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ビルマ:サイクロンから1年 弾圧は続く

投獄された活動家と草の根の援助要員を釈放せよ

(ニューヨーク) - サイクロン「ナルギス」がビルマに未曾有の被害を引き起こして今月2日で1年が経つ。「ビルマ軍事政権は被災者に独自に人道援助を提供した、あるいは政府の対応を批判としたとして投獄されている人々をすべて釈放すべきだ」ヒューマン・ライツ・ウォッチは今日、このように述べた。サイクロン「ナルギス」は2008年5月2日にビルマのイラワジデルタ地域を襲った。約14万人が亡くなったとされ、240万人が甚大な被害を受けた。

サイクロンの襲来直後、ビルマ政府は援助活動をなかなか本格実施せず、国際人道機関に対しては被災地へのアクセスの許可を渋った。また今日までに、サイクロン被災者の救援活動を行おうとした国内の援助要員のうち、ビルマの超人気喜劇俳優ザガナ氏など少なくとも21人に不当判決を下し、投獄している。

「サイクロン被災者の基本的自由は、サイクロン以前とほとんど変わらず制限されたままだ。ドナー側、および中国などビルマ軍政の友好国は、軍政幹部に対して、ザガナ氏ら被災者支援を行った活動家を釈放するよう強く働きかけるべきだ。」ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理エレーン・ピアソンはこのように述べた。

ザガナ氏は草の根ボランティア数百人を組織し、援助物資の募集とサイクロン被災地での配付を行っており、外国メディアの取材に対してビルマ軍事政権=国家平和発展評議会(SPDC)を批判した。当局は2008年6月に氏を「公序紊乱」などの容疑で逮捕。氏は不当な裁判によって59年の刑を下され、その後に刑期は35年に減刑された。現在カチン州ミッチーナの刑務所に収監されているが、これには明らかに家族と引き離す意図がある。ザガナ氏の家族は、氏の健康がすぐれないにも関わらず、十分な治療を与えられていないと訴えている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、援助機関が忍耐強く援助活動を行う一方で、ビルマ政府は、サイクロン復興のための支出を透明性が確保された形で大幅に増やす必要があると述べた。

昨年のサイクロン「ナルギス」襲来後、ビルマ政府は、人道援助機関が援助物資を輸送し、被災地で配付するのに必要なアクセスを得るための初期段階での努力を妨害。軍政は緊急事態に対処する経験を積んだ外国の人道援助要員へのビザ発給を拒否した。またアメリカ合衆国、イギリスとフランスの派遣した軍艦の援助物資を最後まで陸揚げすることを許可せず、貴重な時間を浪費し、避けられたはずの被害を発生させた。

潘基文国連事務局長がデルタ地帯を訪問した5月末には状況は改善した。国連と東南アジア諸国連合(ASEAN)はビルマ政府との協定を仲介。この三者は「三者コア・グループ」(TCG)を設置し、援助とその後の復興事業を調整する上で中心的な役割を果たした。同グループの設置以来、依然若干の規制は実施されているが、支援要員と人道援助要員へのアクセスは徐々に改善されている。

投獄中の活動家の釈放を

サイクロンの直後から、ビルマ国内の民間団体や仏教僧、キリスト教系の慈善団体、以前から活動していた国際組織の現地スタッフらが、きわめて困難な状況下で、当局による移動や被災地へのアクセスの制限を何とかすりぬけつつ、被災地で救援活動を行った。こうした人々の活動がなければ、救援は遅れ、死者の数はもっと増えていたと思われる。

こうした努力に対し、政府は続く数ヵ月の間に、ザガナ氏ら、救援活動に関わった少なくとも21人を逮捕した。

ザガナ氏以外にも、次の援助関係者が投獄されている

エイカインウー氏(24)は『エコ・ヴィジョン・ジャーナル』誌記者で2年の刑、チョーチョーテイン氏は『ウィークリー・ジャーナル』誌の元記者で7年の刑を宣告されている。この2人のジャーナリストは2008年7月、サイクロン被災者をラングーン(ヤンゴン)に案内し、被災者が赤十字国際委員会と国連開発計画に面会した際に通訳を務めたあと逮捕された。

