(ニューヨーク) - ビルマでは2012年4月1日に国会議員の補欠選挙が行われる。この補選は確かに前進だが、民主化に向けた政府の改革姿勢の真剣さを占う試金石ではないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。

「4月の補選で野党議員が増えることはほぼ確実で、そのこと自体は事態の一歩前進を意味する」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理エレイン・ピアソンは述べた。「しかし争われる議席数の少なさを考えると、今回の補選を民主化に向けた政府の改革姿勢の本気度を判断する試金石とみなすことはできない。選挙結果を受けて招集される議会が、抑圧的な法を改め、軍に対する文民統制を行えるかどうかが本当の判断基準だ。国軍は現在も非ビルマ民族居住地域で人権侵害を行っている。」

今回の補選は45選挙区で実施され、その大半で国会下院(国民議会)の議席が争われる。17政党が候補者を擁立し、43選挙区で国会議員選挙が行われるが、これは上下両院総664議席の5%に満たない。残りの2選挙区では地方議会(管区議会)の議席が争われる。アウンサンスーチー氏は、自身が書記長を務める政党・国民民主連盟(NLD)の候補者としてラングーン(ヤンゴン)郊外のコーム郡で出馬している。氏が国政選挙に立候補するのは初めてだ。NLDは過去20年以上にわたり政府から弾圧を受けており、スーチー氏は非暴力的な政治活動を理由に計15年間自宅軟禁状態に置かれていた。

一見矛盾するが、ビルマ政府はNLDの候補者の当選に関心を示している。政府による改革プロセスに正統性を与えることがねらいだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。しかしNLDが今回の補選で圧勝しても、国会全体では依然少数勢力だ。したがって、今回の補選は政府が自由で公正な選挙を実施しているかどうかの試金石ではない。

ビルマの政治的方向性を決めるのは2015年の総選挙で、全議席の75%が争われる。現政権―そしてビルマ国軍―が、2015年の選挙でNLDの勝利を許し、権力委譲を行うかは定かではないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは見ている。

選挙を巡る情勢は比較的穏やかだったが、一部の野党議員の報告によれば、地元当局による嫌がらせや脅迫のほか、ポスターの破壊や毀損、2010年11月7日の総選挙でも見られた、事前投票を利用した投票工作に関する懸念が存在する。

アウンサンスーチー氏は3月30日の記者会見で「ここ数カ月の状況を踏まえれば、今回の補選が真に自由かつ公正なものと見なすことはできないと思う」とし、NLD党員は当局から「実に多くの脅迫」を受けていると述べた。氏によれば、地元当局者は故人を選挙人名簿に載せておきながら、投票権のある有権者を排除している。氏は数週間にわたる全国遊説でNLDの政治集会に多数の聴衆を集める一方で、多くの不正行為が行われていることも告発している。

2011年にはビルマ国内に期待の持てる変革のきざしがあった。政府検閲の緩和、ストライキ権に関する新法の制定、NLDの登録を認める選挙関連法の改正などだ。しかし人権状況は全体として悲惨なままだとヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。

政治囚への恩赦が何度か行われたが、現在も政治囚数百人が投獄されたままだ。ここ数カ月で施行された法律には、平和的な集会の開催に関する法律などがあるが、国際基準を満たすものではない。新しく設置された全国人権委員会(NHRC)も国内機構の地位に関する原則(パリ原則)を満たしておらず、同委員会は人権侵害の申し立てへの本格的な調査をまだ実施していない。

政府は多くの民族武装勢力と和平交渉に入った。しかし民族的少数者に対する国軍の人権侵害は今も続いており、民族紛争地域での国軍部隊は人権侵害的な手法をいまだ改めていない。3月23日には補選の対象だったカチン州の3選挙区(パーカン、バモー、モーガウン)で、治安を理由に投票が延期された。

カチン州での戦闘は2011年6月から続いており、7万5,000人が土地を追われている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは報告書『語られない悲劇:ビルマ・カチン州での戦時人権侵害と強制移住』で、ビルマ国軍によるカチン人民間人への人権侵害を記録している。具体的には強制労働や民間人への発砲、拷問、虐待などが挙げられる。

こうした人権問題が依然存在するにも関わらず、アジアとヨーロッパの国の一部は、今回の補選に大きな問題がなければ、西側諸国の制裁措置を解除すべきと主張している。ヒューマン・ライツ・ウォッチは米国、EU加盟国、オーストラリア、カナダに対し、ビルマ政府が改革に向けた実質的な歩みを進め、人権尊重への関与を深めるのに応じて、制裁解除を段階的に進める政策を定めるよう強く求める。海外のドナーはビルマ政府と連携し、改革が確実に長期的に持続可能なものとなるための、法と人権、汚職防止、環境に関する十分な保護策を設定することを目指すべきだ。

「今回の4月1日の補選はビルマが依然抱える人権問題をすべて解決するわけではない。国際社会は選挙と改革を同一視する錯誤に陥ってはいけない」と前出のピアソンは指摘する。「時期尚早にもかかわらず制裁を解除し、まともに機能する法的枠組みがない中で、深い考えもなく人道援助と対外投資に力を入れることは、いまだ安定しない昨年一年間の前進を帳消しにしてしまいかねない。」

ビルマ政府は先日、推計159人の正式な国際監視団に選挙監視活動を認めた。3月下旬の発表によれば、ASEAN、インド、日本、EUの外交官と当局者、米国に本部のある全米民主国際研究所(NDI)と国際共和協会(IRI)の代表者に対し、投票所での監視活動が許可された。

しかしヒューマン・ライツ・ウォッチは、投票日以前には十分な監視が行われていないので、選挙監視員を投票時だけ配置する今回のやり方は、選挙監視の国際基準を大きく下回ると指摘した。

先週、国外のジャーナリスト数百人に短期のジャーナリスト用ビザが発給され、長年亡命していたビルマ人ジャーナリストにもビザが出た。ただし多くのジャーナリストが何週間も前からビザの申請を行っていた。国内のビルマ人ジャーナリストは今回の補選に関して、従来よりもかなり自由な取材が認められている。しかし当局は現在も全出版物を検閲の対象とし、人権侵害など敏感な話題を扱った記事については、内容の変更を求めたり、発表自体を認めていない。

どのような結果が出ても、今回の補選は国会全体の勢力地図を大きく変えることはない。与党の連邦団結発展党(USDP)と軍人分の25%の議席をあわせると、全議席数の75%近くに達するからだ。仮に補選の対象となる国民議会の37議席すべてを野党側が獲得しても、政府の立法政策に異議を唱えたり、憲法改正を行うには不十分だ。なお後者には全体の75%の賛成が必要とされる。

「補選自体はビルマの権力バランスを大きく変えるものではない。権力のあり方は憲法の上でも、法律の上でも、強制力の上でも政府と国軍に有利なように作られている」と、ピアソンは述べた。「4月1日の投票は確かに意義があるが、 2015年の総選挙に備える意味合いの方が大きい。したがって今後3年間のビルマ情勢の展望は、人権状況の改善が進むかどうかにかかっている。」