軍事利用していたと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが精査したミャンマー当局の文書によると、ミャンマー国軍は日本政府が2017年から2019年の間に供与した旅客船3隻のうち2隻を利用し、100人以上の軍人や物資をラカイン州のブティーダウン(Buthidaung)に移送した。国軍は同地域で少数民族武装勢力アラカン軍と戦闘中だ。日本政府は、ミャンマーに対する人道支援以外の開発支援を停止した上で、深刻な人権侵害に関与した国軍幹部らに制裁を科すべきだ。

「ミャンマー国軍が日本政府の開発支援を軍事目的に乱用したことで、日本政府は事実上ミャンマー国軍の軍事作戦に加担してしまった」とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局プログラムオフィサーの笠井哲平は述べた。「日本政府は、国軍の暴走に歯止めをかけるにあたり効果が見えない外交政策を改めるべきだ。」

ミャンマー運輸・通信省傘下の内陸水運公社(Inland Water Transport)が9月21日に運輸・通信省に送付した機密文書によると、ラカイン州政府の運輸大臣は9月13日に内陸水運公社のラカイン州部署に対して、日本政府が供与した旅客船キサパナディ1とキサパナディ3を「シットウェ―ブティーダウン―シットウェ間の航行」に向けて「準備」するよう指示した。同文書によると、9月14日にこれら2隻の旅客船は「100人以上の軍人と物資」をブティーダウンに移送した。

また、同文書によると、運輸大臣は「これは極秘の航行である上、行先も機密扱いであり、第三者への報告はすべきではないと指示した」とある。これが問題であると認識したのか、内陸水運公社はラカイン州運輸大臣と「すでに話し合い」、「もう旅客船は軍事目的に利用していない」とした。

ラカイン州警察長と運輸大臣がラカイン州首相の代理として運輸・通信大臣に送付した9月23日付の文書で、2隻の旅客船が「軍事目的」に利用されたことを報告した。ラカイン州当局は、2008年の憲法の250条を引用した上で、今回の利用を正当化した。250条は「管区又は州の政府は、連邦の安定、 地域社会の平和及び安寧並びに法及び秩序の 維持について、連邦政府を支援する責任を負う」としている。

ここ数か月、2020年11月にミャンマー国軍とアラカン軍が合意した非公式な停戦が壊れてきた。国軍は8月にラカイン州北部に援軍を送った。同地域では、空爆、砲撃や地雷の利用を含む戦闘が激化しており、民間人の犠牲者数も増えている。

国軍は8月中旬から、アラカン軍を弱体化させるため、ラカイン州やチン州南部の民間人を孤立させ脅してきた。この手法は、国軍が長年利用してきた「フォー・カッツ」ポリシーを体現化したものだ。さらに、国軍は国際人道法を破る形で、人道支援要員に対して幅広い渡航制限を科し、道路と水路へのアクセスを禁止し、人道支援要員らを恣意的に拘束した。

また、国軍は9月15日に国連機関や国際NGOを6つのラカイン州の地域(マウンドー、ブティーダウン、ラテ―ダウン、ミャウウー、ミンビャ、ミエボン)から締め出す指令を出し、航路と公共交通機関を停止した。8月以降の戦闘により、すでに国内避難民である7万人以上に加えて1万8千人以上が避難を余儀なくされた。国軍の規制により、多くの避難民は十分な食料や医薬品へのアクセスがない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの9月20日の問い合わせに対して、外務省の担当者は10月3日に「日本政府は、開発協力大綱上の『軍事的用途への使用の回避』原則を踏まえ、我が国ODAで供与された施設・機材の適切な使用の確保に努めています」とした上で、「御指摘の件についてもしかるべく対応していますが、外交上のやり取りでもあり、その詳細についてお答えすることは差し控えさせていただきます」と回答した。

日本政府は2016年9月16日に締結した5億円の無償資金協力「経済社会開発計画」の下、旅客船3隻を提供した。在ミャンマー日本大使館によると、「ミャンマーの水上交通輸送の能力向上を図り,ミャンマーの経済社会開発に寄与することを目的」としたものだった。

2021年2月1日の軍事クーデター以降、日本政府は人道支援以外の新規ODAを停止すると表明した一方、既存のODAは継続。2021年11月時点で、日本政府はミャンマーに対して累計1.3兆円の円借款、約3,600億円の無償資金協力、そして1,000億円以上の技術協力を提供してきた。

日本は開発協力大綱で「開発途上国の民主化の定着、法の支配及び基本的人権の尊重を促進する観点から、当該国における民主化,法の支配及び基本的人権の保障をめぐる状況に十分注意を払う」と定めている。日本政府はこの人権にかかわる条項を発動すべきだ。

人道支援については、日本は事業を継続すべきだが、非政府組織を通じて資金を提供することで、資金が効果的に使用され、必要としている人びとに直接役立つことを確保すべきである。

「経済制裁に対する日本政府の中途半端な姿勢は、ミャンマー国軍の暴挙に歯止めをかけるにあたり効果を発揮していない」と笠井は述べた。「人権を尊重する民主主義国家として、日本政府はあらゆる外交手段を駆使して国軍に圧力をかけるべきだ。」
 

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