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 (シルト)-ムアンマル・カダフィ大佐の42年にわたるリビア独裁の終焉は、久しく続いた人権侵害の時代に終止符を打つまたとない機会だ、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。メディアの報道によると10月20日、カダフィ大佐の故郷シルトで起きた戦闘の際、リビア国民評議会部隊の攻撃かNATOの空爆で大佐が負傷。消息筋は直後に大佐が死亡したとしている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東・北アフリカ局長サラ・リー・ウィットソンは、「カダフィ大佐の残虐な独裁終焉に伴い、リビアの人びとは彼の支配下で行われた多くの犯罪に対する法の裁きを目にする機会を得た」と述べる。「40年もの間、人びとは恐怖と弾圧にさらされていた。その恐ろしい40年間についての真実を知り、人権侵害に関与した高官たちが公正な裁きを受けるのをリビア国民が目にすることこそが肝要なのであり、カダフィ大佐の死をもってして足る、ということはない。」

42年間のカダフィ大佐独裁時代は、国内外における驚愕の人権無視に彩られていた。過去40年の最も重大な犯罪に関する中立的で徹底した調査に、新政府は努めるべきだ。膨大な数の人権侵害の中でも最も悪名高いのが、1996年にアブサリム刑務所で発生した推計1,200人の囚人虐殺だろう。1969年以来の人権侵害には、強制失踪や政治的動機による逮捕、拷問、並びに表現と結社の自由に対するほぼ完全な抑圧などが含まれている。周辺地域でも最も徹底した警察国家のひとつが、カダフィ大佐独裁のリビアだった。彼が考案した独特の政治制度「ジャマヒリヤ(大衆による共同体制)」は、実のある選挙を不可能にした−−これが、新生リビア民主政府をして改善しなければならない要素であることは確かだ。リビア国外においては、1988年に起きたパンナム航空103便爆破事件に関与していたという疑惑で、大佐は最もよく知られていた。同事件では、スコットランドのロッカビー上空でパンナム機が爆発、270人が死亡している。

2001年に起きた9/11同時多発テロの後、カダフィ大佐は数十年にわたる外交的孤立と縁を切り、対テロ活動において米国および欧州各国の同盟国となった。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、テロ容疑者への拷問に繋がったレンディション(国家間移送)に関するリビアと米国および英国諜報機関の共謀について調査し、取りまとめている。

カダフィ大佐が対テロ活動を支援したことに加え、利益の大きい石油ビジネスの機会もあり、西側諸国はカダフィ大佐擁護に積極的になった。そのことが、近年のリビアにおける人権侵害問題に対する西側諸国の批判を鈍らせていた。

新憲法における基本的人権の保護を含め、リビアの新指導者たちは、人権に関する規範で国家を導くという前例のない好機を得る。カダフィ政権と異なり、国際法関連機関や人権機関、国際条約を批准し、実施する立場を取ることになろう。刑法や刑事訴訟法、並びに結社・表現・政党の自由を制限する法律など、リビア国内法を国際的な人権基準に沿った内容とするには、大幅な改正が必要となる。更に司法制度や治安機関についても、抜本的な再構築と改革、訓練が求められる。

またリビア国民評議会は、カダフィ大佐が長く本拠地にしていたシルトや、10月17日に同議会部隊が掌握したバニワリドでの略奪や財産破壊といった報復攻撃を制止すべく、直ちに対策を講じるべきだ。これらの都市におけるカダフィ大佐支持者とその財産への報復攻撃は捜査・訴追される、という強いメッセージを送らねばならない。また、カダフィ大佐の死にまつわる状況についても捜査すべきだろう。大佐が拘束中に殺害されたとすれば、重大な戦争法違反に値する可能性がある。死因を確定するため、国際的な監視下での解剖を実施するよう、ヒューマン・ライツ・ウォッチは国民評議会に要請した。

カダフィ大佐の独裁に反対する大規模な民衆デモが行われた後、今年2月に政府と反政府軍の紛争が勃発。処刑一般市民居住区への無差別攻撃、反政府デモ参加者や野党政治家に対する広範な逮捕と強制失踪など、カダフィ派部隊による重大な人権侵害が起きている一方、カダフィ大佐に対して武器を取った反政府軍もまた、現在掌握しているいくつかの地域で、カダフィ大佐の弾圧にくみした集団に恨みを抱き報復攻撃を行っている。

国民評議会は早急にこうした報復攻撃を非難し、迅速かつ公正に捜査・処罰し得る司法制度を整えるべきだ。また、真実・和解・移行期の法の正義(トランジショナル・ジャスティス)に向けた基盤を、可能な限り早急に確立する必要がある。42年にわたる人権侵害は、その過程がいかに長くかかろうとも不処罰のままでは済まされず、また過程は公正で公開されたものになることを、リビア国民に早期確約せねばならない。

前政権や軍の高官に対する人権侵害容疑のいかなる訴追においても、被告人の適正手続上の権利は全面的に保護されなければならず、また死刑などの残虐で非人道的刑罰も排除すべきだ。国際的な人権保護法および人道法に沿って、国民評議会部隊の監督下にあるすべての容疑者を人道的に扱い、訴追するよう保証すべきだ。また、カダフィ政権高官に発行された未執行の逮捕状2通の尊重を含め、暫定政府は国際刑事裁判所(以下ICC)に協力せねばならない。

今年2月15日以降にリビアで行われた犯罪に対して、ICCは3月3日に捜査を開始している。2月26日の第1970号決議で国連安保理は、リビアでの事態をICCに付託した。同決議は、リビアでの重大犯罪に関するICCの捜査に対しての協力を義務づけている。

6月27日にICC裁判官は、カダフィ大佐と息子セイフ・アルイスラム・カダフィ氏、並びにアブドラ・サヌーシ前軍部諜報部長に対する逮捕状を正式承認した。この3名は、平和的なデモ参加者を含む一般市民への攻撃で果たした役割による、「人道に対する罪」容疑をかけられている。これらの攻撃はリビア国内のトリポリやベンガジ、ミスラタなどで起きた。

前出の北アフリカ・中東局長ウィットソンは、「新憲法起草は、リビアの前向きで建設的な改革に向けた千載一遇の機会だ」と指摘。「カダフィ大佐の悪夢が二度と繰り返されないための最善策は、法の支配に基づく新リビアの建設、全国民の権利の尊重、法の裁きを好き勝手に操った個人の訴追にある。」

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