(ジュネーブ)— 国連人権理事会は、スリランカ内戦中の残酷な人権侵害に対し法の裁きを実現するメカニズムにおいて、国際社会の積極的な役割を確保する決議案を採択すべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。当該決議案は2015年10月1日に採択される見込みで、強い文言を含むものの、被害者が真の法の裁きを手に入れるには、決議内容が徹底的に執行されなければならない。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのジュネーブ代表ジョン・フィッシャーは、「この決議はスリランカ政府に、行動のときが来たことを告げている」と述べる。「国際社会が参加する司法メカニズムを後押しする決議は、被害者の法の裁きを実現させるため、国際社会の関わりが必要であることを示す重要なものだ。」
本決議草案は、国連人権高等弁務官による最新の報告書を基にしている。弁務官は内戦時に両陣営が犯した数多くの人権侵害、そして加害者の責任をスリランカ政府が数十年にわたり問わないでいる実情を詳述。報告書で示された具体的な提言には、スリランカの独立した捜査・訴追機関と「国際的な判事・検察官・弁護団・捜査官から成る」特別法廷の設置が含まれている。決議案は、スリランカ国内外の専門家で構成される混合(ハイブリッド)司法メカニズム設置を具体的に求めるものではないものの、もし決議内容がすべて実行されれば、これまで人権侵害に対する法の裁き実現に関し、自らの公言を行動に移さないできたスリランカ政府よりも希望が持てるものとなる。
過去の決議とは異なり、本決議案はスリランカ政府も共同提案国となることに同意した。決議案は当初、米国・英国・モンテネグロ・マケドニアの4カ国が提出した。2015年1月の選挙を経て発足した新スリランカ政権は、概してこれまでより国際社会と足並みをそろえた行動をとっている。しかし、特別法廷に関しては、法の裁き実現にもっとも必要である、独立した国外の検察官や多くの判事を含むことに反対している。
前出のフィッシャー・ジュネーブ代表は、「新スリランカ政府は当該決議案に賛同したことを通じ、スリランカ内戦の被害者すべてに重要な約束をした」と指摘する。「しかし、実りある国際社会の参加とモニタリングなくして、公正な司法手続きに介入しようとする国内の圧力や脅威を阻止するのは難しいだろう。」
スリランカ政府はこれまで、厳格なテロ防止法の廃止や、目撃者および被害者保護法の改正など、人権状況改善の勧告を数多く受け入れてきた。いずれも被害者の権利団体が長らく求めてきたものだ。また、治安部隊によって接収された土地返還の加速、北部・東部における市民活動を分断する軍の関与の停止、市民社会・メディア・宗教的少数派に対する攻撃疑惑の捜査、憲法改正第13条にそった中央当局の権限規制に向けた行動などにも、合意している。
前出のフィッシャーは述べる。「当該決議は、叫ばれ続けてきた改革の必要性を広範に訴えるものだ。テロ防止法が廃止されても、ただ異なる名を持つだけで同様の問題を抱える法に置き換えられることがないかが、新政府の誠意を試す初段階のリトマス試験紙となるだろう。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、当該決議内容の執行をめぐり、国際社会によるモニタリングが十分に設定されてないことに対し懸念を表明。現案では、2016年6月の人権理事会第32会期中に高等弁務官から口頭での報告、そして2017年3月の第34会期における書面での進捗状況報告を求めるのみの内容となっている。スリランカ政府に対しても、指揮命令責任を含む深刻な人権侵害に適用される国際法の遵守を保障し、訴追内容と犯罪の重大さが一致し、かつ罪の責任をもっとも負う個人がその対象となるために、具体的な提案が必要となる。
前出のフィッシャーは、「スリランカに関する人権理事会決議内容が実行されれば、過去および進行中の人権侵害問題に対処するための歴史的な節目となる可能性を秘めている」と述べる。「今や、約束を全面的に尊重するかを問われたスリランカ政府と、その実現を見守る国連加盟国、それぞれの双肩に責任が重くのしかかっている。スリランカ政府の行動を見過ごすのではなく、今こそ真の前進のため、同政府と共に長く実りある改革を実現する帰路に立っている。」