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ウクライナ国家緊急事態省がハリコフから回収した、多連装ロケット砲「スメルヒ」と「ウラガン」から発射されたクラスター弾の残存物。2022年4月撮影。 © 2022 Sergey Bobok, AFP
  • ロシア軍はクラスター弾を繰り返し使用し、ウクライナの民間人数百人に予測可能かつ永続的な被害が発生していると、『クラスター弾モニター2022』は報告した。
  • クラスター弾が散布する危険な子弾は、除去・破壊されない限り、長年にわたり、地雷のような殺傷効果を生む。
  • クラスター弾に関する条約は現在、110カ国が批准し、さらに13カ国が署名する。条約に未参加の各国政府は、方針を見直し、クラスター弾の世界的な廃絶に向けた取り組みに貢献すべきである。

 

(ジュネーブ)ロシア軍によるクラスター弾の度重なる使用は、何百人ものウクライナの民間人に予測可能かつ永続的な被害をもたらしていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日、世界の現状を分析した報告書『クラスター弾モニター2022』(全100頁)の発表にあたり、指摘した。ロシアとウクライナの両国は、クラスター弾の使用を止め、クラスター弾を禁止する2008年の国際条約に参加すべきである。

ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、現在クラスター弾が使用されているのは世界でウクライナだけだ。ウクライナの24州のうち少なくとも10州で、ロシアのクラスター弾による攻撃が数百件記録あるいは報告されるか、その疑いがある。速報段階だが、2022年2月~7月にかけて、ウクライナでクラスター弾攻撃による民間人被害者は689人にのぼる。また、ウクライナ軍は少なくとも2回、クラスター弾を搭載したロケット砲を使用したと見られる。

「クラスター弾は民間人に直接的かつ長期的な苦しみをもたらします。この事実を踏まえれば、現在のウクライナでのクラスター弾の使用は、良心にもとる、どうみても非合法なものである」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ武器アドボカシー局長で、『クラスター弾モニター2022』の編集を行ったメアリー・ウェアハムは述べた。「すべての国は、状況の如何にかかわらず、この兵器の使用を非難すべきである」。

クラスター弾は、地上から大砲、ロケット砲、迫撃砲で発射されたり、航空機で投下されたりする。クラスター弾は通常、空中で爆発し、多数の小型爆弾、すなわち子弾を広範囲にばら撒く。子弾は最初の着弾で爆発しないことが多いため、危険な不発弾が残る。このため、除去あるいは破壊されるまで、地雷のように長年にわたり、無差別に人を殺傷する可能性が生じる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチがウクライナ第2の都市ハルキウ(ハリコフ)で行った調査によると、ロシア軍は5月と6月にロケット砲から発射したクラスター弾の子弾は、複数の住宅や街路、公園、産科病院の外来診療所1カ所、文化センター1カ所などを攻撃した。5月12日の同州ハルキウ区デルハチ(Derhachi)への攻撃では、自宅の庭で料理をしていた女性1人が即死した。夫は両足を奪われ、その後死亡した。

クラスター弾は、110カ国が批准し13カ国が署名した「クラスター弾に関する条約」(2008年)で包括的に禁止されている。2008年5月30日に条約が採択されて以来、いずれの締約国についても、クラスター弾の新たな使用、製造、移譲の報告や疑いは確認されていない。しかし、2020年以降、この条約を批准した国はなく、ロシアもウクライナも締約国ではない。

今回の報告書『クラスター弾モニター2022』は、この条約への参加の有無にかかわらず、全世界の国によるクラスター弾廃止への取り組みを追跡している。2021年、クラスター弾攻撃による新たな被害者が10年ぶりに0人だった。しかし、クラスター弾の不発弾による新たな被害者は8カ国で147人にのぼった。被害者の年齢が明らかなもののうち、3分の2は子どもだった。このように、クラスター弾による被害者ははっきり減少していたが、2022年2月以降のウクライナでの新たな使用によって事態は変わってしまった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、クラスター弾に関する条約が定める厳しい基準が、各国政府の開発・取得計画に影響を与えていることを明らかにした。クラスター弾を貯蔵するが、条約には加盟していない47カ国の多くで、クラスター弾配備が終わりつつあるためだ。

2022年、ロシアはウクライナ国内で、自国が貯蔵する旧型クラスター弾と、新しく開発したクラスター弾の両方を使用している。2022年にウクライナ政府が第三者から受け取った大砲やロケット砲(ロケット発射装置)などの兵器のうち、条約で定義されたクラスター弾が移譲されたことを示す証拠はない。

他の軍事大国は、クラスター弾の廃絶という前向きな流れに逆らっている。中国とイランは、新型クラスター弾の研究開発に積極的だ。

米国は2016年にクラスター弾の製造を停止したが、国際条約には参加しておらず、今後は製造しないとの確約も行っていない。

この条約の下、これまでクラスター弾を保有していた37カ国が貯蔵分を廃棄しており、合わせて1億7,800万個の子弾を含む約150万個のクラスター弾が廃棄された。条約締約国が貯蔵を報告しているクラスター弾の99%に相当する数だ。

2021年~2022年6月の1年半で、ブルガリア、ペルー、スロバキアは自国貯蔵分について、少なくとも1,658個のクラスター弾と46,733個の子弾を廃棄した。条約に基づき、クラスター弾の不発弾が残る国では、2021年に58平方km以上で除去が行われ、少なくとも78,424発の子弾とクラスター弾の不発弾が破壊された。

『クラスター弾モニター』は、ヒューマン・ライツ・ウォッチが共同設立者と共同議長を務める非政府組織(NGO)のグローバルな連合体「クラスター弾連合」(Cluster Munition Coalitioin: CMC)が毎年発行する報告書で、モニタリングの成果を掲載している。報告書は、8月30日~9月2日までジュネーブの国連本部で開催される、クラスター弾に関する条約の第10回年次会合に出席する各国に示される。

「ロシアがウクライナでクラスター弾を広範囲に使用している事実は、この無差別兵器による人的被害をゼロにするうえで、この条約が克服すべき現実を改めて突きつけるものだ」と、前出のウェアハム局長は述べた。「条約未加盟の各国政府は、方針を見直し、他国と協力して、クラスター弾の世界的な廃絶に貢献すべきである」。

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