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(ベルリン)ウクライナ当局は、捕虜となったロシア兵の動画をソーシャルメディアやメッセージングアプリに投稿し、公衆の好奇心にさらすことをやめるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。特に捕虜が屈辱を受けたり、威圧されたりする様子を映すものは、公開を直ちに止めるべきである。このような捕虜に対する待遇は、捕虜となった戦闘員の尊厳ある待遇の保障を目的とした、ジュネーヴ諸条約が定める保護規程に違反する。

2022年2月24日、ロシアはウクライナへの本格的な軍事侵攻を開始した。

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ウクライナ政府の主要な公安機関にあたるウクライナ保安庁(SBU)は、約86万8000人が登録しているTelegramのアカウントを所持している。当局は、当アカウントから、捕虜となったロシア兵が強迫されている様子や、捕虜らが自分の氏名、ID番号、両親の名、自宅住所などの個人情報を明かす動画を投稿している。これらの動画は、Facebook、Twitter、YouTube、Instagramのページでも共有され、これらアカウントのフォロワーと登録者は合計でおよそ97万8000人に上る。また、ウクライナ総務省が運営していると見られるTelegramチャンネル(登録者数84万7000人以上)でも同様のことが行われており、同省はまた関連のウェブサイトやYouTubeチャンネルを持つ。

「捕虜を公衆の好奇心から保護する義務、そして彼らを脅迫や屈辱から保護することは、捕虜が人道的な待遇を受け、また彼らの家族に危害が加えられないようにするという、国家に課せられるより大きな要求の一部である」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアシュリング・リーディー上級法律顧問は指摘した。「ウクライナ当局は、これらの動画をオンラインに投稿するのをやめるべきだ」。

また、SNSサービスを提供するプラットフォームは、ジュネーヴ諸条約に違反するこれら捕虜の動画が、既存のポリシーに違反するかどうか、及びにどのように違反するかを明確にするべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。また、必要に応じて、このような性質なコンテンツの拡散を特定・抑制することを可能にする新しいポリシーを作るべきだと、述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2022年3月10日、ウクライナ保安庁と内務省に対し、こうした画像や動画を掲載しているSNSアカウントやウェブサイトの運営について懸念を表明した。また、捕虜がジュネーヴ諸条約に従った待遇を受けるよう当局がどのような措置を講じているかを問う書簡を出した。3月16日現在、ヒューマン・ライツ・ウォッチはまだ返信を受け取っていない。

保安庁が管理している諸アカウントでは、捕虜となったロシア兵の動画が数十本程度投稿されており、中には拘束されたまま尋問を受けている姿が映っているものもある。ほとんどの動画では、捕虜の顔がはっきりと映っていたり、捕虜が自分の氏名や生年月日、両親の氏名などの個人情報を述べている。

保安庁のTelegramチャンネルで220万ビューを記録した動画には、捕虜となったロシア兵が母親と電話で話している様子がまず映り、次に別の捕虜が尋問のなかで自分の氏名や誕生日、所属部隊について詳しく話している様子が映っている。また、540万回以上再生されている保安庁のFacebookページにある別の動画では、やつれた顔で片足に包帯を巻いた捕虜が、ベラルーシを経由してキエフの北90キロにあるチェルノブイリに入ったと述べている。

内務省が運営しているとみられるTelegramチャンネル、YouTubeチャンネル、及びウェブサイトは、いずれも2月26日に作成された。戦争で捕虜となった、あるいは死亡したロシア兵の氏名を記したデータベースも公開されている。内務省顧問のヴィクトール・アンドルーシフ氏は、彼がこれらウェブサイト、及び関連するアカウントの管理者であると公表している。同氏は、捕虜になった、または殺されたロシア兵について、彼らの親族が人物を特定するのを手だけするためのものだと述べた。

同省はこれらのプラットフォームに、捕虜となったロシア兵の写真や動画を数百単位で掲載しており、多くの場合彼らのパスポートや身分証明書の資料を添えている。中には、目隠しや猿ぐつわを着用していたり、覆面を被っているいる兵士のものもある。また、捕虜が家族に電話をかけているところを録画している事例もある。3月6日にTelegramに投稿され、78万5000ビューを記録した動画では、氏名と部隊名が特定された2人の捕虜が、目隠しをされ、膝をついた状態で銃口を向けられ、尋問を受ける様子が映っている。

また、これらのプラットフォームには、死んだロシア兵の生々しい画像も投稿されている。なお、これらすべての写真や動画の真偽は確認できていない。

司法省が運営するYouTubeチャンネルの投稿されたある動画で、前出のアンドルーシフ氏は、ウクライナが戦争法を尊重していることを強調した。同氏は「我々はジュネーヴ諸条約の遵守を公約としており、すべての部隊に対し、すべての捕虜を敬意を持って待遇するよう指示している」と述べた。「総司令官と内務大臣は、すべての兵士と警察官に対し、ジュネーヴ諸条約に則り指示を出しており、またその遵守状況に対しても絶えず監視していく」と述べた。

ジュネーヴ第三条約と第一追加議定書は、捕虜の保護に関する規定を定めている。条文では、捕虜はいかなる状況においても人道的な待遇を受け、暴行だけでなく、脅迫や侮辱、公衆の好奇心から保護されなければならないことが明確にうたわれている。写真や動画、尋問の記録、私的会話や私信を含む、その他あらゆる個人情報の開示も、そうした保護の対象になる。

また、赤十字国際委員会(ICRC)は、視聴者・読者が捕虜を特定できるようなデータは、いかなるものであれ、送信、出版、及び放送されてはならないと明確に述べている。なお、この禁止措置には例外があるが、それはあくまで例外であり、やむを得ない公共の利益が存在する場合、あるいはそのデータを公開することが捕虜の生命にかかわる場合に限られており、なおかつ捕虜の尊厳を尊重する限りにおいてのみ許されるのである。

ウクライナ政府は、ICRCがすべての捕虜にアクセスできるようにし、捕虜に関するすべての個人情報およびデータがジュネーヴ諸条約に従って取り扱われるよう、ICRCと協力しなければならない。

捕虜を管理している当局担当者らは、公的な目的以外に捕虜の写真・動画を撮影しないこと、また捕虜に関する公的な画像及び個人情報が安全に保管されていることを確保しなければならない。並びに、そうしたデータへのアクセスは、関連する職務に直接従事する職員にのみ許可されるべきであり、それ以外の目的でのデータ使用は固く禁じられるべきである。

当局は、SNS上に捕虜の画像や動画を投稿した者を特定し、その責任を追求するためにあらゆる実行可能な努力を払うべきだ。特に、公的な目的以外で画像の撮影や作成にも関わっていた場合、あるいは公的な目的で撮影した画像を不正に使用した場合について、このような措置を取るべきである。

また、メディアが戦時国際法に違反する捕虜関連データを放送したり、転載したりすることを控えることも重要であると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。SNSサービスを提供するプラットフォームもまた、公衆の好奇心からの保護も含めて、捕虜が人道的な待遇を受ける権利を侵害するコンテンツを特定し、それらコンテンツへのアクセスを制限する措置をとるべきである。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、クラスター弾などによる民間人への無差別攻撃や、戦闘地域からの民間人の脱出阻止など、ロシア軍による広範な戦時国際法違反や明白な戦争犯罪についてもこれまで明らかにしている。

「ロシア軍の戦時国際法違反行為は広範かつ広範囲に及んでおり、民間人に深刻な被害をもたらしている」と、前出のリーディー上級顧問は述べた。「同時に、ウクライナ側は法に則った捕虜の待遇をはじめ、守るべき明確な義務を負っている。」

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