(2014年2月19日) 国連の調査委員会は2月17日、北朝鮮政権が自国民に長年続けている残虐行為を明らかにした報告書を公開した。長年にわたり、世界各国は(日本を除き)北朝鮮政府による国内での人権侵害をおおむね等閑視してきた。少なくとも、核開発問題に対する強い関心と比べれば無視に近いと言ってよい。確かにこれまでは、傍観も政治的には可能だったのかもしれない。しかし、国連の委員会によって北朝鮮での犯罪行為の詳細が公式に記録された以上、そうした態度は良心を欠くと見なされるようになろう。報告書の内容は欧米では広く知られるようになった。しかし世界で一番この報告書に注目すべきなのは中国だ。

中国は北朝鮮が残虐行為を続けているにもかかわらず、軍事、経済両面で巨額の援助を実施している。したがってこの問題が裁判となれば、中国政府高官はこれらの犯罪を幇助して拡大させたことの責任を問われかねない。報告書は、北朝鮮難民の強制送還に関して中国政府を名指ししている。国連組織が、安全保障理事会常任理事国の高官が人道に対する罪に共謀している、と示唆することはめったにない。(中国外務省はこの容疑を「不当な批判」として退けている。)

しかし中国政府の実際の罪はこの報告書が記すよりも大きいものだ。中国が北朝鮮に及ぼす影響力は世界でもっとも強い。金日成、金正日、そして2011年12月から金正恩と続く金王朝に対し、長年にわたり経済援助と政治的な庇護を提供し、同国の生命線となってきた。他方で、隣国での恐ろしい犯罪を座視してきた。中国政府がその気になれば、多大な影響力を行使して、残虐行為の抑制を北朝鮮政府に強く迫ることは可能だ。あるいは、なんとか出国してきた北朝鮮国民を迎え入れる方針をとることだけでも可能だろう。中国は現在、こうした人びとを「経済難民」として扱い、本国に強制送還している。送還された脱北者たちの逮捕・拷問が常態化し、処刑される場合もある。こうした難民を受け入れない中国政府の態度は国際法に違反している。現情勢下での北朝鮮難民の強制送還は、ノン・ルフールマン原則に著しく違反する。この国際難民法の根本原則によれば、本人の意志に反して、迫害を受ける可能性のある場所に人びとを送還することは禁じられている。

それだけでない。中国政府は国際裁判を妨害する決意も固めているようだ。オーストラリアの法律家マイケル・カービー氏を委員長とする国連調査委員会は、北朝鮮の組織的な残虐行為は人道に対する罪に該当することを明らかにし、責任者を訴追するよう強く求めた。金正恩本人や政府軍、治安機関を長年率いる幹部がただちに拘束される見込みはない。しかし報告書によって変化が生じる可能性はある。旧ユーゴスラビアやリベリアでは、国際的な批判が残酷な指導者の権威に大きなダメージを与え、退陣を加速させた。最悪の行動を思いとどまらせた可能性もある。報告書を真剣に受け止め、何万人もの北朝鮮国民が過酷な生活を送る政治犯強制収容所を、北朝鮮政府が閉鎖するようなことが仮に起きれば、たいへん大きな一歩になるだろう。

訴追を行うとすれば、ハーグの国際刑事裁判所(ICC)がもっとも妥当な選択肢だ(もしくはそれと同等の特別法廷。対象となる犯罪の多くが、ICCの管轄権が及ぶ2002年より前に起きているため。)ICCでの審理には国連安全保障理事会での決議が必要だ。しかし中国は報告書に否定的な反応を示した。安保理決議に賛成するかという「仮定の問い」への回答を拒否した上で、中国政府はICCへの提訴は北朝鮮の「人権状況を改善する役には立たない」だろうと述べた。たとえ他の安保理理事国が提訴に賛成しても、中国による拒否権の可能性が大きな壁となることは間違いない。

中国が訴追に関心を示さない要因はいくつか存在する。とくに重要なのは、人権問題に国際的な注目が集まるのを避けたいということ。中国は紛争がおきた場合には、大量虐殺を防ぐための国連PKO活動や国際法廷の設置に賛成することもある。しかし平時の弾圧に国際的な注目が寄せられる前例ができることを恐れている。新疆やチベットなどの不安定な地域や、国内の反体制派に対する中国政府自身の行動が、今後注目をあびる可能性があるからだ。また金正日政権が残忍であるとはいえ、中国は北朝鮮政府が崩壊し、大量の難民が東北部に流入する事態が起きることを恐れている。現体制が崩壊すれば、西側同盟国で28,500人規模の米軍が駐留する韓国が、統一朝鮮の一部として中国と国境を接することにもなる。

こうした懸念は理解できるが、解決策もある。もし韓国が中国と突然国境を接することになれば、韓国政府が統一のコストを大部分引き受けることになるのは間違いない。また中国政府が米国と交渉し、安全保障面での主要な懸念である、米軍の中国国境付近への展開について、これを行わないとの保証を取り付けられないという事態は想像しがたい。

現状維持を望む中国政府は、北朝鮮国民の塗炭の苦しみから目を背けている。国連の報告書は、あらゆる読者の良心を揺さぶるもので、中国人も例外ではないはずだ。報告書は、8万から12万の政治囚を拘禁する収容所システムを詳しく説明している。囚人は、支配と懲罰の手段としての公開処刑、拷問、性的虐待、飢餓に常に直面している。現在の囚人の数は、数十万がすでに亡くなっていなければ、はるかに多いものになっていただろう。絶望的な境遇にある囚人は動物のような生存競争を強いられる一方で、看守による野放しの残虐行為にさらされている。

これを憂慮する世界の人びとが中国政府に方針転換を迫るためには、どうすればいいのか。米国やロシアが、自国に友好的な独裁者を寛大に扱って物笑いの種になってきたのとまったく同じように、中国は北朝鮮国民の苦難について責任追及を受けるべきだ。報告書が公開されたことで、中国政府が無関心を続けるコストは著しく上昇した。北朝鮮の今後は、中国政府との公式・非公式の対話を行うにあたり、すべての国がいつでも取り上げる話題の一つとなるべきだ。

もし中国政府が、国際刑事裁判所(ICC) や同等の特別法廷への提訴に関して安保理の行動を妨害するなら、拒否権システムの存在しない国連総会が、普遍的管轄権に基づき北朝鮮問題についての法廷を設置すべきだ。こうした法廷は安保理に裏打ちされた強制力を欠くが、各国政府が普遍的管轄権に基づいて行う訴追よりも、正当性の点で優れている。安保理常任理事国5か国にとっては、このようなかたちで拒否権が迂回されることは、むろん好ましくない。しかし中国は、無責任な権力行使には、当の権力の弱体化というコストが伴うことを学ぶべきだ。国連報告書の公開を受け、北朝鮮での人道に対する罪への中国政府の共謀を、世界はもはや無視すべきではない。