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ビルマ:ムスリム系ロヒンギャ民族、人道危機に直面

避難民に長期隔離の恐れ

(2013年3月26日、バンコク)ビルマ政府はアラカン州のロヒンギャ・ムスリムに関して人道援助を組織的に規制し、差別的な政策を継続している。同国政府は人道機関に自由なアクセスを与えてムスリム系住民への援助を許可し、隔離政策をやめるとともに、避難民の帰還計画を推進すべきだ。

「ビルマ政府のロヒンギャ・ムスリムへの援助規制は、雨季の訪れにより悲惨な状況が生まれるような人道危機を作り出している」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ アジア局長代理フィル・ロバートソンは述べた。「ビルマ政府首脳は、この問題に対処する代わりに、ロヒンギャ民族の帰還計画ではなくキャンプでの隔離政策を続けるつもりのようだ。」

2012年6月以来のアラカン民族による一連の暴力と人権侵害には、州治安部隊と州職員が後押しするだけでなく、時には直接参加している。これによりビルマ西部のアラカン州では12万5千人以上のロヒンギャ民族とカマン民族ムスリムが元の土地に戻れていない。ロヒンギャ民族の避難民数万人は十分な人道援助をいまだ受け取っておらず、孤立した人口稠密なキャンプで生活している。防ぐことができた死者の数は不明だ。キャンプを管理する政府治安部隊は外出を認めておらず、生計の維持に深刻な影響を与えていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはアラカン州シットウェー郡の主要な国内避難民(IDP)キャンプをすべて訪問すると共に、沿岸および水路地帯に住む未登録避難民の小規模居住区や、多くの国内避難民が現在も生活するムラウー郡にも足を運んだ。ロヒンギャ民族などムスリム系住民の避難民はアラカン州内13郡に拡散しており、大規模キャンプ15箇所は州都シットウェー一帯にある。

ロヒンギャ民族が住むキャンプのうち複数が、水田地帯や低地に位置し、5月に雨季が始まると激しい浸水に悩まされることになるが、当局は避難民を高地に移動させるための本格的な措置を講じていない。アラカン州で活動する人道団体の懸念は、豪雨によって、元々数が不足し、使用過多の状態にあるトイレが溢れて、通常なら予防可能な水媒介型の感染症が避難民に蔓延することだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチが訪問したキャンプの一部では、わずかな数のトイレをロヒンギャ難民数千人が共用している光景も見られた。

「政府はアラカン州の避難民キャンプの劣悪な状況を何とも思っていないようだ。だが命を落とす必要のない人が亡くなっていることへの責任はある」と前出のロバートソンは述べた。「無策が続けば危機は悪化の一途をたどる。関連するドナー国は、ビルマ政府に対し、危機打開の行動計画を策定するよう求めるべきだ。」

ビルマ政府は、人道団体の度重なる要請にもかかわらず、避難民となったロヒンギャ民族とカマン民族ムスリムの再定住先に十分な土地を割り当てることを妨害してきた。欧州委員会は3月18日に、水田と砂地に住む国内避難民を数週間以内に安全な場所へ移動させなければ、状況は「人道的危機」へと変化すると警告した。また国連人道問題調整事務所(OCHA)も、雨季が始まればロヒンギャ民族の避難民が「潜在的に破壊的な」影響を被ると警告している。

3月20日に、テインセイン大統領付のイェトゥ報道官はロヒンギャ民族の避難民が人道的に深刻な状況にあるという警告を退けた。そしてオーストラリアの通信社ニューズワイアに「彼らには雨季をしのげるだけの住居と食糧がある」と述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチがインタビューしたロヒンギャ避難民のうち、避難所の設置場所について意見を求められた人はいなかった。政府は避難民の帰還権の保障に真剣に取り組まず、アラカン州のムスリムと仏教徒の安全を共に確保する方策を講じてもいない。ヒューマン・ライツ・ウォッチはビルマ政府に対し、国連の国内避難民に関する指導原則に沿って避難民を処遇するよう強く求めた。

避難民には数万の「未登録」ロヒンギャ民族が含まれている。これらの人びとは2012年6月~11月に土地を離れたものの、ビルマ政府当局の正式な登録を受けていない。治安部隊が移動の自由を認めていないが、支援組織側が居住を把握している地域に住んでいる場合もある。

未登録ロヒンギャ民族はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、自分たちには食物、住居、医薬品、飲料水、衣類などの必需品が不足していると述べた。政府はこれら避難民に対する人道援助の提供を禁止している。

