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モザンビーク:鉱山開発に伴う立ち退き 食糧と水が不足

政府と鉱山会社は被害救済と保護策充実を

(マプート)- モザンビークのテテ州では、ヴァーレ、リオ・ティント両社の国際的な炭鉱開発事業のため、1,429世帯が立ち退いた。現在その多くが、食糧と水について深刻な問題を抱え、生計を立てることが困難な状況に置かれていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表の報告書で述べた。モザンビーク政府は、石炭採掘許可を素早く与え、数十億ドルの投資を引き寄せる一方で、直接被害を受ける住民への十分な保護策を後回しにしている。

全122ページの報告書「食べ物がないのに、どうして家と呼べるのか?:モザンビークの炭鉱ブームと立ち退き」は、同国政府の政策と鉱山会社の開発事業が抱える深刻な欠陥によって、自給自足に近い農民が土地を追われ、河川や市場から遠く離れた、不毛の地に立ち退かされた実態を検証している。住民は食料不足に繰り返し悩まされており、ヴァーレまたはリオ・ティントが提供する短期的な食糧援助がある場合は、それに依存している。

「こうした数十億ドル規模の事業は、最貧国の1つモザンビークの発展を加速するはずだった。しかし実際には、多くの人々の生活を困難にしている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ上級調査員ニーシャ・ヴァリアは指摘している。「モザンビーク政府は、ヴァーレとリオ・ティントと協力し、立ち退いた農民が、次の農期までに耕作に適した土地を得るとともに、立ち退きプロセスが抱える欠陥について、適切かつ時宜を得た補償を受けられるようすべきだ。」

テテ州には、推定埋蔵量230億トンの石炭がほぼ手つかずの状態で存在し、天然資源開発の一大ブームが始まりつつある。2012年の政府統計によれば、採掘権と開発許可の既承認面積は340万ヘクタール、テテ州全面積の34%である。炭鉱はこのうち約3分の1を占める。

この数字は、許可承認申請中の分を入れれば、600万ヘクタール、州面積の約60%に跳ね上がる。開発事業がすべて採炭関係ではないが、採炭許可対象地域が密集し、土地利用をめぐる争いが生じている。

「採炭対象地が密集しているため、立ち退き対象の住民が、優良な農地と、生活を営むことのできる立ち退き先を手にする可能性が、大きく制限されている」と、前出のヴァリアは指摘した。「政府は、適切な保護策が実施されるまで、免許発給の見合わせを検討すべきだ。」

2009年から2010年にかけて、ヴァーレは1,365世帯を、新たに建設したカテメ(Cateme)村と、モアティゼ郡郊外の「9月25日地区」に立ち退かせた。リオ・ティントは、2011年にオーストラリアの鉱山会社リバースデールと、同社がモザンビークに持つ資産を買収。リバースデールとリオ・ティントは2011年に、それぞれ71世帯と13世帯を、新たに建設したムワラドジ村に立ち退かせた。リオ・ティントは、今年中にも、さらに388世帯を立ち退かせる予定である。ジンダル・スチール・アンド・パワーもテテ州で採炭事業を行っており、484世帯の立ち退きを計画している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、これらの鉱山開発事業に伴い、すでに立ち退きさせられたか、まもなく立ち退き予定の住民79人と、政府当局者、市民活動家、ドナー国関係者など50人に聞き取りを行った。住民の居住地は、カテメ、9月25日地区、ムワラドジ(Mwaladzi)、カパンガ(Capanga)、カソカ(Cassoca)である。

「先方に、住民の権利やニーズを伝えても、無視されてしまって回答はない」と、立ち退きした女性マロサ・C氏は述べた。「食べ物がなければ、買うお金もない。状況はまったく改善していない。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ヴァーレ、リオ・ティント、ジンダル・スチール・アンド・パワー各社の代表者に対し、35回を超えるミーティング、電話会談、書面などさまざまな機会を用いて、一連の問題を伝えてきた。

ヴァーレの代表者は、立ち退き先はそのままでは農業に適さず、生産性を高めるには灌漑が必要であることを認めた。またリオ・ティントは、ヒューマン・ライツ・ウォッチ宛の書面で、「ムワラドジの土地生産性は、灌漑を行わなければ、非常に低いことは承知している」と記した。しかし2013年4月時点で、簡単に利用できる灌漑の整備は一切行われていなかった。立ち退き先が市場から遠く離れているのに、移動手段が限られているため、農民は非農業所得を得ることも厳しくなっている。

ヴァーレが用意した立ち退き地、カテメ村に移った農民は、約束されていた補償はいまだ完全には実施されていない。5月初めの時点でも、カテメ村に立ち退いた全世帯が、2009年に合意した補償協定に基づいて、州政府が提供すべき、0.5ヘクタールの土地をまだ受け取っていない。

カテメ村の少なくとも83世帯が、事実上、農地を受け取っていない状態にある。最初に割り当られた土地が岩だらけか、元の利用者から返還を要求されているからだ。4月時点で、ヴァーレは、当該世帯が立ち退きしてからこれまで3年間で経験した、追加的なトラブルについて、彼らに追加補償をまだ一切行っていない、と述べた。

