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EU:ビルマの人権状況改善の停滞を招く制裁解除

ロヒンギャ民族など少数者の権利擁護と政治囚釈放への圧力 依然必要

(ブリュッセル) - 欧州連合(EU)は対ビルマの対象限定型制裁をすべて解除した。これは時期尚早な動きであり、EUは、依然深刻な人権状況の改善をビルマ政府に強く働きかける新たな枠組みを作る必要がある、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。2013年4月22日、EU外相理事会は、ビルマ国軍・政府関係の個人と組織に対し、20年来のEU域内へのビザ発給停止措置と対照限定型制裁を解除。なお武器禁輸措置は解除されていない。

「EUの対ビルマ制裁解除は時期尚早であり、これまでの人権状況改善の成果を無謀にも危険にさらしている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチEUディレクターのロッテ・ライヒトは述べた。「EU加盟国はここまでの進展の原動力だった方策を放棄し、公約履行と改革継続に関するビルマ政府と国軍の善意に賭ける行動に出ている。」

2012年4月、EU外相理事会は武器禁輸を除くすべての制裁措置を1年中断し、ベンチマークの概要を示して、将来的な制裁解除決定に向けた進展状況の判断に用いるとした。このベンチマークには、残存政治囚全員の釈放、カチン州での紛争など紛争の停止、全国レベルでの人道支援へのアクセス改善、ロヒンギャ・ムスリムへの援助増加と待遇改善等が含まれていた。指標の多くは、テインセイン大統領が2012年11月のオバマ米国大統領のビルマ訪問に先立ち、公約した内容に近い。

進展が期待通りとなる代わりに、これらのベンチマークはいずれも完全に実施されてはいないか、進展が足踏みしていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

政府公約によれば、240人と推定される政治囚の事案に決定を下すことになる評価メカニズムは2013年2月に設置されたところで、数回短い会合が行われただけだ。NGO側の参加者は、このメカニズムの範囲とマンデートの中身に不満を表明している。法律面での改革はペースが遅いため、歴代軍事政権が用いた多くの抑圧的な法令が条文上は現在も存在しており、反政府的な意見の抑えこみや、非暴力活動家の逮捕に用いられうる。カチン州では、戦闘と人権侵害が続く恐れがあるため、2013年2月の中央政府とカチン独立軍(KIA)との停戦にも関わらず、現在も8万人以上のカチン民族避難民が帰還できないままだ。KIA支配地域にいる避難民は食糧、医療、適切な住居への緊急的なニーズがあるが、政府はこれら避難民への人道的アクセスを厳しく制限し続けている。

「EUの対ビルマ政策決定では大げさな賛辞が客観的な評価に取って代わったようだ」と、前出のライヒトは述べた。「いまやEU加盟国は国ごとに、また集団として、ビルマ政府との直接対話と国際的な枠組みの場で共に、人権状況改善を公けに取り上げる責任がある。」

緊急の懸念事項として、民族的少数者のロヒンギャ民族を標的とした、政府によるアラカン州での「民族浄化」作戦、また12万5千人以上の避難民の存在が挙げられる。ヒューマン・ライツ・ウォッチはこの問題に関する報告書『ただ祈るだけ』を先日発表した。政府は危機的な状態にあるロヒンギャ民族に対し、限定的で不十分な人道的アクセスしか認めていない。EU高官筋は、雨季が数週間後に始まると、ロヒンギャ民族は「人道上の惨事」に直面すると警告している。避難民キャンプの内外で暮らす大量のロヒンギャ民族は移動の自由を認められず、政府治安部隊の支援を受けた地元当局からの絶え間ない迫害や暴力に苦しんでいる。こうした差別はロヒンギャ民族の避難民をもっと大きな人権侵害のリスクに晒すことになると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

「EU制裁解除は、アラカン州で危機的状況にあるロヒンギャ民族にとって状況が悪化しているときでなくてもよかった」とライヒトは指摘する。「EUは取り組みを強化し、援助不足ですでに苦しむ人びとを支援し、ロヒンギャ民族に対する政府の抑圧的な政策と実践を終わらせるよう強く働きかけるべきだ。」

3月のテインセイン大統領欧州訪問時、EU高官はビルマ政府の政治・経済改革を称賛したが、人権状況に関する継続的な懸念を十分には伝えなかったとヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。モニタリング、報告、能力開発に関する完全なマンデートが付与された、国連人権高等弁務官事務所の常駐事務所の設置という公約は現在も履行されていない。ビルマはまた、ビルマの民族紛争地域での戦争犯罪が疑われる事例など、過去の人権侵害の実行者について捜査と訴追を行なっていない。

「EUはビルマへの関与を規定する包括的な政策を直ちに定め、軍人や軍関係の企業による人権侵害をこれ以上加速させず、ビルマに住むあらゆる人びとの権利に対するさらなる尊重を促すべきだ」とライヒトは述べた。「ビルマ政府は多くの人びとの信頼を、特にいつでも事態が悪化しかねない紛争地域や民族地域では、まだ勝ち取っていない。こうした人びとにとって権利の保護と改革は未達成の公約なのだ。」

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