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ビルマ:ロヒンギャ民族への広範な攻撃 衛星写真で明らかに

オバマ米国大統領は、テインセイン大統領に宗派間暴力の終結を訴えよ

(バンコク)- ビルマで10月下旬、アラカン(ラカイン)民族によるロヒンギャ民族のイスラム教徒への襲撃と焼き討ちが行われた際、一部では政府治安部隊と地元の当局者が支援を行っていたと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。ヒューマン・ライツ・ウォッチが入手した新たな衛星写真によれば、パウトー、ミャウウー、ミェボン各郡のロヒンギャ民族のイスラム教徒集住地域で家屋やその他の資産が大規模に破壊されている。これらはすべて2012年10月後半に衝突が発生し、土地を離れる人びとが出た地域にあたる。

パウトー郡、ミャウウー郡で暮らすロヒンギャ民族とアラカン民族の住民はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、10月23~24日にこの地域で起きた宗派間暴力と焼き討ちの様子を詳しく説明した。政府治安部隊が関与した事例もあった。アラカン民族の仏教徒、ロヒンギャ民族、非ロヒンギャ民族のイスラム教徒との間に発生した類似の衝突は、政府治安部隊が関与する形で、10月下旬に上記以外の7郡でも発生した。

バラク・オバマ米大統領は、11月19日にラングーン(ヤンゴン)を1日の予定で訪問し、ビルマのテインセイン大統領および野党指導者と会談する。「オバマ大統領は、ビルマのテインセイン大統領に対し、同国側が新たな制裁の実施や、両軍間での対話の延期を避けたいと望むならば、ロヒンギャ民族への攻撃を停止する必要があることを明示すべきだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは述べた。「これは危機的状況だ。というのも、ビルマ政府がアラカン州での宗派間暴力を停止させることも、責任者に責任を追わせることもできていない現状を踏まえれば、人権を尊重する多民族国家を目指すというビルマ政府の公式目標は疑わしいものになるからだ。」

10月下旬に衝突が起きたアラカン州の4郡と、6月に衝突が起きた州都シットウェーを撮影した衛星写真から、ヒューマン・ライツ・ウォッチは合計4,855の建造物が破壊されていることを特定した。これらの写真には破壊が記録された地域が写っているが、衝突発生以来避難しているロヒンギャ民族のイスラム教徒と、チャウピューに住むカマン民族のイスラム教徒の集住地域にあたる、348エーカーの主に住宅からなる地域が含まれる。

11月3日と8日に撮影された写真は一部を捉えたもので、6月以降に衝突が起きたアラカン州の13郡のうち5郡だけを写したものだ。

パウトー郡に住んでいたが、現在はシットウェー近くの避難所に身を寄せるロヒンギャ民族はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、何週間にもわたって、敵対的なアラカン民族の暴徒(仏教僧侶が先導することもあった)が現れて、ロヒンギャ民族と、かれらに食糧を売ったり、その他の支援物資も含めて渡すあらゆる人間に暴力をふるうと脅迫していると述べた。こうした脅迫があることを地元当局に何度も伝えたが、十分な措置は取られていないとのことだ。10月下旬の衝突直前に、ロヒンギャ民族側はアラカン民族主義政党に属する地元のアラカン民族が主催する地域の集まりに呼び出された。地元当局に、現地のイスラム教徒住民に出て行くように説得するねらいがあったことは明らかだった。

10月23日、武装したアラカン民族数百人を乗せた船舶が、パウトー郡の川沿いにあるロヒンギャ民族の村落を襲撃した。ロヒンギャ民族側は殺されると思って逃げ出し、村落は破壊された。

避難民となったロヒンギャ民族とカマン民族のイスラム教徒はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、政府治安部隊要員の一部から10月下旬に様々な形で一時的保護を提供されたと話している。たとえば、敵対的なアラカン民族の暴徒を追い払うために空に向けて威嚇発砲が行われたり、シットウェーでの着岸を拒否されて洋上に滞在するロヒンギャ民族を載せた船に水と食糧が提供されるといったことがあった。しかしこうした保護策も、治安部隊のこれとは別の集団が行った、ロヒンギャ民族とカマン民族への暴力行為で相殺されてしまった。たとえば、10月26日に、ナサカ(国軍指揮下の国境警備隊)の部隊が、シットウェー近くに船を着岸させて岸をよじ登ろうとした、ロヒンギャ民族の避難民数十人を激しく殴打した。

今回の衛星写真を見ると、ミャウウー郡ヤンテイ村がほぼ完全に破壊されているのがわかる。ヒューマン・ライツ・ウォッチに目撃者が語ったところでは、剣、槍、自家製銃、弓矢などで武装したアラカン民族の暴徒が10月23日に村を襲撃したことで衝突が起きた。ロヒンギャ民族の住民側は最終的に包囲・制圧され、生存者は陸路で村外へ逃れた。双方に悲惨な被害が生じ、女性と子どもの首がはねられる事態も起きた。

10月に起きた衝突以後、アラカン州では11万人以上の国内避難民が発生している。そのほとんどがロヒンギャ民族のイスラム教徒だ。ボードゥバ避難民キャンプ近くに住むロヒンギャ民族はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し「人の数はまだ毎日増えている」と述べた。

