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ビルマ:米国政府は『責任ある投資』のプレッジを撤回

企業活動の報告義務では人権侵害や汚職の抑止にならず

(ワシントンD.C)- 米国政府は、論争の的であるビルマの石油産業に関し、報告義務を課した上で、商行為を許可するとの新たな政策を発表した。これは新規投資が人権侵害をあおったり、改革の力をそいだりすることへの歯止めにはならないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。

オバマ政権はビルマでの投資・金融部門に関する長年の制裁を解除すると発表した。この決定は、カンボジアでの東南アジア諸国連合(ASEAN)サミットの出席のため、ヒラリー・クリントン米国務長官が行った外遊に合わせたものだ。

「良い統治と人権面での改革こそが、ビルマでの新規投資に関する根本的な行動原理である。こう米国政府は主張すべきだった」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのビジネスと人権局長アービンド・ガネサンは述べた。「ビルマ国営石油会社との取引を許可したことで、米国政府は産業界の圧力に屈し、アウンサンスーチー氏などビルマ政府にアカウンタビリティを求めるビルマ国内の人びとを軽視したように映る。」

米国政府は、企業に対してビルマでの商行為を認める一般許可を発行した。ただ法文として制裁法は存続する。新しい政策により、米国企業はミャンマー石油ガス公社(MOGE。ビルマ国営石油会社で前軍政の主要な収入源)との合弁を規制されなくなり、新規契約から60日間以内に米国政府に申告する義務のみを負うようになった。2012年6月、アウンサンスーチー氏は各国政府に対し、公的資金が透明性とアカウンタビリティを確保された上で確実に支出されるための国際基準が満たされるまで、同公社への投資を行わないよう訴えていた

しかし米国の石油ガス業界はオバマ政権に対し、今年後半に新鉱区が開発されれば、新たな収益機会の可能性が生まれることなどを引き合いに出して、MOGEとの合弁に一切制限を設けず、投資規制の全面撤回をするよう圧力を加えていた。現時点では、シェブロン社がビルマで活動する主な米国企業だ。同社はヤダナ天然ガス開発事業でMOGEのほか2社と合弁関係にある。

今回の新政策(当初提案時の名称は「責任ある投資のフレームワーク」)は、米国企業がビルマ経済の全分野に投資することを許可する。ただし国軍あるいは財務省の制裁リストに掲載される人物との直接取引は許可されない。バラク・オバマ米大統領は、制裁リストの拡大を許可し、改革を妨げるか、人権侵害、民族紛争、北朝鮮との軍事取引を行っている人物を含め、リストに2人を追加した。

またオバマ政権によれば、投資額50万ドル以上の全企業が、ビルマでの商行為に関わる情報開示を求められることなる。対象となるのは、ビルマ政府への支払い状況、人権や労働、汚職の問題に対処する際の方針と具体的な手順、自社のプロジェクトやサプライチェーンに関連する環境リスク、また安全確保や用地取得に関する取引の情報などだ。一部情報は部外秘で米国政府だけに開示されるが、企業は一般向け資料の作成も求められる。

オバマ政権の声明は「ビルマの投資環境に透明性が欠如していること、またビルマ経済において国軍が果たす役割」について懸念を表明した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチなど諸団体は、米国がビルマ投資全面解禁に踏み切るのは時期尚早との懸念を表明している。またこれまでも、制裁リストを更新し、物議を醸す同国の石油天然ガス産業への投資に関しては拘束力のある条項を導入するなど、厳しい条件をつけるよう訴えてきた。

対ビルマ投資には人権に関する深刻なリスクがいまだ存在すると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。たとえば脆弱な法の支配、労働や環境に関わる規制の緩さや実効性の低さ、司法の独立が存在しないことなどだ。他にも大きな問題として、国軍が経済に広範な形で関与している事実や、国軍による強制労働の使用をはじめ、企業活動の安全確保に関わる様々な人権侵害が存在する。行政は至る所で腐敗が生じ、運営にも失敗しているが、対策は不十分なものだった。ビルマ政府は依然として国軍が支配しており、国軍は2008年憲法では文民当局よりも法的に優越した地位にある。

ビルマのアラカン(ヤカイン)州では政府による重大な人権侵害行為―イスラム教徒のロヒンギャ民族の大量逮捕、不明な場所での身柄拘束、殺害など―が発生している。このことを考えれば、米国政府の新方針の発表は時期的にもおかしなものだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

2012年6月に宗派間暴力が始まって以来、約9万人のロヒンギャ民族とアラカン人が避難民となった。ロヒンギャ民族数百人がバングラデシュ側に船で逃れたが、通過したビルマ領海では天然ガス開発が行われている。アラカン州は対ビルマ投資の主な対象地域だ。

公式発表によれば、米国務省高官はビルマへの産業界の訪問団に同行して「経済・商取引の分野での政府関係者との関与」を促進する。しかしビルマとの経済関係の強化に注力するのは、米国政府の政策の優先順位からは誤りだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。米国政府はこれまで約20年にわたり、ビルマ政府に民主化を求める国際的な動きをリードしてきた。

欧州連合(EU)は2012年4月、ビルマでの経済活動に関する規制を全面的に一時停止した。これも人権問題のリスクに関する懸念を無視するものだったと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。なおEUは企業側に義務を一切課していない。

「オバマ政権は制裁措置をビルマでの責任ある投資と入れ替えると公約していたが、実際に行ったのは、企業に責任ある行動を確実に取らせるための十分な方策を欠いたまま、全産業部門での投資を解禁することだった」と前出のガネサンは指摘する。「一般への情報開示は有用だ。しかし企業に対しては、ビルマのように人権状況が劣悪な国で人権侵害や汚職に関わることを抑止する要因にはならない。」 

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