(シドニー)— パプアニューギニアの女性や少女がパートナーからのひどい暴力を受けることも多い中、政府関係者は安全や公共サービス、法の裁きなどの被害者のニーズを満たしていない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。保護措置やDVシェルターへのアクセスなど被害者に欠かせない行政の介入が、法執行機関の怠慢が原因で容易にてまたは全く可能でない状況にあるのだ。
2013年9月にパプアニューギニア議会は家族保護法を可決し、家庭内暴力に対する新たな刑罰や、被害者の保護・支援に特化した警察のユニットなど、新たなメカニズムを設けた。しかしながら2年以上経った今も同法は施行されずにいる。政府は、国内法には義務づけられていないにもかかわらず、関連規制を発効させてからでないと施行しないとしている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ女性の権利局の上級調査員ヘザー・バーは、「調査の過程で、女性たちのとても悲惨な身の上話を次から次へと耳にすることになった」と述べる。「彼女たちはナイフで切りつけられた傷や接骨治療のあと、折られた歯などをみせながら、なぜ加害者である配偶者のもとに戻るよりほかなかったのかを切々と証言してくれた。」
報告書「打ちのめされて:パプアニューギニアの家庭内暴力」(全59ページ)は、政府の家庭内暴力対策がどのような構造上の問題を抱えているかを詳述したもの。これら問題が原因で、女性はしばしば直面する暴力から保護されないでいる。たとえ助けや法の裁きを確保するための労を惜しまなくても、そんな状況だ。
本報告書の調査で、警察および検察がもっとも重大なケースでさえ加害者の刑事責任をほとんど問わない実情が明らかになった。農村部で警察が、なんらかの手を打つ前に被害者に金銭を要求するのは日常茶飯事で、そうでなければ単に事件をなかったことにしてしまう。警察官は保護命令の必要性を上官に言及するのに消極的で、保護命令許可を求める上官は上官で、当の裁判所がなかなか動かない問題に突き当たる。こうした問題は家庭内暴力に特化した警察ユニット内でさえ起きている。
前出のバー上級調査員は、「パプアニューギニアでは、ひどい家庭内暴力の被害者たちが、警察の助けを求めても、無視されたり配偶者の元へ戻るようさとされるだけ、ということがあまりに多い」と指摘する。「警察の助けもなく、彼女たちは完全に加害者のなすがままにされるよりほかない。」
被害者のための公共サービスはほぼないといっていい。いくつかDVシェルターはあるが、資格のあるカウンセラーがいるところはないに等しく、法的支援もほとんどない。子どもを扶養しなくてはならず、配偶者から逃れて経済的に自立するには助けを必要とする母親を含め、被害者のためのセーフティネットがないのである。多くの女性がヒューマン・ライツ・ウォッチに、子どもを食べさせる手立てがほかにないので、虐待する配偶者と一緒にいると話した。
一夫多妻制や花嫁代金の支払い、魔術を用いたとされる人びと(通常は女性)への攻撃といった有害な慣習は、パプア社会で今もそのまま続いている。2番目の妻を迎えた男性が最初の妻を虐待することも多い。花嫁に支払われる代金の習慣は女性が男性の所有物であるというメッセージとなり、花嫁は実家に助けも求められない。また虐待が理由の離婚でさえ、花嫁家族は結婚時の代金を返却せねばならない習わしだが、多くはその余裕がない。魔術をめぐる非難もあまりに多くのケースで家庭内暴力に帰結する。暴力夫が脅しや魔術などの非難を悪用して女性を沈黙させ、コントロールするのだ。この3つの慣習は男女差別的な慣習の強化に繋がっている。
同国の活動家ネットワークでは多くの被害者自身も活躍している。精力的に個々の被害者を支援し、かつ政府に改革を要求している。2013年に家族保護法が可決されたのは、ほかでもないこれら活動家の努力の賜物だった。
パプアニューギニアの援助ドナー、特にオーストラリアは家庭内暴力の被害者のための限られた公共サービスを経済的に支援するなど、重要な役割を果たしてきた。が、パプアニューギニア政府の指導力及び法の執行が、いかんせん欠けている。
同国には豊富な天然資源があり、経済発展は順調だ。家庭内暴力の不処罰の廃絶にむけては、経済支援と政治的意思の双方が必要だ。そのために家族保護法を速やかに執行し、警察・検察・裁判所が家庭内暴力を犯罪として扱うようにしなければならない。加えて、被害者に対する公共サービスを飛躍的に拡張する必要がある。具体的には、より多くのDVシェルターの創設、法的支援・カウンセリングへのアクセスの確保、事件管理、女性とその子どもたちのための経済的セーフティネットの設置など、被害者が暴力から逃れ新しい生活を模索する際に必要なサービスが挙げられる。
前出のバー上級調査員は、「ここ数年、家庭内暴力対策において、一部ではあるが政府に前向きな動きもあった」と指摘する。「しかし真の改革はまだ行われていない。女性の権利をまもり、国際法に準じた義務を果たすために求められる速やかな問題の解決は、まだ多くがされないままになっている。」
証言抜粋
“I went to the police 17 times. I went every week for the last month. They said this is a domestic problem. They just told my husband not to do it again. I brought my husband to the police station and the police said, ‘You have so many kids – you should go back and not do this again.’ I wanted them to put him in jail for one or two years. So far I have two bones broken,” she said. “It’s very hard for me to find food for the kids and send them to school.”
–Jenella, age 39, mother of seven children, has gone back to her husband
“He came to me and asked for sex. I said no, because I was very tired. He accused me of having sex with others. About 2 or 3 a.m., he got a hot stick from the fire and he put it in my vagina. [The police] said they don’t have the car to arrest him. I went there two times. I spent two days waiting for the police. I am not happy with the police.”
–Katherine, age 48, mother of two children
“They arrested him and sent us both to counseling with the sergeant of the [specialized police unit]. We met twice. Nothing happened. My husband continued bashing me. In the presence of the police he agreed to stop, but in the home there was no change. He was hitting me between counseling sessions. I told the police he was still hitting me. They warned him that they would take him to court if he didn’t stop. I asked the police to help me get a protection order. They said they were too busy.”
–Kere, age 18, married for two years, mother of one child
“I decided to go back to him because of the children. He raped me again. He locked me in a room on Thursday and Friday. Then I managed to get away. I want to take him to court and get him kept away. I’m going to find a job and get my own home so I can get my children back. I want to stay away from my husband.”
–Grace, age 44, mother of seven children, staying in a safe house at the time of the interview
“I went to the police three times in 2012 and once in 2013. The first three times, the police just called my husband [he is a police officer himself]. They took a complaint the fourth time, but never arrested him. After that I thought, I can’t get help. I was just helpless. I even went to his supervisor and asked them to take his weapon. At times I just feel, gosh, that’s the end of the world for me.”
–Alice, age 38, mother of four children
“We’ve complained and asked the magistrates to be tougher. The prosecutors don’t deal with cases very effectively. Penalties are not strong enough.”
–Police officer with a specialized family and sexual violence unit
“The law about violence against women is not strong enough, so men take advantage…. The government is too far away from me.”
–Survivor of family violence in the Highlands
“We have never used the FPA [Family Protection Act]. We can’t use the FPA without information on how to charge someone under it. No one sent any info to us on it.”
–Police officer with a specialized family and sexual violence unit