ミンテイントゥン氏は2008年7月に逮捕され、非公開裁判を経て2009年3月に17年の刑を宣告された。氏はマレーシアに住むビルマ人移民労働者だったが、サイクロン後にマレーシアで募った寄付を元手にして、援助物資を配付するためビルマに帰国していた。

・医師のネイウィン氏は2008年6月14日に、サイクロン被災者の埋葬費カンパを行ったとして、娘のピョーピョーアウン氏と共に逮捕・投獄された。この親子は「死者埋葬グループ」を結成したところだった。ネイウィン氏は1989年から2005年まで政治活動を理由に投獄されていた。2人は2009年2月に非合法結社法違反容疑で起訴された。同法は「法と秩序、平和と安定、または安全で確実な通信・交通を何らかの形で阻害するかもしれない行為を試み、扇動し、奨励し、あるいは教唆するか......または......政府機構の秩序に影響を与えるか、それを破壊するかもしれない行為を試み、扇動し、奨励し、あるいは教唆する組織」を全面的に禁止している。ピョーピョーアウン氏はさらに「公序紊乱」を引き起こす文書を発表したことでも有罪判決を受けた。

・現在も収監されており、既に判決が出ているか、まだ公判審理中の援助関係者は次の通り(敬称略)である。チョーチョータン、テットゾー、アウンチョーサン(いずれもジャーナリスト)、ミャットゥ(元政治囚)、ティンティンチョー、インインウィン(両人とも「88世代学生」グループ)、リンテッナイン、ポンペイッチウェ、セインヤザートゥン、ウェイリンアウン(いずれも学生活動家)、チョーチョティン、ニーミョフライン、テインジーウー(いずれも国民民主連盟=NLD党員)、ゾーナイン(俳優)、ニャントゥン(現地の援助活動家)

「サイクロン「ナルギス」の被災者に対するビルマ政府の無関心さに光を当てたとして投獄された援助関係者や活動家の悲惨な境遇からは、ビルマ軍政の偽善ぶりがはっきり見てとれる。ビルマ政府は自分たちの手柄になるときは海外からの支援金や援助を喜んで受け入れるが、過酷な状況にある被災者を自らの手で救おうとする決意にあふれた人々は容赦なく弾圧している。」ピアソンはこのように述べた。

ビルマ政府は自ら援助を行うべき

「三者コア・グループ」(TCG)は今年2月に「ナルギス後復興準備計画」(PONREPP)を発表。この計画は、同グループによれば「生産的な生活、健康な生活、安心の出来る生活を促進するための人間中心のアプローチ」である。この計画は6億9千万ドル(690億円)の資金を必要としているが、現在までに集まったのは3億ドル(300億円)である。計画によると、ビルマ政府は、10億ドル(1,000億円)を超すと推計される復興資金を確保するため、こうした国際社会の支援額と同額を拠出することとされている。しかし、政府がこれまでに実際にどれだけの額の拠出を約束したのか、あるいは実際に拠出したのかはまったく明らかにされていない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ビルマ政府は、復興事業に対して十分な額を拠出することで、自らのコミットメントを示すべきであると述べた。ビルマ政府は約35億ドル(3500億円)の外貨準備を有し、天然ガス輸出により毎月約1億5000万ドル(150億円)の収入があると見られる。政府が実際にどれだけの額を復興事業に用いたのかは定かではないが、ともかくビルマ政府は、国内のほかの場所についてはインフラ事業を行っている。その一例は、ビルマの都市からはるか遠くにつくられた、贅を尽くした仏教寺院、官庁街、複数車線の自動車専用道路に修繕されたばかりの空港を備えた新首都ネピドーである。