 Yan Thei Village, Mrauk-U Township: Pre-attack View of Village
Yan Thei beforeYan Thei Village, Mrauk-U Township, on 11 February 2012. Pre-attack view of village in satellite image.
Damage Analysis: Human Rights Watch; Image © DigitalGlobe 2012; Source: EUSI

Yan Thei Village, Mrauk-U Township: Post-attack View of Village
Yan Thei afterYan Thei Village, Mrauk-U Township, on 3 November 2012: Post-attack view of village in satellite image with annotated building damages.
Damage Analysis: Human Rights Watch; Image ©: DigitalGlobe 2012; Source: EUSI

今回の衛星写真が捉えた被害地域から逃れてきたロヒンギャ民族は、衣食住、衛生、医療に対する緊急のニーズを抱えていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

パウトー郡から逃れた人びとは、シットウェー郊外の海岸地域に身を寄せざるをえず、炎天下で木陰もない急ごしらえの避難場所で、十分な食糧・飲料水、その他の基礎的な物資がない状態で暮らしている。こうしたキャンプの一つには推計1,200人が身を寄せているが、トイレが不足しており、近くのロヒンギャ民族の村からの寄付を大きな頼りとしてなんとか生き延びているものの、寄付をする住民もまた生活はたいへん厳しい状態だ。避難民のなかには国連機関のロゴ入りの防水布を屋根に使っている人もいるが、これは地元の商人から買ったとのことだ。

ビルマ政府の治安部隊は国際人道機関に対して、この地域だけでなく、パウトー郡から逃れた別の人びとが避難するさらに離れた沿岸地域に対するアクセスすら制限している。到着直後から地元の治安部隊に殴打されたと訴える避難民もいる。

ヤンテイ村を逃れたロヒンギャ民族も同様に緊急援助が必要な状態にあると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。人びとは、破壊された村の外に急ごしらえした避難所で生活している。避難民によると、自分たちの住むキャンプには国際社会からの継続的な接触はなく、当局からは地域外への移動を禁じられている。ビルマ政府当局からの支援はきわめて限られている。

ヤンテイ村を逃れたアラカン民族の仏教徒は、ミャウウー町で2箇所の僧院に避難し、現地のアラカン民族コミュニティから十分な支援を受けているようだ。ロヒンギャ民族への対応とは異なり、政府はアラカン民族の移動を規制していない。

ミャウウー郡では6月に衝突は起きなかったが、パウトー郡では衝突があった。地元住民の情報によれば、同郡では14世帯ほどが6月に焼き討ちにあった。住民はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、この時の焼き討ちとその後の脅迫や衝突は、今後衝突がある危険性をはっきり示していると話した。

「衛星写真と目撃証言から明らかになるのは、現地の暴徒はときおり政府側から支援を受けながら、こうした地域からロヒンギャ民族を排除する作業を完了させようとしていることだ」と、前出のアダムズは指摘した。「6月に起きた衝突の責任者を確実に追及する十分な措置を中央政府は取らなかったため、不処罰が蔓延した。今後衝突が起きれば、治安部隊が直接関与する場合だけでなく、関与しない場合であっても政府は責任を免れない。」

ロヒンギャ民族は過去数十年間、政府が後押しする差別や人権侵害の犠牲となってきた。1982年国籍法は実質的にロヒンギャ民族から国籍を剥脱し、無国籍状態とするものだった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが以前に発表した衛星写真により、沿岸の町チャウピューのカマン民族集住地域で、家屋やその他の資産の広範な破壊があったことが明らかになっており、10月23~24日に起きた焼き討ちでは、チャウピューの東部沿岸地域で、811の建造物が破壊されたことが確認されている。チャウピューで破壊があった地域は35エーカーに及び、建物633棟と、居住用船舶と附属のはしけ178艘がすべて破壊されていた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査によれば、チャウピューでは治安部隊がカマン民族住民を殺害した際に、ビルマ国軍部隊はその光景をただ傍観していた。チャウピューのイスラム教徒住民も、シットウェーに海路で逃れようとするアラカン民族住民を攻撃しており、殺害に及んだ事例もあった。

「ビルマ政府は、ロヒンギャ民族の無国籍問題など、アラカン州で宗派間暴力が発生する根本原因に本格的に対処する必要がある」とアダムズは述べた。「こうした凄まじい暴力行為の責任追及が行われないことは、過激な人びとに対して、更なる攻撃や人権侵害を行ってもよいというサインを与えることになる。」

背景

アラカン州の4県(シットウェー、マウンドー、チャウピュー、タンドウェー)すべてで、2012年6月以降に暴力事件が発生している。アラカン民族の仏教徒とロヒンギャ民族のイスラム教徒との衝突が10月21日に再発生し、州内17郡のうち9郡(パウトー、ミャウウー、ミェボン、チャウピュー、ラムレー、チャウトー、ミンビャ、ラーテーダウン、タンドウェー)で1週間続いた。この他4郡(シットウェー、マウンドー、ブーティーダウン、トウングッ)では6月とそれ以降に深刻な衝突が発生している。10月に標的とされたのは、6月にシットウェーなど、アラカン州北部を襲った宗派間暴力の被害を受けなかった地域だった。6月にアラカン州で発生した宗派間暴力により、アラカン民族の仏教徒とロヒンギャ民族のイスラム教徒のコミュニティ双方が大きな被害を受けた。このとき双方ともに治安部隊の保護を受けることはなかった。 

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