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カンボジア:特別法廷の判決は、法の正義にむけた第一歩

国連や支援国は、今後の裁判での政治干渉を止めるよう要求を

(プノンペン)-本日、カンボジア特別法廷が、悪名高いツールスレン(Tuol Sleng)収容所の所長に対し、有罪判決を下した。本判決は、ポル・ポト政権の犠牲者たちにとって、法の正義に向けた重要な第一歩である、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

カン・ケク・イウ(通称ドゥック:67歳)は、現在、カンボジア特別法廷(ECCC)に拘束されている元ポル・ポト政権幹部5名のうち、最初に起訴された人物。彼は8カ月間におよぶ裁判のなかで、ツールスレン収容所の所長時代に行なわれた恐ろしい犯罪の多くに対する責任を認めた。同収容所では、1975年から1979年までのポル・ポト政権時代に、14,000名を超える人びとが拷問され殺されている。

カン・ケク・イウ元収容所長は、国連が支援するカンボジア特別法廷(ECCC)が設立されるより前の1999年にプノンペンで逮捕されたが、この度、人道に対する罪と戦争犯罪で禁固35年の刑を言い渡された。カンボジア特別法廷は、2007年に彼の身柄がECCCに引き渡されるまで5年間にわたるカンボジア軍事法廷の「違法拘束」期間を刑期から差し引くと判示。これまでの収監期間を差し引くと、カン・ケク・イウ元収容所長の残る刑期はあと19年ということになる。

カンボジア在住のヒューマン・ライツ・ウォッチ上級調査員サラ・コルムは、「ポル・ポト政権崩壊以降、法の正義(法による裁き)が実現するまで30年以上かかってしまった。しかし、だからといって、カン・ケク・イウ元収容所長に対し、犯した罪の責任を取らせたことの重要性が損なわれるわけではない」と述べる。「しかし、ポル・ポト政権下で苦しんだカンボジアの人びとに、真の法の正義がもたらされるには、今日の有罪判決だけでは到底足りない。」

カンボジア特別法廷の目的は、1975年から1979年までにポル・ポト政権が行った残虐行為のうち「幹部及び最も責任ある者」を裁くこと。そのため、今後も、追加の訴追や公判を行なっていくことが極めて重要であるが、カンボジア政府の政治的な干渉のために、とん挫を余儀なくされることもあり得る、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べる。

ポル・ポト政権で、カン・ケク・イウ元収容所長よりもずっと高い地位にあった4人の元ポル・ポト派幹部に対する公判では、今回の裁判以上に複雑な法律問題及び事実の争いが提起されると予想される。そのため、不適切な政治圧力にさらされる可能性がより高まる。不当な干渉の結果、証人召喚が妨たげられたり、追加の容疑者の捜査が妨害される可能性もある。

追加訴追を止めさせようとする動きの背後にカンボジア政府がいると見られる、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べる。たとえば、ロバート・ペティット(Robert Petit)国際共同検察官は、カンボジア特別法廷に対し、容疑者6名の捜査の追加を提案したものの、2009年1月、チア・リン(Chea Leang)共同検察官はこれを拒否。その理由として、証拠不十分や法的な問題ではなく、「過去の不安定」と「国民和解の必要性」などの政治的考慮を挙げた。

2009年8月、予審裁判部は追加事件を認める決定を行なったものの、フン・セン首相などの政府高官は、その決定の前後で数多くの意見を表明し、「カンボジア特別法廷は、現在拘束中の容疑者5名以外を起訴しない」と強く主張していた。例えば、2009年3月の演説中、フン・セン首相は、追加裁判の結果カンボジアが戦争状態に戻るより、カンボジア特別法廷が破たんしたほうがましである、と語り、「私は、このカンボジア特別法廷が資金を使い果たし、外国人裁判官と外国人検察官が去っていくことを心から祈っている」と述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、国連及び(日本などの)カンボジア特別法廷への資金提供国に、特別法廷の独立を侵す干渉に対し、より明白に反対するよう求めた。

「最大で200万人ともいわれるカンボジア人がポル・ポト政権の残虐な統治の下で犠牲になった。それにもかかわらず、フン・セン政権は、すでに拘束中の5名以外に責任をとらせることを拒否している」と前出のコルムは述べる。「国連及び(日本などの)カンボジア特別法廷への資金提供国は、法廷への信頼を損なう政治的干渉を許してはならない。」

現在拘束されて裁判を待っているその他の元ポル・ポト政権幹部は、ポル・ポト派のナンバー2であるヌオン・チア(Nuon Chea)、ポル・ポト政権の元外務大臣のイエン・サリ(Ieng Sary)、元国家元首のキュー・サムファン(Khieu Samphan) 、元社会問題相のイエン・チリト(Ieng Thirith)の4名。

カンボジアの首都プノンペンにあるカンボジア特別法廷は、国連の支援を受け、カンボジアの国内司法制度内の特別法廷として2006年に設立された。カンボジア人と外国人の検察官や裁判官で構成される「ハイブリッド(混成)」法廷である。

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