ビルマ軍事政権が、ビルマ国内の多くの貧困層のための食糧や保健、教育に資金を使わず、軍事費や新首都ネピドーの建設などの貧困層の裨益しない大規模プロジェクトに資金をつぎ込んでいることを、ビルマの活動家は長年批判してきた。たとえば、ビルマ国内でHIV/AIDSが広範に流行しており、国際組織や地元のコミュニティーグループがHIVと生きる人びとの予防サービスを行うために多大な努力をしているにも拘わらず、最も最近の統計によると、ビルマ軍事政権は、国内のHIV/AIDSプロジェクトに年に20万ドル(2,000万円)以下しか使っていない。

「ビルマ軍政幹部は、政府資産を自国民の福祉に投入する代わりに、自分たちのポケットに押し込んでしまうことで悪名高い。ドナーたちは、サイクロン復興事業を資金面で可能にするため、軍政は自らの資産の一部を用いるべきだと強く主張すべきだ。」ピアソンはこのように述べた。

ドナー側は、援助が最も弱い立場の人々に確実に届くようしなければならない

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2008年7月に、詳細な書簡を発表した。そしてドナー側に対し、人道援助機関が公平性、アカウンタビリティ、コミュニティ参加という国際基準に従って援助を実施することができるよう、ビルマ軍事政権に対し、人道援助機関が必要とするアクセスを許可するようはたらきかけることを求めた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは国際社会に対し、援助が、支援をもっとも必要とする人々に確実に届くようにした上で、復旧事業の成功に必要な資金をプレッジするよう求めた。イラワジデルタの状況は確かに大きく改善しているが、これらの諸原則は現在も有効であり、支援活動の基準となるべきものである。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、連邦団結発展協会(USDA)のような政府を後ろ盾とする組織や、軍政幹部と緊密な関係にある民間企業、とくに米・豪・EUの制裁リストに載っている会社については、国際社会が資金提供して行われる復興事業には絶対に関与させないよう求めた。

USDAはビルマ国内の政治弾圧と人権侵害に深く関与する官製大衆団体である。ビルマ政府はこれまでも、繰り返し、同国内で活動する人道援助機関にUSDAとの協力を強要しようとしてきた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、同協会が人権侵害に関与していることに長年懸念を表明してきた。2007年9月のラングーンでの大規模な抗議行動の際には、USDAの民兵部門と、関係する民兵組織である「スワン・アシン」が各所で投入され、非暴力のデモ参加者の身柄の拘束や殴打、脅迫を行っていた。国連機関は、USDAがこうした弾圧に加わっていることを踏まえて、この団体と共同で開発事業を行うことを避けてきた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、確かに大量の時間とお金がイラワジデルタに使われているが、ビルマのほかの地域の人道状況はきわめて深刻なままである、と述べた。『国連人間開発報告書』最新版では、ビルマは177の国・地域のうち132位だった。深刻な貧困が引き続き重大な問題となっており援助の増額と開発の振興が必要とされる地域は、アラカン州北西部、チン州、東部ビルマの紛争地帯である。食糧農業機関(FAO)と世界食糧計画(WFP)が行った最近の調査によると、これらの地域には厳しい貧困と栄養失調の問題が存在している。しかし、援助関係者とその活動内容に関して政府が規制を加えているため、抑圧的な軍政が作り出した衛生状態と生活条件の悪化という事態を解決するためにビルマが緊急に必要としている援助活動の拡大が阻害されている。

2006年2月にビルマ政府が定めた移動と事業展開に関する規制によって、プロジェクトの承認にはかなり時間がかかるようになり、政府の役人が外国の援助要員の行き先すべてについてくるようになった。赤十字国際委員会は、2006年の早い時期から、刑務所を政府から独立して訪問して民族紛争地域をモニタリングするという重要な事業の実施の許可を得られていない。

「現状を憂慮するドナー国政府やビルマの活動家は、サイクロンの被害が甚大だった地域でのアクセスや政府の協力体制が改善されたことがビルマのそのほかの地域についても状況の改善をもたらすことを、希望している。だが残念ながら、そのほかの地域では、こうした改善の兆候はない。」ピアソンはこのように述べた。

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