州政府当局は援助を実施するのではなく、ロヒンギャ民族への援助を認めない言い訳をしていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。2月にウィンミャイン・アラカン州政府報道官はビルマ民主の声(DVB)に対し、ロヒンギャ民族が援助拡大を目的に避難民の数を水増ししていると述べた。「こちらのキャンプで住民リストを作っていると、[あちらのキャンプから]人がやってくる始末だ」と同報道官は述べた。「率直に言えば、[ロヒンギャ民族は]住民の数を水増しして、受け取る支援物資を増やそうとしている。」

政府は、避難民となったロヒンギャ民族などのムスリム住民を帰還させる計画を前進させず、そうした努力も怠っている。これはムスリム住民の隔離が目的となっているという長年の意思に対する懸念を増大させるものだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。シットウェー市内ではムスリム住民は現在完全に隔離されている。アウンミンガラー地区は同市内に唯一残るムスリム地区だが、有刺鉄線とビルマ国軍兵士に包囲されている。

同地区で現在も生活するムスリム住民は地区外に出ることを禁じられており、人道機関も援助実施が許されていない。技術的な観点から言えば、住民は避難民ではないからだ。地区内のロヒンギャ民族はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、州政府に米を購入したいという申し出を行ったが無視されたと述べた。

アウンミンガラーに住むイスラム男性はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、国連機関は2012年6月から援助を実施できていないと述べた上で「我々は、地区外からアウンミンガラーに食糧を持ち込む許可が欲しいだけなのだ」と付け加えた。

ミエボン郡など一部の地域では、政府と人道機関は、浸水することが予想される地帯の地面に竹で高床式の住居を作り、ロヒンギャ民族が元の村に近い土地で住居を再建することを認めていない。当局者は国連と外交官筋に対し、アラカン州全土にあるキャンプを長期的な「解決策」とは考えていないと述べてはいる。だが、政府は避難民帰還計画を推進しない一方で、ロヒンギャ民族を人里離れた地域に継続的に隔離せよとのアラカン民族住民側の要求を退けていない。

「ドナー国政府は、ビルマ政府に対し、困窮するすべての人に人道機関が援助を提供することを認めるよう求め続けるべきだ」とロバートソンは述べた。「とはいえドナー国側は、ムスリム住民の隔離を意図した政府の政策が公に批判を受けるものであることをはっきりさせる必要もある。」

ビルマ政府はロヒンギャ民族がアラカン州で医療を受けることを長い間認めていない。2012年6月に暴力事件が始まってからこの規制は厳しさを増している。ヒューマン・ライツ・ウォッチは10月下旬にシットウェー最大の国営病院を訪問した。当時は州内で反ムスリム暴力が吹き荒れていた。しかし病院にはムスリムの患者は皆無だった。

シットウェーのロヒンギャ民族避難民はこのときヒューマン・ライツ・ウォッチにこう述べた。「私たち住民の家がここで焼き討ちにあったが、政府の病院には行けなかった。政府の病院には行けないことになっているのだ。」病院スタッフはこの発言を裏付けた。「ベンガル人[=ロヒンギャ民族。(注:ロヒンギャ民族を「外国人」扱いする際の表現)]患者は病院には一人もいなかった。ベンガル人[=ロヒンギャ民族]患者が来院すれば多くの問題が起きるだろう。軍が難民[=国内避難民]キャンプ内に設置した別の病院があるはずだ。ここは政府の病院なのだ。」

差別的な1982年国籍法は、ビルマ全土で推計80~100万人とされるロヒンギャ民族に、ビルマ国籍を実質的に認めていない。政府はロヒンギャ民族に対し、特別な許可を取得するか、政府治安部隊に高額な賄賂を送らない限り、郡を越える移動を認めていない。ロヒンギャ民族の国内避難民はキャンプ外出を禁止されており、生計を立てる上で厳しい制限にさらされている。ロヒンギャ民族には結婚と子どもの数にも厳しい規制が課せられている。国境警備隊(通称、ナサカ)は通常、結婚や出産準備を希望するロヒンギャ民族に多額の金銭を要求する。

アラカン州のロヒンギャ民族住民は多数派であるビルマ民族仏教徒のコミュニティからの広範な敵意にさらされている。昨年6月に起きたアラカン民族仏教徒とロヒンギャ民族ムスリムの間での暴力事件が起きてからも、同州のいくつもの郡でロヒンギャ民族とカマン民族ムスリム住民への計画的な攻撃が生じている。

最近では仏教徒とムスリムの争いが中部ビルマのメイッティーラで暴力事件に発展し、3月20日から22日まで続いた。この動きは国内の他地域にも拡大した。焼き討ちされたモスクは少なくとも5カ所、死者数は不明。暴徒と仏教僧侶がムスリム住民を攻撃し、家や商店、礼拝場所に火をつけた。OCHAによれば、メイッティーラの暴力で1万2千人のムスリムが避難を余儀なくされている。 

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