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インタビュー:『クィア・アイ』出演でプライドがもてた

HRW日本の元インターン、LGBTの若者のロールモデルに

『クィア・アイ』のファンは、『クィア・アイ in Japan!』のエピソード「クレイジー・イン・ラブ」の主人公のカンさんが、自分を支えてくれる人とのつながりを求める内気なゲイ男性から、自信に満ちたファッショナブルな姿に変身するのを目にしたことでしょう。その変化は、自分のセクシュアリティを理解しようともがき、学校に行けないばかりか、家から出ることすら困難に感じていた子ども時代とは、比べものにならないほどです。カンさんは、大学時代にレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)の活動に関わり、自分のことを次第に受け入れていきました。2016年、カンさんはヒューマン・ライツ・ウォッチでインターンとして活動し、日本でのLGBT生徒のいじめに関する報告書『「出る杭は打たれる」:日本の学校におけるLGBT生徒へのいじめと排除』の作成に参加しました。

カンさんは、『クィア・アイ』でファッション担当のタン・フランスと一緒に選んだセーターに身を包み、フィリップ・H・スチュワートに、『クィア・アイ』で感じたこと、自分の過去、そして日本のLGBTの若者への希望について語りました。

『クィア・アイ in Japan!』に出演しようと思ったきっかけを教えてください。

ヒューマン・ライツ・ウォッチでの経験が、クィア・アイへの出演を後押ししたことは間違いありません。

ヒューマン・ライツ・ウォッチでは、いじめに遭った日本のLGBTの子どもたちにインタビューする機会がありました。多くのLGBTの子どもたちが、LGBTの人びとや問題について何も知らないと話していたことはショックでした。それ以来、LGBTの子どもに情報を与えられるような人になりたいと考えていました。

ヒューマン・ライツ・ウォッチとインタビューしたなかで、特に印象に残っている人はいますか。

僕の出身校に通っていたトランスジェンダーの少年です。自分の出身地に行って、話を聞きました。その子のことを、またその子の経験についていろいろなことを考えました。

地元で未だにこうした問題があることを目の当たりにするのは、辛いことでした。

番組について聞かせてください。ファブ5が家に来たのは本当にサプライズだったのですか。

そうです!ビヨンセをかけて部屋を掃除しているところでした。来ることになっているなんて知りませんでした。「コンニチワ」という声に振り向くと、5人がそこにいたのです。本当にびっくりしました。あと、みんな本当にいい香りがするんですよ。テレビでは分からないですけど。

LGBTの子どもたちに情報提供をしたいと仰っていました。自分の話を見てほしいと思ったのはどうしてですか。

イギリスに留学したとき、自分自身を受け入れるのにもう一度苦労しました。ゲイだからではなく、アジア人だからという理由です。僕は日々マイクロアグレッションを経験しました。日本に戻ると、ゲイだからという理由で、またマイクロアグレッションを経験しました。

 

In his episode of Queer Eye, We’re in Japan, Kan found support from the wider LGBT community in Tokyo © Queer Eye: We're in Japan!

とても不快に思うことが多く、だれかロールモデルになるような、有色人種のLGBTの人はいないかと探しました。でも見つかりませんでした。

あなたが出ているエピソードを見た子どもたちに、何を感じてほしいですか。

自分が一人ではない、とにかくそれを感じてほしいです。僕自身、小さいときにはロールモデルがいなかったので、本当に希望がもてませんでした。思うように生き、幸せになるためにベストを尽くしているゲイの一例になれたらいいなと思っています。

出演には不安を感じたそうですね。

公開後の反応が一番気がかりでした。撮影中は楽しかったのですが、どう編集されるかも分からなければ、観た人たちがどう思うかも想像できませんでした。でも実際には、公開されたら、みんながとても優しく接してくれています。

番組で教わったことは今でも続けていますか。

今も自分を勇気づけています。前よりも間違いなく自分に自信があります。

番組で呼ばれたとおり、今も「ファビュラスなカン」なんですね。

はい、そうです。新しい人生、新しいカンを楽しんでいます。

番組では、職場で自分がゲイだと分かってしまうことを心配していました。公開後の同僚の反応はどうですか。

 

Kan’s family accept him for who he is, but he described the process as hard work for all of them © Queer Eye: We're in Japan!

