(ニューヨーク)-「スリランカ政府は、軍事会議を開催し、タミル・イーラム・解放のトラ(以下LTTE)との内戦の際、戦争法に違反して多数の民間人を殺害した行為を正当化しようとしている。各国政府は、この会議への招待を断らなければならない」と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。以前、スリランカ政府は、中国・インドネシア・日本・マレーシア・モルディブ・ネパール・フィリピン・韓国・シンガポールが、この会議に出席する見込みであると表明した。
スリランカ政府は、2011年5月31日から6月2日まで首都コロンボで開催する「テロリズム対策セミナー:スリランカの経験」に54ヶ国を招待している。当会議のウェブサイトは、スリランカ軍高官とパネリストが、「対反乱軍戦略に関する知識を共有し、LTTEを軍事的に撃破できた要因を列挙する」と述べている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは「スリランカが勝手に主張している対反乱軍戦略の"モデル"とは、民間人を繰り返し砲撃すること、病院を標的にすること、そしてそれらの事実を国際社会が気付かないようにすることなどである。この会議は、人権侵害をごまかす広報活動以外の何物でもない。職業的倫理観を持ち、法に従う軍人なら、このような茶番に参加するべきでない」と語る。
4月に潘基文(Ban Ki-moon) 国連事務総長は、政府軍部隊とLTTEの双方による軍事作戦が、「民間人の保護・諸権利・福祉・生命を甚だしく軽視し、国際法の尊重を全く無視したものであった」とする国連専門家委員会の報告書を公表。同報告書は、今回の戦争での行為が「戦時と平時両方において、個人の尊厳を保護するよう意図された国際法の全体系に対する重大な違反」を意味すると指摘した。また、2009年5月に終わった内戦の末期の数ヶ月間に、4万人に及ぶ民間人が殺害されたと述べている。
内戦末期の数ヶ月間、30万人を越えるタミル人民間人が戦闘に巻き込まれた。スリランカ政府は"民間人犠牲者ゼロ"政策に沿った"人道的救出作戦"を行った、と頑なに主張し続けている。内戦が終了して間もなく、マヒンダ・ラージャパクサ(Mahinda Rajapaksa)大統領は、「人権侵害は全くなかった。民間人犠牲者もなかった」と述べている。軍の最高責任者であるジャガス・ジャヤスリヤ(Jagath Jayasuriya)中将は最近、「違反行為があったという全ての主張は"事実無根、根拠のない"ものだ」と述べている。
スリランカ政府当局者は、スリランカの対反乱軍戦略の「モデル」の他国への売り込みをかけてきた。しかしながら、国連専門家委員会は、ヒューマン・ライツ・ウォッチや他のスリランカ内外の機関、米国国務省などの以前からの指摘を認め、政府軍部隊が広範かつ無差別の砲撃で民間人を殺害し、病院や診療所だとわかってこれを攻撃、戦闘地域にいた民間人に人道的援助物資を与えなかった、といった事実があったと断定した。また政府軍が、被拘束者への即決処刑・拘束中の女性へのレイプ・その他の者の強制失踪などを行ったことも明らかにしている。
さらに、国連専門家委員会は、LTTEが民間人を「人間の盾」として利用し、LTTEの支配地域から脱出を試みた民間人を殺害し、民間人の近くで武器を使い、子どもを軍務に就かせ、民間人に強制労働をさせ、民間人に対する自爆攻撃を行った、などの事実も認定した。
国連専門家委員会は、スリランカ政府に真の検証調査を行うよう求めるとともに、国連に対しては、国連委員会の勧告のスリランカ政府による実施を監視する独立した国際的メカニズムを設立し、中立的な調査を行い、証拠を収集保全するよう提案した。スリランカ政府は、報告書の指摘に沿って行動するどころか、その報告書を「不当」で「偏見に満ちた根拠のない一方的なもの」と非難し、報告書の勧告に沿った国際的行動を阻止すべく外交キャンペーンを開始した。
スリランカ政府は、人権侵害の責任を検証調査するどころか、逆に、対反乱軍作戦の際に、長年の歴史を有する戦争法を政府が無視できるようにするためだろうか、テロリスト勢力との闘いにおける"交戦法規の見直し"を求めたのである。
スリランカ内戦から教訓を学ぶための第一歩は、国連加盟国が国連専門家委員会の勧告に沿った検証調査を行う独立の国際機関を立ち上げることであるべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
「冷酷で残虐な反乱軍であるLTTEの敗北に学ぶべき重要な教訓はいくつもある。しかしそれらの教訓は、スリランカ政府が真実を歪曲し、自らの残虐行為を隠蔽しようとする限り、学びとれるはずもない」と前出のアダムズは語る。
セミナーに招待された国々のリスト
スリランカ政府は今回の軍事会議のウェブサイトに、招待した54ヶ国をリストアップしている。4月には政府が参加を見込んだ30ヶ国のリスト(以下に掲載)が同ウェブサイトに公表された。リストに掲載されているオーストラリア政府とスウェーデン政府はすでに、出席しない旨を述べている。このリストはその後同ウェブサイトから削除されたが、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、同リスト掲載情報の正確性について、リスト掲載当事国政府から直接の確認はとれていない。
オーストラリア
ボツワナ
カナダ
中国
チェコ共和国
ガーナ
ハンガリー
インドネシア
イスラエル
イタリア
日本
ケニア
マレーシア
モルディブ
モザンビーク
ネパール
ナイジェリア
オマーン
フィリピン
韓国
ルーマニア
シンガポール
南アフリカ
スウェーデン
スイス
タンザニア
トルコ
ウクライナ
ザンビア
ジンバブエ