立ち退きを行ったのはヴァーレとリオ・ティントだが、立ち退き先の承認と割り当て、ならびに結果のモニタリングについて最終的な責任を持つのは、モザンビーク政府である。

政府および鉱山会社と、立ち退きさせられた農民との間に、コミュニケーションが不足していることを、ヒューマン・ライツ・ウォッチは明らかにした。企業と政府は共に、住民に対して、意思決定に加わり、苦情を申し立て、被害の補償を求める上で、適切に利用でき、応答を得ることができる仕組みを提供してこなかった。

ヴァーレの立ち退き先、カテメ村の住民およそ500人は、状況が改善されないことへの不満から、2012年1月10日に抗議行動を行い、ヴァーレ社の炭鉱とベイラ港を結ぶ鉄道を封鎖した。レンガ製造業者は、立ち退き対象者は多くないが、炭鉱によって生計を立てられなくなったため、2013年4月と5月にも抗議行動を行い、補償を求めている。

ヴァーレ、リオ・ティント両社は、立ち退いた住民の生活水準を改善することを、公式にも非公式にも約束している。2013年初めまでに、両社は、家庭用の水供給・貯蔵の改善プロジェクトを実施し、農地の灌漑用水の水量増加策に取り組んできた。さらに、養鶏協同組合の実施や新しい農業技術の指導など、生計を立てる事業を始めている。ただしこうした取り組みのなかには、成果が出るまで数年掛かるものもある。

モザンビーク政府は、法的枠組強化措置を講じている。たとえば、経済開発に伴う立ち退きを規制する法令が、2012年8月に成立した。これは、立ち退きに関して、深刻な欠陥を補い、住居と社会サービスの基盤整備をめぐる基礎条件を定めることに貢献した。ただし、土地の質、生計手段、医療アクセス、苦情申立制度などにかかわる重要な保護策については、実施に至っていない。モザンビーク政府は、鉱山事業の影響を受ける人々、民間団体、鉱山会社、ドナー側から広範な意見聴取を行った上で、立ち退きに関する法令を改定するべきだ。

オーストラリア、ブラジル、インド、英国などは、モザンビークで操業する当該国の鉱山会社について、人権にかかわる行動をモニタリングすべきだ。たとえば、当該企業に対して、事業が人権に与える影響を公表するよう義務付けるべきである。民間企業は、人権尊重の責任があり、企業活動を原因とする人権侵害発生防止のためモニタリングを行い、もし発生した場合には被害を最小限に抑えなければならない。

「テテ州でのヴァーレとリオ・ティントの事業は、今後数十年間モザンビークで起きるであろう、多数の大規模開発と立ち退きの初期の一事例だが、きわめて大切な教訓を示している」と、ヴァリアは指摘。「政府は有効な保護策を優先的に導入し、今後に事業の影響を被る人々が、過去に立ち退きした人々が味わった困難に苦しむことがないようにすべきだ。ジンダル・スチール・アンド・パワー、リオ・ティントなどが計画中の新規事業は、改善された保護策の有効性を確かめる上での試金石となる。」

 

報告書「食べ物がないのに、どうして家と呼べるのか?:モザンビークの炭鉱ブームと立ち退き」からの証言抜粋 :

「私はモロコシ(熱帯アフリカ原産のイネ科の穀類)を栽培していた。収量は貯蔵庫一杯になるくらいで、5、6袋は獲れた。トウモロコシで台所が一杯になるくらいだった。食べるものに困ったら買ってはいたが、通常その必要はなかった。[立ち退き先で]受け取った農地は痩せた赤土で、前の肥えた黒土ではなかった。トウモロコシを栽培しようとしたが、枯れてしまった。モロコシも育たなかった。新しい家には、建物しかない。本当に不満だ。『食べ物がないのに、どうして家と呼べるのか?』と言いたい。家を食べるわけにはいかないのだ。」マリア・C、立ち退きした農民、リオ・ティント社が建設した立ち退き先ムワラドジ村にて、2012年10月5

「あるときには水道管が壊れている、またあるときには貯水槽に問題がある、と言われる。そうなると瓶を持って、近所に水をもらい行くしかない。前に住んでいた場所では、水に困ったことなどなかった。もしポンプに水がなければ、川に行けば済んだ。ここでは十分な水がなく、数日水浴びができないこともある。」セノアリア・S、立ち退きした農民、カテメ村にて、2012年5月17

「先方に、住民の権利やニーズを伝えても、そのまま戻ってしまうだけで、回答はない。先月ミーティングがあったのだが(……)、向こうはこちらの苦情を書き留めるだけだ(……)。申立てへの回答など一度もない。つまり、われわれが抱える問題には何の前進もない。食べ物はなければ、買うお金もない。状況はまったく改善していない。」マロサ・C、立ち退きした女性、ムワラドジ村にて、2012年10月3

 

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