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(バンコク)-タイ政府は鉛で汚染されたタイ西部の小川を除染しておらず、数百世帯に回復不可能な健康上の悪影響を与える恐れがあると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で述べた。最高行政裁判所は約2年前にクルティ・クリークの除染を命じた。こうした決定はタイでは初めてのことだ。しかし政府は命令を無視し続けている。村人は水、土壌、野菜、魚による鉛中毒に今もさらされている。

本報告書『汚染水、汚れた司法』(全32頁)は、タイ汚染管理局と公衆衛生当局が16年にわたり、カレン民族の住民の鉛中毒の深刻化を防ぐ方策を怠ってきたことを明らかにした。報告書と同時に公開されたビデオ(12分)は、鉛精錬施設(既に閉鎖)が引き起こした深刻な健康被害と環境破壊とともに、裁判に取り組む住民の様子を伝えるものだ。下クルティ・クリーク村の住民には慢性中毒の症状が多く見られる。腹痛、頭痛、疲労感、情緒不安定などだ。重度の知的・発達障害をもって生まれる子どももいる。

「タイ当局は一帯の除染を求めた裁判所の明確な命令を無視できると考えているようだ」と、本報告書の執筆者でヒューマン・ライツ・ウォッチ上級調査員のリチャード・ピアスハウスは述べた。「ここの汚染はタイ国内で最悪なレベルで、数百人が健康被害を受けている。政府は早急に対応すべきだ。」

2013年1月10日、タイ最高行政裁判所は政府に対し、クルティ・クリーク内と周辺の水、土壌、野菜、水生動物の検査結果の数値が許容値を下回るまで、この川を除染するよう命じた。除染は2014年5月1日までに始まるとされたが、タイ汚染管理局は除染方法をいまだ調査中と回答している。

下クルティ・クリーク村の住民には、日常生活での鉛暴露の恐れがある。経路は飲料水、魚など水生動物の摂取、鉛汚染された土壌で栽培された作物や汚染水で調理された食物の摂取、自宅周辺の汚染土壌との接触、鉛の粉じんを含んだ空気の吸引などだ。汚染管理局による環境検査の結果、川沿いの土壌のほか川水や堆積物について、許容できないレベルの鉛汚染が明らかになった。小川沿いのさまざまな地点で採取した魚、エビ類、カニ類、野菜も汚染されていた。

こうしたきわめて悲惨な状況にもかかわらず、2011年に天然資源環境省はカンチャナブリ県の鉛鉱山についての環境アセスメントを依頼した。タイが鉛鉱開発と精錬を再開・強化する可能性が生まれている。

「タイ政府はクルティ・クリークの汚染の教訓も住民の鉛中毒の現状も無視しているようだ」と、前出のピアスハウス調査員は述べた。「タイは鉛鉱山開発の拡張など考える前に、クルティ・クリークの除染を行い、被害住民を治療すべきだ。」

県・郡公衆衛生当局の対応はまったく不十分だと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。検査を受けた村人の多くが血液検査の結果を知らされていない。血中の鉛濃度は「安全」だと通知された住民もいた。しかし国際基準によれば、鉛中毒に安全といえる濃度は存在しない。血中濃度が高かった子どもは、その後の医療を受けていない。多くの村人がヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、公衆衛生当局は2008年を境に血液検査を止め、以降何もしていないと述べた。

鉛は中毒性が高い。身体の神経、生物的、認知的機能を妨害する恐れがある。高レベルの鉛摂取は脳、肝臓、腎臓、神経、胃に害を与えるほか、貧血、昏睡、けいれんを発生させ、時には死に至ることもある。子どもと妊娠中の女性はとくに中毒になりやすい。高レベルの鉛中毒は恒久的な知的障害・発達障害の原因となることもある。読書や学習面での障害、行動障害、注意障害のほか、聴力喪失、視覚・運動機能の発達途絶が生じることもある。

工業化と鉱業の進展により、タイ全土で汚染による健康被害への懸念が高まる地域が多数存在する。ルイ県ナノンボン(シアン化物、水銀、ヒ素)、タク県メタオ(カドミウム)、ピチット県(マグネシウム、ヒ素)、ラヨン県マップタプット一帯(産業用化学物質)などだ。

タイは基本的な人権関連条約とさまざまな環境関連条約を批准している。これらは各国政府に対し環境の保護、安全な飲料水の提供、市民の健康の確保の義務を課しており、とくに子どものほか、女性、障がい者、先住民など弱い立場にある人びとへの配慮を強調している。タイの国民衛生法も、すべての人に健全な環境への権利があると定めている。国際法では、到達可能な最高水準の衛生、および飲料水への権利は、これらの権利の侵害に対する効果的な救済措置への権利を含んでいる。

「タイ政府は裁判所の命令を無視することを止め、明確で詳細なスケジュール付の除染計画を立案すべきだ」と、ピアスハウス調査員は指摘する。「タイでは多くの場所で人びとの健康を損なう深刻な工業汚染が発生している。クルティ・クリークの徹底的な除染作業は、タイ政府にとってこうした地域での作業のモデルを作るうえで役に立つだろう。」

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