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 (バンコク)ベトナム全土で警察による拘禁中の人びとへの人権侵害が発生し、死亡事例もあると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で述べた。ベトナム政府は拘禁中の不審死、および警察による被拘禁者の拷問がなくなるよう早急な対策を講じるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

報告書『人々の安全を脅かす警察:ベトナムでの被拘禁者の死亡、警察の暴力』(全96頁)は、2010年8月から2014年7月の期間について、被拘禁者が死亡または重傷に至った警察による暴力事件を明らかにした。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ベトナム全国58省のうち、44省で人権侵害を確認した。事件は主要5都市を含む、全土で発生している。

「警察はベトナム全土で、被拘禁者に深刻な虐待を加えている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理フィル・ロバートソンは述べた。「ベトナム政府は、政府内部に人権危機を抱えている。調査の上で、人権侵害にかかわった警察職員の責任を問う作業に着手すべきだ。」

報告書は、政府統制下にあるベトナム語新聞で報道された警察の人権侵害事件、および独立したブロガー、市民ジャーナリスト、外国通信社の報告に対するヒューマン・ライツ・ウォッチの分析に基づいている。本報告に含まれる記述の多くは、これまで英語で公開されていない。ヒューマン・ライツ・ウォッチはベトナム国内でも報告書のための調査を行ったが、被害者や目撃者への聞き取りは行わないこととした。実施した場合、応じた側がほぼ確実に報復をうけてしまうためだ。

警察の拘禁中に殺害された人びとの多くは軽罪で逮捕されていた。2012年8月に起きたある事件では、ハノイ市の警察官がNguyen Mau Thuan氏を撲殺した。近所で起こした軽い小競り合いで逮捕されてから、3時間も経たないうちの出来事だった。2010年8月、ジアライ省の警察官は、水道管を盗んだとして拘束されたLe Phuc Hung氏を暴行し、催涙ガスを吸わせるなどして殺害した。

警察は多くの場合、こうした死亡事件について、にわかに信じがたく組織的な隠蔽工作と思われる理由を挙げている。警察は、心身ともに健康な人びとが首つりなどで自殺した例が数十件あると主張している。また、ヴィンロン省のNguyen Van Duc氏の事件のように、きわめて曖昧で説得力のない説明しか行われないこともある。検死結果によれば、死亡原因は脳血腫とその他の負傷だった。警察は、Nguyen氏の傷は緊急治療での医師団の「扱い方が手荒すぎた」せいだと述べている。驚くほど多くの人が、しかも多くは若く健康な20~30代であるのに、拘禁中に医療問題で死亡したとされる。警察による身柄拘束中に負傷した事件も全国で頻繁に報告されている。

何人もの被害者は、暴行されて自白の強要を受けたと述べた。否認を続けている犯罪の容疑に関連するものもあるという。2013年7月には、ソクトラン省で警察が男性6人を暴行し、殺人事件を自白させた。警官を批判したか、状況を説明しようとしたために暴行された、との証言もあった。暴行の被害者には子どもや精神障がい者も含まれる。

事件についての地元メディアの扱いは大小さまざまで、政府の報道統制が強く懸念される。大々的そして詳細に、警察による相矛盾する発表や不法行為が明らかにされる報道もある。たとえば、2011年4月にビンズオン省で拘禁中に「自殺した」とされるNguyen Cong Nhut氏の事件だ。一方、重要事件にもかかわらず報道が一切ない場合もある。2013年3月にダクノン省で死亡した、モン民族のHoang Van Ngai氏の事件がそうだ。また記者側は、地元当局に被害者家族への聞き取りを妨害された事例を複数報告している。

「ベトナムは、公的機関の人権侵害を調査・報道するマスコミの活動を認めるべきだ」と、前出のロバートソン局長代理は述べた。「独立した報道機関の働きにより、そうでなければ埋もれたままになっていたであろう人権侵害事例が明らかになることもある。」

重大な、時には被害者に死をもたらす法律違反を行った職員が、重い処罰をうけることはほとんどない。人権侵害が公に認められた事件の多くでは、警察職員が内部的に軽い処分(譴責や訓告)を受けるだけだ。法を犯した職員の降格、異動、解雇が行われることはほとんどない。訴追や有罪判決を受ける可能性は、それよりさらに低い。訴追され有罪判決を受けても、警察職員への刑は軽いか、執行が猶予されることが多い。

人権侵害を行った警察官がその後昇進した事例もある。ハノイ市ホアイドク県ラフー村のNguyen Huu Khoa副警察署長は、トラック運転手のNguyen Phu Son氏への暴行の容疑が問われていた。事件がどのように捜査・処理されたかは不明だが、2010年12月までにこの人物は署長に昇進している。

「ベトナム政府は警察による暴行事件に関し、全ての訴えを直ちに公平に調査し、人権侵害の証拠がある場合には強い措置で臨むべきだ」と、ロバートソンは指摘した。「政府高官からの、人権侵害を許さないという明確で強いメッセージが警察に伝わらない限り、警察に身柄を拘束された一般人の安全は保障されない。」

 複数の事件について、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、警察が証拠のないまま曖昧な容疑に基づき人びとを逮捕し、自白を得るために暴行したことを明らかにした。さらに警察は日常的に、市民を虐待や恣意的拘禁から守る基本的な手続きを無視し、弁護士などの法律専門家が依頼人にすぐ面会することを認めてこなかった。

「すべての被拘禁者は、尋問中に警察から虐待される可能性を最小限にするために、担当弁護士が即時かつ制限なく面会する権利を認めらなければならない」と、ロバートソンは指摘した。

ベトナム政府は警察の人権侵害を一切許さない「ゼロ・トレランス」政策を直ちに採用し、警官については全階層、特に村落の警察官への研修内容を改善し、取り調べ施設と収容施設にカメラを設置すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。政府はまた、容疑者や被拘禁者に対する弁護士の関与を促進し、インターネット上そしてジャーナリストの表現の自由を保障すべきだ。

政府はまた、独立した警察不服申立委員会を設置し、警察の人権侵害や不法行為についての申立てをすべて検証・捜査し、警察の人権侵害や不法行為についての迅速かつ公平な捜査・訴追を上層部から支援すべきだ。

「ベトナムでの法の支配の確立を支援する国連機関と国際ドナーは、こうした警察による懲罰的なやり方が続くことを許してはならない」と、ロバートソン局長代理は述べた。「警察の人権侵害を終わらせるため政府として行動を取るよう、関係者は一致して強く求めるべきだ。」

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