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A bus full of Ukrainians being transferred to Taganrog, Russia from the “DNR,” February 2022. © 2022 ANDREY BORODULIN/AFP via Getty Images

(キーウ/キエフ) - ロシア軍とその傘下の兵士は、戦闘から逃れてきた人を含むウクライナの一般市民を、ロシア連邦または同国がウクライナ国内で占領した地域に強制移送している、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。

報告書「『選択の余地はなかった』:『フィルタリング』審査とウクライナ民間人のロシアへの強制移送で問われる戦争犯罪」(全71ページ)は、ウクライナの一般市民が強制的に移送される実態を調査・検証したもの。文民の移送は、戦争犯罪に該当するとともに、人道に対する犯罪に該当する可能性もある戦争法(戦時国際法)の重大違反。また、ロシアおよびロシア関連当局は、数千人規模のウクライナ市民を対象に、「フィルタリング」審査と呼ばれる強制的で懲罰的かつ人権侵害的なセキュリティ・スクリーニングを実施した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの危機・紛争担当上級調査員で、本報告書を共同執筆したベルキス・ウィレは、「ウクライナの一般市民がロシアに行くよりほか選択がない状況に取り残されてはならない」と述べる。「そして、安全のためには人権侵害を伴うスクリーニングを受けるほかない、ということもあってはならない。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ロシア行きになった人、フィルタリング審査された人、家族や友人がロシアに移送された人、ロシアから脱出しようとしているウクライナ市民を支援した人など54人に聞き取り調査を実施。その大半はマリウポリ地域から避難した人びとだが、ハリコフ地域から移送された人もいる。 また、マリウポリ地域の紛争地帯から、ウクライナの支配地域にフィルタリング審査をされることなく避難できた数十人の市民にも聞き取り調査を行った。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは 2022 年 7 月 5 日、ロシア政府に対し、本報告書の調査結果の概要および質問事項を書簡で送付したが、回答はなかった。

ロシアおよびロシア関連当局は、包囲した南東部の港湾都市マリウポリから脱出した人びとの移送手段を組織的に用意した。ロシア占領下に留まるか、ロシアに行くしか選択肢はなく、ウクライナ支配地域に行くことは「忘れる」べきだと言われた市民もいる。マリウポリから移送されたある女性は、「そうできるなら、もちろんウクライナに行ったことでしょう」と語る。「でも私たちにはその選択も可能性もありませんでした。」

検問所にいる兵士やその他の要員が、避難するウクライナ市民に対し、ロシアか「ドネツク人民共和国」(DNR)に行くよう指示していたと証言する人もいる。当該地域はロシア軍が占領し、傘下の武装集団が支配しているドネツク地方に位置している。占領地域で一般市民を一斉検挙した軍関係者も同じことを言ったという。なかには、経済的に恵まれていたため、ウクライナの支配地域に避難する手段を自ら確保できた人もいる。

ロシアと国境を接するハリコフ地方東部の都市やいくつかの村の住民も、強制的にロシアに移送された。Ruska Lozova村の 70 歳の男性は、ロシア軍から「我々の支配下に暮らしていたのだから、ウクライナ軍が来たら罰せられ、処刑されるだろう」と言われたと語った。彼は脅しに屈しなかったが、何百もの家族が村を離れてロシアに向かった。

限られた例外を除いて18〜60歳の男性が国を離れることを禁じるウクライナ戒厳令を回避するためなどの理由で、自発的にロシアに行ったという証言もあった。

ロシアに移送されたウクライナ民間人の総数は不明のままだが、その多くは違法な強制となるような方法や状況で追放され、移送された。7月下旬、ロシア国営通信 (TASS) は、44万8,000人の子どもを含む 280万人超が、ウクライナからロシアに入国したと報じている。

スマートフォンやSNSを使うことができた人の中には、ロシアからエストニア、ラトビア、グルジアへの脱出を支援している活動家たちとつながることができたケースもある。とはいえ、ウクライナから避難する際に身分証明書を持ち出さなかったため、国境で問題に直面した人びともいた。

ロシア軍または傘下の軍が、ウクライナの一般市民を個別または集団でロシアに避難させることは戦争法で禁じられている。強制移送は戦争犯罪であり、人道に対する罪にも該当する可能性がある。住み続けた場合の暴力、強要、拘禁といった結末を恐れて同意したような状況での移送、占領勢力が文民を移送できるような強制的環境での移送のいずれも違法行為だ。文民の移送や追放は、引き金となった人道危機が占領勢力による不法行為の結果である場合、人道的理由から正当化できず、合法とみなされない。

マリウポリ地域で何千人もの住民が脱出しようとした際に強制的に受けさせられた「フィルタリング」審査の間、ロシア占領地域のロシア軍および傘下の関係当局は、一般市民の指紋や正面・側面の顔面画像といった生体認証データを広く収集した。加えて身体検査、私物および携帯電話の検査を行い、個人の政治的意見についても質問した。

マリウポリ出身のある男性は、彼を含む数十人のマリウポリ住民が、フィルタリング審査を受ける前の2週間を、村内の不潔な校舎で過ごしたと語った。多くの人が病気になり、先行きを心配していたという。「自分たちがまるで人質になったように感じました。」

ロシアには、自発的にロシア領土に入国しようとする人びとに対してセキュリティ・スクリーニングを実施する正当な理由はありうる。が、フィルタリング審査は、その範囲、そしてウクライナの一般市民がそれを強制された組織的な方法において懲罰的かつ虐待的であり、法的根拠もなく、プライバシー権を侵害している。

この審査に「失格」した人びとは、ウクライナ軍や愛国者集団とのつながりを疑われたとみられ、オレニフカの収容所など、ロシア支配地域内で拘禁された。この施設は7月29日に砲撃され、少なくとも50人のウクライナ市民が犠牲になったとされている。

占領地域にいるロシア軍および傘下の軍は、一般市民がウクライナ支配地域への脱出を望む場合は、その安全を確約すべきだ。バスに乗った人びとに行先をはっきりと知らせ、ロシアに向かいたくない人に選択肢を与えなければならない。ウクライナ市民にロシアに行くよう圧力をかけるのを止め、ウクライナへの帰国を望んでいる人がそうできるようにすべきだ。

ロシア当局はまた、ウクライナ内外で進行中の生体認証データの収集および保存プロセスを全面的に停止する必要がある。こうしたデータの収集は合法的かつ均衡性があり、必要な場合のみとし、データ収集の理由、使用方法、保存期間を対象者に通知しなければならない。

前出のウィレ上級調査員は、「同意なしに人びとをロシア占領地域、さらには、ロシアに向かわせることを直ちに停止すべきだ」と述べる。「ロシア当局および国際機関は、自らの意思に反してロシアに連れて行かれ、安全な帰国を望んでいる人びとを助けるために、可能なかぎりのことをしなくてはならない。」

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