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スリランカ: 民間人を強制収容キャンプから解放せよ

再定住を約束したからといって、28万人のタミル人の拘束は正当化されない

(ニューヨーク) スリランカ政府は、国内避難民としてスリランカ北部の収容キャンプに拘束されている28万人以上のタミル人をすぐに解放すべきである、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

スリランカ政府は、スリランカ政府とタミル・イーラム・解放のトラ(LTTE)の戦闘の結果国内避難民となった民間人のほぼすべてを、政府が「福祉センター」と呼ぶ強制収容キャンプに2008年3月以降、国際法に違反して監禁し続けている。これまでにキャンプから解放されたのは、高齢者を中心とするごく少数のみである。解放された人々は、ホストファミリーとともに生活したり、高齢者施設で生活するなどしている。

「戦闘に巻き込まれた数十万人もの民間人を、これらの強制収容キャンプに閉じ込めることは言語道断である。」、とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは述べた。「想像を絶する苦難に直面してきた人びとを、更に苦しめるのか。他のスリランカ人と同じように、これらの人びとにも自由を得る権利がある。」

国連の発表によると、2009年7月17日時点でスリランカ政府により強制収容されている民間人の数は、28万1,621人にのぼる。彼らは、北部のヴァヴァ二ア(Vavuniya)、マナー( Mannar)、ジャフナ( Jaffna)、トリンコマリー(Trincomalee)の4地区にある30の政府軍管轄の収容所に監禁されている。キャンプ内の人びとは、緊急の治療を要する時にしか収容所を出ることを許されておらず、その際も軍の警護が必要とされる場合が多い。キャンプ内で活動する人道援助団体は、戦闘終盤の数ヶ月について話をしたり、人権侵害の実態などについて話したりすれば、収容所から追放する、と脅迫をうけている。


プレムクマ(Premkumar、44歳)は、5月中旬に戦闘地域から逃げ出して以来、妻と3歳の娘と共に拘束され続けている、とヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。これまでに収容所から出ることができたのは、病院への照会を得た1回のみである。

「我々は、国内避難民ではない。囚人同然である。」、とプレムクマは述べた。「以前は、(LTTEの指導者)プラバカラン(Prabhakaran)に監禁されていたが、今は政府の刑務所に監禁されているようなものだ。」

1年以上前につくられたマナー地区のカリモダイ(Kalimoddai)とシルカンダル(Sirukandal)キャンプでは、一部の人びとは日中の短時間に限って、キャンプの外に出ることを許されている。しかしこれらのキャンプでは、政府軍から1日に2回も検査を受けなければならない。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、この検査への出頭が遅れたり、怠ったりするものならば、懲罰として炎天下のなか立ち続けたり、強制的な肉体労働を課されることもある、との報告を受けている。

スリランカ政府による避難民の強制収容は、広範な非難を呼び起こしている。一例として、国連の国内避難民の人権に関する事務総長代表ウォルター・カリン(Walter Kälin)氏は、5月15日、「避難民の拘束の長期化は、恣意的拘禁であるのみならず、人道危機を深刻化する。」と述べた。


国内外からの批判に対し、スリランカのマヒンダ・ラジャパクサ( Mahinda Rajapaksa)大統領は、キャンプ内の人びとは誰でも安全保障上の脅威となりうるとして、強制収容を正当化してきた。また政府は、国内避難民を迅速に再定住させると主張し、批判をかわそうとしてきた。スリランカ政府は5月に、2009年末までに国内避難民の8割を再定住させると述べたが、最近になり外務大臣はこの目標を6割に変更した。しかし、政府は具体的な再定住案をなんら提示していない状態であり、国内避難民たちも、いつ帰郷を許されるのか何も聞かされていない。

また政府軍は、収容中の民間人のうち数千人を、LTTEの関係者という疑いで、LTTE戦闘員向けリハビリ施設に移送したり、首都コロンボで追加尋問を受けさせている模様。スリランカ当局は、こうした人びとの移送先や、その後の安否をキャンプに残された親族に伝えていないことが多く、虐待や強制失踪の懸念が広がっている。人道援助団体も、キャンプ住民と会話することが制限されているため、キャンプの人びとを人権侵害から保護することが難しくなっている。

確かに、スリランカ政府には、LTTEの戦闘員を探し出すため、戦闘地域を逃れてきた人びとをスクリーニングする権利がある。しかし、人びとを恣意的に拘禁したり、行動の自由に対し不必要に制限を設けることは、国際法により禁止されている。よって、拘束された者を、速やかに裁判官と面接させた上で、刑事犯罪で訴追するか、さもなくば、釈放しなくてはならない。人権法は、安全上の理由による移動の自由の制約を認めているが、その制約は、明確な法律的根拠に基づき、必要な範囲に制限され、脅威に比例するものでなくてはならない。


「将来いつか解放するというあいまいな約束は、人びとを収容キャンプに違法に拘束し続ける理由にはならない。」、とアダムズは述べた。「拘束が続く限り、政府による人びとの権利の侵害に終止符は打たれない。」

収容中の人びとの状態は、劣悪なキャンプの環境により更に悪化している。キャンプの多くは過密状態であり、一部には、国連難民高等弁務官事務所が適切とする人数の2倍も収容している所もある。国連によると、キャンプ内ではトイレが不足しており、水の供給も不安定なため、衛生問題が発生している。6月だけでも8,000件以上の下痢や、何百件もの肝炎、赤痢、水痘が報告された。


キャンプに暮らす人びとの間では、不十分な食料、キャンプの過密状態、また、キャンプ外にいる親戚への訪問が不可能であることに日々不満が募っている、との報告が数多くされている。6月下旬には、キャンプ内で少なくとも2回の抗議行動が発生したものの、軍に鎮圧された。


スリランカ政府は、収容キャンプを、事実上外部の監視の目が届かないようにしている。人権組織、ジャーナリスト、独立した監視員らは、キャンプへの立ち入りを許可されておらず、キャンプへのアクセスを許可されている人道団体も、政府の許可なしにキャンプ内の状況を公表しないという書面に署名を強いられている。これまでに数件、キャンプについて報道したり、ビザの更新を怠った海外メディアや援助活動家が、スリランカ政府により国外に追放される事件も発生している。


7月24日、国際通貨基金(IMF)の理事会は、スリランカ政府に対する26億ドルの融資を承認した。これにより、スリランカはIMFより巨額の資金援助を得ることになった。米国、英国、フランス、ドイツ、アルゼンチンなどの数カ国は、スリランカ政府が行なっている国内避難民の虐待などの紛争中や終結後の人権侵害への懸念から、投票を棄権した。融資の支払いは、3ヶ月ごとに承認される必要がある。


「スリランカが復興のために資金を必要としていることは、国際的に理解されている。」、とアダムズは述べた。「しかし、過去数ヶ月のスリランカ政府によるタミル人たちへの対応は、国が直面している問題に対する世界の共感を、大きく損なってしまった。スリランカ政府は、方針を転換すべきだ。さもなければ、今後国際的な監視の目は更に厳しくなろう。」

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