国連人権理事会第16会期初日の様子(2011年2月28日、ジュネーブの国連欧州本部)。

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(ジュネーブ)-国連人権理事会は、性的指向と性自認に基づく暴力や差別に対峙する画期的な一歩を踏み出した、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。2011年6月17日に閉会した今回の会期で、国連人権理事会は、ベラルーシでの人権侵害を止めるよう求める強い姿勢を示した一方、イエメンにおける人権侵害については弱い対応に留まったほか、バーレーンで続く弾圧にはまったく言及しなかった。

国連人権理事会は、世界人権宣言でうたわれている基本原則を確認しつつ、性的指向や性自認ゆえに世界中の人びとが受けている差別や暴力に"重大な懸念"を示す決議を採択。

「人権理事会は、これまで触れられなかった領域に、果敢にも初めて一歩踏みこんだ。この画期的な前進が、性的指向と性自認を理由とする人権侵害や差別の根絶に向けた取り組みを一層促進させると期待している」とヒューマン・ライツ・ウォッチのレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの権利プログラム(以下LGBT)局長グラエム・レイドは語る。

今回採択された決議は、国連人権高等弁務官に対し、性的指向と性自認に基づく人権侵害に関する世界的な調査を行うよう求めている。この調査は2011年末には終了する見込みで、性的指向と性自認に基づく人権侵害をなくすために、現存の国際人権法を活用する方法について重要な指針を示すと見られる。国連人権理事会は、2012年3月の会期で、その報告書について議論を行う見込みである。

今回の決議は南アフリカが提案、世界全地域の42ヶ国により共同提案にまわり、賛成23反対19棄権3で採択された。

「1996年に南アフリカは自らの憲法に‘性的指向'という文言を入れることにより、世界に範を示した。現在南アフリカは、LGBTの人びとの人権が擁護される世界的な環境作りに寄与するべく、国連をリードしている」と前出のレイドは指摘する。

人権理事会は、ベラルーシでの惨憺たる人権状況に対して、長年無関心を決め込んでいたが、2010年の大統領選挙に続く人権侵害の急増を受け、国連人権高等弁務官事務所(以下OHCHR)に状況の監視を依頼するとともに、2012年3月の会期に監視結果を報告するよう求めるという対応策を講じた。さらに、国連人権理事会は、理事会が任命している人権専門家たちに対し、表現の自由・裁判官や弁護士の独立性・拷問などの具体的な問題に関し、「ベラルーシでの人権状況に特に注視する」として、監視し報告書を作成するよう求めた。決議は賛成21反対5棄権19で採択された。

「国連人権理事会のベラルーシに関する決議は、ルカシェンコ大統領に対する弾圧を止めるよう求める明確なメッセージである。ベラルーシ政府は直ちに人権改革を行うと同時に、全ての政治犯を釈放し、国連の人権監視団が同国内に入ることを受け入れ、国連の懸念に応えるべきである」とヒューマン・ライツ・ウォッチのジュネーブ代表ジュリー・デ・リベロは語る。

今回の人権理事会会期では、国連コートジボワール事実調査委員会(UN Commission of Inquiry on Cote d'Ivoire)もまた報告を行った。同調査委員会は、コートジボワール紛争の両勢力の行為が、戦争犯罪や人道に対する罪などの重大な国際法違反にあたる可能性もあると取りまとめている。同委員会はアラサン・ワタラ大統領が率いる新政府に対し、国際刑事裁判所(以下ICC)の「ローマ規程」を批准するよう求めるとともに、差別などの紛争の根本原因解決に取り組む事、紛争に参加した勢力のうち、国軍に所属しない数千名にのぼる人びとを速やかに武装解除して、治安を回復する事などを求めた。

国連コートジボワール事実調査委員会は、特に、人権理事会・国連・外国政府などの支援を受けながら、重大な犯罪を行った者に対して公平かつ透明性を確保した司法手続を行う必要性を強調した。

