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パキスタン:人権を侵害する強制立ち退き、都市貧困層が標的

植民地時代の法制度を改め、居住や生計への権利の擁護を

取り壊されたカラチ、Mujahid Colonyの住宅、2022年。  © 2022 Karachi Bachao Tehrik
  • パキスタン政府当局は、植民地時代の法律や政策を頻繁に用いて、開発プロジェクトのために、低所得層の住民、商店主、露天商を強制的に立ち退かせている。
  • 立ち退きには移転支援や正当な補償が伴わず、パキスタンで最も経済的・社会的に疎外されたコミュニティに過大な負担を及ぼしている。
  • パキスタン政府は土地関連法を改正し、立ち退きによってホームレス状態になる人が出ないようにするとともに、十分な補償と移転の選択肢を提供すべきである。

(ニューヨーク)パキスタン政府当局は植民地時代の法律や政策を頻繁に用い、公共および民間の開発プロジェクトのために、低所得層の住民、商店主、露天商を強制的に立ち退かせていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で述べた。

報告書「『命からがら逃げ出した』:人権を侵害するパキスタンでの強制立ち退き」(全48頁)は、パキスタンで経済的、社会的に最も周辺化されたコミュニティに過度の負担を強いる強制立ち退きの実態を明らかにしたものだ。こうした立ち退きは、広範に実施されており、人びとの権利を侵害している。政府当局は、十分な協議、通告、補償、移転支援、あるいは補償措置なしに、多くの人びとを立ち退かせ、その基本的権利を侵害している。

「パキスタン政府には、植民地時代の土地関連法を緊急に改正し、公平で透明性を備えるとともに、パキスタンが負う国際的義務に則った法律にすることが求められている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局シニア・カウンセルであるサループ・イジャズは述べた。「政府当局は、立ち退きによってホームレス状態となる人が出ないようにするとともに、土地の損失を補償し、立ち退かされた人びとに移転先を提供すべきである」。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ラホール、イスラマバード、カラチの各都市で強制立ち退きにあった36人と、立ち退かされた人びとの権利を擁護する法律家や都市計画専門家にインタビューを行うとともに、パキスタンの土地所有制度に関する判例と法律を検証した。

検討した集団立ち退き事案の大部分で、政府当局は十分な協議、通知、補償措置を実施していなかった。多くの場合、警察は土地の所有者・借用者を排除するために不必要または過剰な有形力を行使し、殴打、恣意的逮捕、財物破壊などを行っていた。政府は、開発プロジェクトが重要な公共機能を果たしていると喧伝するが、だからといって、影響を被る人びとへの回避可能な損害が軽くなるわけでも、そうした損害に対処すべき政府の国際法上の義務が軽減されるわけでもない。

立ち退きを命じられた人びとの多くは、住んでいた家を失ったことに加え、生活基盤をなくし、学校や医療といった生活に不可欠な公共サービスを利用することもできなくなっていた。こうしたやり方は社会的、経済的不平等を悪化させ、所得の低い個人や世帯に過度の負担を強いている。

植民地時代に制定された土地取得法(1894年制定)は、1世紀以上経った現在もパキスタンでの公的な土地収用のひな型となっている。この法律は、定義の曖昧な「公共の目的」のためであればパキスタン政府当局による土地収用を認めるが、この「公共の目的」には官民パートナーシップや営利目的の民間企業による土地利用も含まれることがある。この法律及び関連法は、強制収用対象をほぼ独占的に決める権限を政府に与えており、国際人権法と国際人権基準に反する最低限の手続上の保護措置によって人びとを立ち退かせる内容である。

政府はしばしば、公有地や国有財産を「侵犯」する建造物の撤去は必要であり、正当だと主張する。この「侵犯」は複数の州や地域の法律では犯罪とされており、有罪になれば罰金に留まらず拘禁刑を宣告されることもある。

しかし、このした撤去で強制的に立ち退かされた人びとからの聞き取りによれば、立ち退きを正当化する理由として侵犯防止を用いることには一貫性がなく、根拠も乏しいことが多い。例えば、バシール・フサイン一家はカラチの市場で70年にわたり小さな商店を営んでおり、市公社には遅滞なく家賃を支払い、公共料金や税金も納めていた。しかし2018年、当局は侵犯防止の一環としてフサイン一家の店を取り壊した。「私の店がどうして侵犯に該当するのでしょうか?」と、フサイン氏はいう。「1950年代から市に家賃を支払ってきました。わが家は3世代にわたってこの店を営んできたのですよ」。

政府には、公共の利益などの例外的な事情があれば、所有する物件からの立ち退きを含め、土地収用を行う権限がある。しかし、立ち退きが合法であるためには、国内法および国際人権法と国際人権基準に則って実施される必要がある。国際法では「強制立ち退き」を、個人、家族、コミュニティを住宅や事業所、土地から「その意志に反して、適切な形態の法的又はその他の保護を与えること及びそれらへのアクセスなしに、恒久的又は一時的に立ち退かせること」と定義する。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、パキスタン政府当局が住民が土地への権利を持っているかを事前に確認しないことが多く、補償があったとしてもわずかであることを明らかにした。警察は合法的な根拠なしに、抵抗する人びとを逮捕、起訴することもあった。これ以外にも、土地収用での汚職、人権を侵害する立ち退きを実行する警察の不処罰、強制立ち退きの被害者が所有権をなかなか証明できない貧弱な登記制度などによって、人権侵害が助長されている。

この問題に対処しようとする地方政府も複数ある。2023年1月、シンド州政府は「シンド移転・復興政策2022」を策定した。同種のものとしてはパキスタンで初めてだ。しかし、この政策が実際に行われるかどうかが試金石になると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。

「パキスタン政府は、住民の利益となるよう計画されたプロジェクトが、法律に則って実現されるようにすべきである」と、前出のイジャズ シニアカウンセルは述べた。「どうしても移転が必要な場合には、人びとがもつ居住、生活、安全に対する権利を尊重し、法に則って秩序あるかたちで計画・実施すべきである」。

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