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(エルサレム)イスラエルタイ人農業労働者は深刻な労働権の侵害に見舞われている。イスラエル当局が自国の法律を適用しようとしないためだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で述べた。イスラエル当局は法執行の仕組みを直ちに改善するとともに、劣悪な居住環境や労働条件がタイ人移住労働者の悲惨な死亡事件と関係しているかを調査すべきだ。

今回の報告書「不当な契約:タイ人労働者に対するイスラエル農業セクターでの人権侵害」(全48頁)は、イスラエルで働くタイ人労働者の一部が低賃金、超過労働、危険な労働環境、劣悪な居住環境を強いられる一方、ストライキによる抗議行動を計画すると雇用主の報復を受ける現状を明らかにした。2011年にタイ人労働者の募集手続きが見直され、イスラエルの法律が改正された。しかし問題は収束していない。現在イスラエルは最低賃金、労働時間の上限を法律で定めており、ストライキの実施と労働組合の結成も認めている。労働者の住居についても大まかな基準が設けられている。

「イスラエル農業の成功には、タイ人移住労働者の貢献が大きい。しかしイスラエルはタイ人の権利を擁護し、搾取から保護する方策をほとんどとっていない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのサラ・リー・ウィットソン中東・北アフリカ局長は述べた。「イスラエル当局は、労働時間と労働条件に関する法律の実施と、労働者の権利を侵害する雇用主の取締りにもっと力を入れるべきだ。」

イスラエル農業の労働力の大部分は、約2万5千人のタイ人移住労働者が支える。2011年、イスラエルはタイと2国間協定を結んだ。この「労働委託に関するタイ・イスラエル協力協定」(TIC)により、労働許可証取得のためにタイ人労働者が支払わなくてはならない金額が大幅に下がり、強制労働に従事する危険性は減った。しかしヒューマン・ライツ・ウォッチは、その他の部分で人権侵害の土壌が残っていることを明らかにした。他方で、雇用主を変えることは依然難しく、負担も大きい。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、イスラエル北部・中部・南部の「モシャブ」と呼ばれる農業共同体10ヶ所で、タイ人労働者計173人に聞き取りを行った。すると全員から、給与は法廷最低賃金を下回っており、法律が定める労働時間の上限を超えた労働を強制されたり、危険な労働環境に置かれたりしているとの声が上がった。雇用主の変更が難しいとの指摘もあった。ヒューマン・ライツ・ウォッチが調査した10ヶ所のうち1ヶ所を除き、タイ人労働者の住居は掘っ立て小屋であり住環境は不適切だった。

複数の農場の労働者が頭痛、呼吸器疾患など各種の症状を訴えていた。目が焼けるように痛いという人もおり、十分な対策のないまま農薬散布を行ったせいだと思うと述べていた。ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、タイの親族から薬を送ってもらっていると話す労働者もいた。イスラエルでは医療を受けることができないためだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチがインタビューした労働者の大半は、本来は住居ではない建物に住んでいる。倉庫や小屋に簡単な台所や洗い場をつけた施設だ。ある農場では、タイ人労働者はヒューマン・ライツ・ウォッチの調査団を、納屋内のボール紙で作った住居に案内した。

政府統計からは、タイ人労働者の死亡事件の悲惨な傾向が明らかになっている。イスラエルの日刊紙「ハアレツ」は政府統計として、2008年~2013年にタイ人労働者122人がイスラエルで死亡したと報じた。うち43人の死因を当局は「夜間突然死症候群」としている。これは若く、他の点では健康なアジア人男性を見舞うとされる心疾患だ。また22人の死因については、当局が検死を行っておらず不明とされた。

この22人のうちの1人が2013年5月、就寝中に亡くなったプライワン・シースカーさん(37)だ。プライワンさんが亡くなった翌日、ヒューマン・ライツ・ウォッチはイスラエルの地中海沿岸に近い農場で働いてた同僚に話を聞いた。労働者は、雇用主が労働者の宿泊施設とした狭い納屋で寝ていたそうだ。また労働時間は最長で17時間。毎日働かされ、休みはなかったという。別のモシャブで働く労働者は、朝4時30分から夜7時30分まで働き、一日が終わると「死んだ肉」のような心地だったと話す。

「亡くなるタイ人労働者の多さと農業部門での労働条件とのあいだに、何らかのつながりがあるかははっきりしない。しかし現状を見れば、調査が必要なことは明らかだ」と、前出のウィットソン局長は述べた。

労働者たちはヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、雇用主変更の権利を行使しようとしたところ、円滑に進めるためだとして、エージェントから最大1ヶ月分の給与を請求されたと話す。中部のあるモシャブでも、雇用主を変えたいとエージェントに支援を求めた労働者もいた。低賃金、劣悪な住環境のもとで超過勤務があり、夏には朝5時から夜は10~11時まで働かされていたためだ。しかしエージェントは話を聞いてくれず、新たな雇用主は自分で見つけろと返したという。

そこで労働者たちはストライキを行い、賃上げと労働時間の短縮を勝ち取った。それでもなお給料は法廷最低賃金以下だという。しかもスト指導者のうち2人は解雇された。報復だというのが労働者側の見方だ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、労働者が訴える人権侵害の主な要因は、イスラエル労働法の実施状況が不十分なことだ。法律上は、移住労働者に広範な保護が与えられているが、さまざまな要因によって法的枠組みの有効性が損なわれている。たとえば、規制に関する責任が一本化されていないこと、査察制度が不十分であること、法執行担当部門への資源配分が明らかに少ないこと、法を犯した雇用主や採用エージェントに有効な制裁措置が行われていないことなどだ。

内務省人口・移民・国境局(PIBA)と経済省(旧、産業貿易労働省)が農業部門の監督を共同で担当している。ヒューマン・ライツ・ウォッチは両者に対し、査察データの閲覧を求めたが、詳しい情報は提供されなかった。

PIBAは査察を統計にはしていないとし、調査官の人数も明かさなかった。さらに経済省は査察件数の開示も拒否した。件数を示しても、同省が行っている調査件数の正確な姿は明らかにならないというのがその理由だ。この5年間でイスラエル当局が農場主とエージェントに罰金を科したのは15件にすぎない。罰金は総額1,317,170シェケル(約4千万円)だった。警告は145件、労働法違反でのエージェントの免許停止が1件あった(以上、国内経済省の情報による)。

雇用主による現行の労働法規の遵守状況について、イスラエル当局は監督の改善を図り、外国人労働者についてイスラエル国民と同様の権利保護を行うべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。当局は労働者の権利が侵害された疑いのある事件をただちに捜査し、侵害を行った雇用主の責任を問うべきだ。

「イスラエルのタイ人労働者が直面する深刻な問題は対処可能なものだ。イスラエルには外国人労働者を保護する法律や規制がすでにあるからだ」とウィットソン局長は述べた。「問題はこうした法律と規制を実際に適用するかに尽きる。」

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