この報告に対し、国連人権理事会は、事実調査団の勧告事項に対する委員会の実施状況をフォローアップする専門家を指名している。

「国連人権理事会が、コートジボワールに関し、この国連委員会が作成した勧告の実行に本気で取り組むのであれば、2004年に作成されたコートジボワール事実調査委員会の報告書の公開を働きかけるべきである」と前出のデ・リベロは語る。「02年から03年の内戦時に起きた重大犯罪は、処罰もないまま放置されている。こうした重大犯罪を調査して取りまとめている2004年委員会の報告書の公表が、コートジボワールにおけるアカウンタビリティ(法的責任追及)を確立する上で重要である、と指摘している。2011年委員会もこれを指摘している。」

ここ数ヶ月中東全域で起きた非暴力の抗議デモ参加者への攻撃に対応し、国連人権理事会は、平和的な抗議運動における人権の保護に関する一般決議を採択。このような人権侵害を防止する責任が各国政府にあることを想起させた。しかし、国連人権理事会はアカウンタビリティ(法的責任の追及)を求めることはせず、また、バーレーンやイエメンなどでの抗議デモ弾圧について、政府を具体的に名指しをして非難することを避けてしまった。

今回の国連人権理事会会期では、以前の特別会期で取り上げられたリビアとシリアの状況の検証も行われ、2011年3月に立ち上げれたリビアでの人権侵害を調査する事実調査委員会のマンデイトは延長された。同委員会は、9月に予定されている次の人権理事会の会期で調査結果の予備報告書を報告するとともに、2012年3月には最終報告書を提出する見込みである。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、紛争の全当事者に対し、国際人権法を尊重するとともに、人権侵害を行った者の責任を問うよう求めてきた。

ナビ・ピレイ国連人権高等弁務官は、シリア政府に現地調査ミッションの派遣を受け入れるよう求めたものの、シリア政府当局はこれを受け入れなかった、と人権理事会に報告。同理事会は4月の特別会期で、ピレイ高等弁務官に事実調査ミッションを行うよう依頼していた。人権理事会はシリア政府に対しても、同調査ミッションに対し「全面的に協力するとともに入国許可を与える」よう求めていた。

ピレイ高等弁務官は、シリア難民が流入しているトルコ南部に調査団を送って、現地調査ミッションを行う予定であると述べた。すでに、何千名ものシリア人難民が国境を越えてトルコ南部に到着している。

「シリアは、ジャーナリストや人権団体はもちろん、国連にさえ入国を認めない。沢山の隠し事をしているのを、自ら認めているようなものだ」とデ・リベロは話す。「国連安全保障理事会は今こそ、人権理事会の入国要請を援護するとともに、シリアで続く人権侵害を非難するべきだ。」

国連人権理事会は、国連人権高等弁務官をイエメンに招待するというイエメン政府の決定を歓迎する一方、イエメンで続く暴力的弾圧に関しては明確な意見表明を避けてきた。2月以降、政府治安部隊と親政府派の暴徒が、大半が丸腰の市民である抗議デモ参加者に襲撃をした結果、少なくとも167名が死亡している実態をヒューマン・ライツ・ウォッチは取りまとめている。犠牲者数はこれより大幅に多い可能性が高い。国連人権高等弁務官は、9月の人権理事会の会期でイエメン訪問に関する報告を行う予定となっている。人権理事会はその際イエメン問題を議論する見込みとなってはいるものの、今も続く人権侵害について今回の会期での対処を回避したのは許し難い、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

「リビアとシリアにおける人権侵害を調査するという国連の決定を歓迎する。両国政府当局に対し、自らが行った人権侵害の責任を取らせることに寄与するからである」とデ・リベロは語る。「しかし、抗議デモ参加者が射殺されているバーレーンやイエメンなど、その他の国の人権侵害問題に対して人権理事会が押し黙ったままであることは、人権理事会への信頼性を損なうのみならず、人権理事会は政府間の友好関係に拘わらず、人権侵害を行う政府であればどこであっても断固とした姿勢をとることができるのか、その能力に疑念を生じさせる。」