ビルマの最大都市ラングーンでは今週、「人権と尊厳映画祭」が開催されました。熱気に包まれた劇場で、私は観客が食べるひまわりの種の音を聞きながら、映画祭の審査員を務めていました。そこでは世界各地のドキュメンタリー作品が上映され、審査員席にはビルマ人元政治囚、亡命していたジャーナリスト、研究者、外国人監督などが肩を並べました。集まった観客も、ラングーンの民族的宗教的多様性をよく表していました。ビルマ、キューバ、ベラルーシ、スペイン、コンゴ民主共和国で制作された10数本の作品を、無料で楽しめると聞いて皆集まってきたのです。
しかし1本だけ上映キャンセルになった作品がありました。ビルマ映画『オープン・スカイ』です。この作品は、ビルマ中部の街メイクティーラを舞台に、仏教徒とムスリムの女性の友情を描いています。この街では2013年3月、仏教徒とムスリムのあいだに悲惨な暴力事件が起きました。40人以上が亡くなり、1,000戸以上の家が破壊されてしまったのです。壊された家屋の大半はムスリムのもので、現在も数千人が家を失ったままです。
映画祭の主催者は昨日になってこの作品の上映を取りやめました。ムスリムの被害者を同情的に描いている、そうした批判をビルマ民族側がソーシャル・メディアで猛烈に展開したことが原因です。映画祭会場での暴力行為や脅迫行為を懸念する主催者は、上映中止に追い込まれました。
現在ビルマでは、暴力行為をちらつかせる反ムスリムのヘイト・スピーチが増えており、今回の騒動はその最も新しい事件の1つです。この動きは超過激な民族主義を唱える仏教僧侶が主導しています。2012年以降の宗派間対立の原因となり、実際に暴力事件すら発生しています。 先週、仏教僧侶たちは、オーレドゥ(旧カタール・テレコム)がビルマで展開予定の携帯電話事業のボイコットを呼びかけました。ムスリム企業だからだと言うのです。更に、複数の文学関係のイベントが中止に追い込まれています。また、国連職員がムスリムびいきだと批判されており、一度は暴力事件にまで悪化しました。超のつく民族主義の僧侶たちは、妄想に凝り固まった陰謀論を唱えています。ごく少数にすぎないムスリム住民によって、多数派仏教徒の信仰が脅かされていると言うのです。こうした過激な僧侶たちはテインセイン大統領や議会に圧力をかけ、宗教を「保護」し、宗教の異なる男女の結婚を禁止する法律を起草するよう求めています。
映画『オープン・スカイ』に向けられた不寛容さは、映画を通して人権の素晴らしさを考えるという、今回の注目すべき建設的なイベントの唯一の汚点になりました。このような映画祭を開催することなど、わずか数年前には想像できなかったことなのです。こうした映画祭の開催そのものが、人びとを引き裂き、憎しみを煽ろうとする力に負けずに立ち上がろうという、ビルマ人の決意の表れではないでしょうか。しかし一部の人びとの反応を見ると、ビルマでの人権尊重のための戦いはまだ先が長いと思わずにはいられません。