(ニューヨーク)1年前の2020年7月1日に強硬な香港国家安全維持法(正式名称:中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法)が施行された香港では、中国政府によって人権の体系的な解体が進行している。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書でこう指摘した。香港で最も人気のある新聞の1つである「アップル・デイリー」は当局の取り締まりの結果、2021年6月23日付で廃刊となった。これは香港で人びとから権利が奪われ続けているスピードと激しさを示している。
今回の報告書『香港 自由な社会の破壊』は、中国政府が香港で多数のセクターや機関を北京の中央政府の統制下に置くために行っている主要な動きを明らかにしている。中国当局は、著名な指導者を逮捕し、中国政府と共産党への忠誠を公に表明するよう香港の人びと(児童生徒も対象)に迫り、警察と司法を独立した公平な法の執行機関ではなく、国家支配の道具にすることで、民主化運動を衰退させようとしている。
「香港の人びとは、中国政府が香港の民主主義社会を破壊するために矢継ぎ早に手を繰り出しているのを目の当たりにしている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ中国担当上級調査員の王松蓮は述べた。「香港の人びとはこれまで政治について話したり、選挙に出たり、政府を批判したりしていたが、今やそうした行為は禁止されているどころか、最高で終身刑になる。」
中国政府は、表現の自由、結社の自由、平和的集会の自由、情報へのアクセスの自由、学問の自由など、人びとが長年享受してきた市民的・政治的権利を計画的に消滅させている。市民はもはや、自由で公正な選挙に参加する権利も、立候補する権利もない。当局は、自由なメディアを閉鎖し、民主化運動への資金供給を断ち、政治犯罪で訴追された人びとから公正な裁判を受ける権利を奪っている。警察による人権侵害の責任はますます追及されなくなっている。
香港での中央政府の動きは組織的かつ包括的であり、自由度の高い都市を中国共産党の方針に従属する都市に変えることを目的としているようだ。中央政府を支持する政治家や個人、国有メディアである「大公報」や「文匯報」は、香港の人びとを貶めかつ脅迫し、香港の人びとを怯えさせて、みずからの権利を行使したり、民主化活動を実践したりしないことを狙っている。
政府の弾圧がエスカレートしても、香港の人びとは人権への支持表明を続けている。天安門事件の記念日である6月4日には、これまでビクトリア・パークでロウソクを灯した大規模な追悼集会が行われていた。香港国家安全維持法の施行後、香港警察はこの追悼式を禁止し、主催者を事前検束し、公園を封鎖して、敷地に入れば逮捕すると警告した。しかし、公園の外では、何百人もの人びとがスマートフォンのライトを灯してこれまでのロウソクに見立ててこの日を記念した。また教会などでも多くの人びとが記念の意志を表した。
「中央政府は、民主主義と人権を求めて闘う香港の人びとの粘り強さと創造性を過小評価すべきではない」と、前出の王調査員は述べた。「外国政府は、人権侵害を行う香港政府高官に制裁を課し、香港市民の海外での自由を守ることで、こうした動きを支援すべきである。」