番組を見てから、応援するよとオンラインでメッセージくれた同僚もいます。とても優しいなと思いました。良いなと思うのは、人前や大きな声ではその話をしない点です。偶然アウティングしてしまい、僕を傷つけることがないようにという配慮ですね。

職場でゲイであることを隠してはいません。でも、ゲイであることをことさら話題にもしません。仕事とは関係ないからです。しかし、番組を見た同僚たちの接し方からは、僕のことを本当に大切にしてくれていることが伝わってきます。

日本のLGBTの人びとの状況は改善されていると思いますか。

良くなっているところもあります。僕がヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書に関わっていた頃から、報道番組がLGBTの問題を正確に扱い始めたように思います。以前は、LGBTの人びとは、芸能界ではつねに笑われる対象だったのではないでしょうか。ただ同時に、僕は東京に住んでいて、本当にオープンマインドな友だちや家族がいるので、東京は比較的生きやすいところだとは思います。地方にいて、絶望感を味わっているLGBTの子どもは必ずいます。僕も地方出身だから分かります。

まだ家族にはカムアウトできないなと思っているLGBTの子どもがいたら、どう声を掛けますか。

LGBTの子どもが家族から応援されるなら、素晴らしいことですよね。でも、家族によるし、難しいこともあるでしょう。準備が整っていないのなら、カムアウトしないほうがいいと思います。

 

Kan during his haircut session with Jonathan Van Ness © Queer Eye: We're in Japan!

子どものとき、何年も学校に行けないことがありました。ふさぎ込んでしまい、来る日も来る日も人生もうおしまいだと思っていました。そのときの自分に「カン、君は大丈夫だよ」と伝えたいし、いま苦しんでいるすべてのLGBTの子どもたちにも同じことを伝えたいのです。ただ、日本で今それを口にするのは無責任だと思います。どの家族も受け入れてくれるわけではありませんから。

中高のときは、スマートフォンもなく、TwitterやFacebookも使っていなかったので、似たような境遇の人とつながることがなかなかできませんでした。でも今の中高生なら、LGBTの人びととつながることはずっと簡単でしょう。だから、もし家族からサポートを受けられないと感じたら、別の場所を見つけることもできます。

僕が出演したNetflixのエピソードを観れば、僕が今では家族から完全に受け入れられていることは分かっていただけるでしょう。しかし、ゲイとして受け入れられるプロセスは、それは長いものでした。僕も努力しましたが、家族も努力したと思います。長い間かけて、お互いを理解しようとしてきたのです。

日本でもっと力を入れるべきことは、なんだと思いますか。

 

I hope I can be an example of a gay person who is living my life and trying my best to be happy.
Kan

Former Human Rights Watch Intern

学校で、子どもにLGBTの人びとと、LGBTに関する問題についての教育を義務化すべきです。2年前に学習指導要領が改訂されましたが、ヒューマン・ライツ・ウォッチなどの働きかけにも関わらず、この点は盛り込まれませんでした。次の改訂までには、あと10年はかかるでしょう。

小さいときには、自分のことをどう説明していいのか分かりませんでした。自分自身を説明するための情報があれば、自分を受け入れるチャンスが高まると思います。僕は自分が何者か分からなかったので、将来は真っ暗だと思ったのです。子どもには多くの情報が、それも正確な情報が必要です。

そうした情報を学校以外から得るにはどうしたらよいのでしょうか。

僕が出ているエピソードを見てください!それは冗談だとしても、Netflixはとてもいいと思います。一般の人にも届くことのできるプラットフォームだからです。Netflixを開いて、僕のエピソードを見さえすれば情報が得られるのです。それは素晴らしいことだと思います。

『クィア・アイ』に出演したことで、生き方がこんなふうに変わるとは想像できましたか。

出演したエピソードが公開された後、本当にたくさんの人に話しかけていただきました。その日は新宿二丁目でクラブのビヨンセ・に行ったのですが、終わった後で、ある女性がやって来て、僕のエピソードのことを話し始めました。とってもよかったと言ってくれ、目には涙があふれていました。他人の人生にあれほど前向きな影響を与えられるとは、それまで思ってもみませんでした。思い出すと、僕も涙が出ます。

10歳のときには、怖くて家から外に出ることができませんでした。振り返ってみると、本当に素晴らしく変化したと感じます。他の人にも同じことが起きるよう願っています。

日本のLGBTの子どもたちへのメッセージをお願いします。

辛いのは自分のせいではなく、住んでいる社会に原因があるのだと伝えたいです。『クィア・アイ in Japan!』に登場した多くの人が、自分に非がないにも関わらず、自分のあり方を責めているからです。

僕もかつては自分を責めていましたから、今の子どもたちには責めないでいいよと言いたいです。社会を変えて、自分のあり方に誰もがもっと自信を持てるようにしなければなりません。

皆様のあたたかなご支援で、世界各地の人権を守る活動を続けることができます。