2009年7月、バラク・オバマ米大統領はガーナ国会での演説で、大統領のアフリカへの関心を特徴づける基本原則を明らかにしました。オバマ大統領は、「国民の意思を尊重し、強制ではなく同意による統治を行う政府は、そうでない政府よりも繁栄し、安定し、大きな成功を収める」と述べたのです。
その1ヶ月ほど前、エジプトの大学での学生向け講演会でも、大統領は似たような発言を行っています。「[基本的]権利を保護する政府は最終的には安定し、成功を収め、ゆるぎないものとなるのです。思想を抑圧しようとする政府は、常に立ちゆかなくなるのです。」 南アフリカで2013年に行った演説でも、大統領は「国民の権利を保護し、法の支配を尊重する政府は、そうでない政府よりも良好なパフォーマンスを示し、成長を実現し、投資を引きつけるのです」と訴えていました。
しかし現在、8月3日に始まる画期的な首脳会合に参加するため、ワシントンを訪れるアフリカ45ヶ国の指導者に対し、オバマ政権は伝統的なアプローチを選択した模様です。オバマ政権は、こうした野心的な目標を実現し、首脳会合の大きなテーマの1つとするのではなく、公式会合に人権団体を参加させず、人権問題を議題に入れないことで会合の基調を定めています。
首脳会合は通常お膳立てがなされています。悪印象を与える外交上のハプニングを避けるためです。しかし、アフリカ大陸全体で10以上の国が、独立メディアやNGO(性的マイノリティ=LGBTの団体を含む)の存在そのものを脅かす法律や政策をとる現在、独立系団体を排除し、人権問題を取り上げないというオバマ政権の決定は、たいへん好ましくないメッセージを発するものなのです。
米国の安全保障上の緊密なパートナーであるエチオピアは、事態のひどさを示す格好の例です。現政権は、暴力を用いずに政権批判を行う政治的手段を、しらみつぶしに封じています。公的な場で意見表明を行い、自国の政権を批判する権利を行使しただけで、野党指導者や活動家、独立したジャーナリストを投獄し、亡命を強いています。2009年の「慈善団体・結社申告法」は、数々の抑圧的な法律とともに、めざましい成果をあげていた人権団体を閉鎖や活動の大幅縮小に追い込むほか、団体の綱領から人権活動を外さざるをえない状況を作っています。
ルワンダでは、政府から独立した意見を表明することは事実上不可能です。政府を批判するジャーナリストや活動家は、脅迫や訴追、投獄の対象となり、亡命に追い込まれています。殺されることすらあります。人権団体を敵視するルワンダ政府の対応は、人権活動家への脅迫とあいまって、政府から独立した意見を大幅に制約しています。独立系新聞「ウムヴギジ」(Umuvugizi)紙の記者ジャン=レオナール・ルガムバゲ(Jean-Léonard Rugambage)氏は、2010年6月24日、ルワンダの首都キガリにある自宅の外で射殺されました。ルガムバゲ氏は、6月上旬に南アフリカで起きた、著名な野党政治家カユンバ・ニャンワサ(Kayumba Nyanwasa)氏の殺人未遂事件など、デリケートな問題を取材していました。2010年4月にウムヴキジ紙が発行停止となった後、編集長は亡命しましたが、ルガムバゲ氏は国内に残りました。そして大きな代償を払わされたのです。
最後の例は、ウガンダです。この国では後継大統領、公的資金のアカウンタビリティ、ガバナンスといった政治的にデリケートな話題を話すことは、ますます難しくなっています。2014年2月に成立した反同性愛者法は、「同性愛の促進」を犯罪化するものであり、同性間性行為の処罰の増加にとどまらない、深刻な影響を及ぼしています。個人は穏健な意見を表明しただけで投獄されかねません。他方で人権団体には、差別撤廃を訴えると訴追の恐れがあります。ありがたいことに、ウガンダ憲法裁判所は7月25日にこの法律を無効としました。しかしこうした法律が成立してしまったことは、動かしがたい事実です。
もちろんオバマ政権は公式声明を発表し、人権を抑圧するこれらの法律を批判しています。ごく最近では、先月エチオピアでテロ対策法違反を口実に、ブロガーとジャーナリスト10人が訴追された事件を批判しています。こうした声明は重要なものです。しかし、悪法が撤廃、あるいは大幅に改正される上で役に立つ、大局的な政策アプローチの一部ではありません。さらに言えば、こうした法律を成立させた国を、今後何らかの措置があるのかと不安にさせるような効果もほとんどありません。エチオピアやウガンダなど、安全保障分野で潤沢な支援が継続されている国では特にそうです。
ヨウェリ・ムセベニ・ウガンダ大統領が、きわめて抑圧的な反LGBT法に署名したことについて、米国政府はたしかに反応を見せました。しかしこの動きには長い伏線がありました。署名自体は氷山の一角にすぎなかったのです。米国は現在、ルワンダの抑圧的な政治環境を監視しており、時にコメントもしています。けれどもこの国には、支援対象となるような反体制派は、すでにほとんどいなくなってしまったのです。
アフリカ諸国、そしてアフリカの人びとへの支援を持続可能なものとする上で、オバマ政権は、人権促進・保護の分野で明確なメッセージを発し、確固とした政策を打ち出すべきです。言うまでもなく、中東と北アフリカの民衆蜂起の重要な教訓の1つは、法の支配の実現のために人権を犠牲にするやり方は筋の通らないものであること、そしてそうしたやり方では、国に安全と安定は訪れないということです。
3日間の予定で行われる今回の首脳会合は、アフリカの多くの政権の抑圧的な性格を改めさせる機会とはならないでしょう。しかし、公式議題に人権が含まれていたのであれば、民間団体が首脳会合に参加して、人権と法の支配は貿易・投資・安全保障に不可欠なものであるとの指摘を行うことができたはずです。そして結果的には、人権という重要分野を議題に含めていれば、首脳会合は更なる成果を生み、アフリカ政策はより持続可能なものとなっていたことでしょう。