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コートジボワール:ワタラ大統領 公平な司法確立 急務

紛争解決にはアカウンタビリティと法の支配の再構築が不可欠

(アビジャン)-ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日、アルサン・ワタラ氏に宛てた書簡を送付し「過去十年以上にわたりコートジボワールでは重大な犯罪が犯されてきた。そうした犯罪の責任者を法の裁きにかけるための措置を速やかにとるべきである」と指摘した。ワタラ氏は2011年5月21日大統領に就任する予定である。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはワタラ氏に対し、信頼に足る真相究明の制度を通じて、地域間の深刻な分裂に対処するとともに、専門的かつ中立な司法制度を構築し、治安部隊に規律を守らせるよう、迅速に措置を講じる事を求めている。

「ワタラ大統領が元首として就任するこの国は、何カ月も続いた恐怖に未だ動揺し、分裂状態が深刻なままだ」ヒューマン・ライツ・ウォッチ西アフリカ上級調査員コリーン・ダフカは語る。「しかし、ワタラ氏は、政治や地位に左右されない中立な司法制度を構築し、コートジボワールの暗黒の時代に早急終わりを告げなければならない。」

今回のワタラ大統領の就任に至るまで、大統領選挙決選投票から既におよそ6ヵ月が経過している。現職だったローラン・バグボ(Laurent Gbagbo)氏が、国際社会が支持したワタラ氏の勝利を認めなかったことが、紛争勃発の引き金となった。国連によれば、選挙後、両陣営の武装部隊が行った人権侵害により、2,000名から 3,000名が死亡し、数十万人が居住地からの避難を余儀なくされ、国内全域の民族的政治的緊張が高まった。

2010年12月から2011年5月にわたり、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、両陣営による重大な人権侵害の被害者、及び目撃者数百名に聞き取り調査を行った。政治的立場あるいは民族の違いを理由とした虐殺・強制失踪・殺人・性的暴力、そして民兵・外国人部隊徴用の横行、更に民間人への無差別な重火器使用などの人権侵害が行われたのである。

紛争勃発当初の3ヶ月の間に起きた人権侵害の大多数は、バグボ氏の支配する部隊と、長らく同氏の支配下にある民兵組織が行ったものであり、それらは人道に対する罪に該当すると考えられる、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘。その後3月に、ワタラ陣営の首相であるギローム・ソロ(Guillaume Soro)氏の包括的な指揮下にあった共和国防衛隊(Republican Forces)が、首都アビジャンにむけて攻撃を展開した際には、双方の陣営の武装部隊はお互いに、敵側を支持する(あるいはそう見えた)民間人住民に残虐行為を行い恐怖に陥れた。同国極西部では、共和国防衛隊部隊要員らがバグボ氏の支持者(とそうみなした者)に、性暴力や殺人などの戦争犯罪を犯した実態をヒューマン・ライツ・ウォッチは調査して取りまとめている。アビジャン奪還を目指す戦闘の最終局面と、バグボ氏と氏の多くのとりまきが逮捕された4月11日とその後の数週間、両陣営は、捕えられた戦闘員の超法規的処刑や、民間人殺害・性暴力など、膨大な数の戦争犯罪を犯した。

重大犯罪に対する真相究明と法の裁き

4月13日にワタラ氏は、大統領選の結果を巡る紛争のなかで両陣営が行った国際法違反の重大犯罪に対し、信頼に足る公平な調査を行うと約束するとともに、訴追にあたり国際刑事裁判所(以下ICC)の協力を要請した。法の裁きの公約は重要な一歩であるが、他の政府高官はこれと異なる意見も表明しており、懸念材料となっている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

2000年にも、今回と同様、選挙結果を巡る紛争が起き数百名の死者がでている。以来コートジボワールでは、暴力の横行人権侵害が続いている。2002年と2003年の紛争の際とその直後も、戦争犯罪が行われたことを、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、国連やその他の団体が取りまとめている。その際の犯罪により訴追された者は誰一人としておらず、当時名前が挙がったのと同じ人物が多数、今回の紛争でも人権侵害を命じたとみられる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、今回の書簡の中でワタラ氏に対し、2003年の紛争で起きた犯罪に関する2004年の調査委員会報告書を公表することを、国連安全保障理事会に要請するよう強く求めた。国連人権理事会が設立した調査委員会による、大統領選挙を巡る今回の紛争に関する報告書も、6月に公表されることが見込まれており、これらの報告書が相俟って、この10年間に起きた最悪の残虐行為の数々が白日のもとにさらされることになる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは更に、ワタラ政権に対し、ICCがコートジボワールで起きた犯罪に対して正式な捜査を開始した場合、同裁判所に協力するよう求めている。

しかしICCの捜査が開始された場合でも、これまでICC検察官は、重大犯罪の責任者であるとされたわずか数名の訴追を求めただけに留まっていることから、重大犯罪に対する国内での訴追は引き続き必要不可欠である。また、国内裁判は、国民にとってより身近であり、国民のためにもなる。新政権は、国内における戦争犯罪裁判が国際法及び実務を順守することを保証しなければならず、その目標に向け、諸外国に支援を要請するべきである。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、バグボ氏やそのとりまき、軍高官及び元民兵組織指導者など既に拘束されている容疑者を、コートジボワール政府が公正かつ人道的に取り扱う必要があることも強調。

ワタラ氏は既に「真相究明と和解委員会」設立のための措置を講じており、5月2日には、チャールズ・コナン・バニー元首相を同委員会の委員長に指名している。政治紛争であるとともに、地域間紛争でもある本紛争の背景にある問題を探求する機関を設立することは前進である、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘。しかし、「真相究明と和解委員会」は、国民との開かれた協議プロセスを通して枠組み設定及び職務遂行をすべきである。また、「真相究明と和解委員会」をもって、重大犯罪の責任者を訴追するかわりの代替機関としてはならない。

法の支配の再構築

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、法の支配への回帰の重要性も強調している。コートジボワールは10年以上にわたり、当局による汚職と人権侵害が横行し、北部と極西部では2002年から2003年の紛争により国が分裂状態になってからというもの、国の制度らしきものが存在しない。ヒューマン・ライツ・ウォッチは特に、専門性を有し中立を保った汚職のない司法制度と、効果的でかつ人権を尊重する警察と軍を設立することの重要性を指摘している。

過去10年間、コートジボワールの多くの地域で、バグボ派の暴力的学生組織FESCIのメンバーやドゾ族(Dozo)として知られる北部の伝統的な狩猟集団の一部などによる、自力救済が横行してしまっていた。ヒューマン・ライツ・ウォッチが大統領選挙をめぐる紛争に先立って行った調査によれば、政府治安部隊が頻繁に恐喝・恣意的逮捕などの犯罪行為に関わるとともに、多くの場合、被害者を保護しないばかりか、性暴力や強盗事件、その他蔓延する問題を捜査しないまま放置してきたことを明らかにしている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは政府に対し、犯罪行為に関与した共和国防衛軍・警察・憲兵に対して懲戒処分を取るとともに、必要な場合には訴追することを確約するよう、強く求めている。さらにワタラ氏には北部と極西部において機能的な法的諸制度を整備し、それらの地域に専門的教育を受けた司法・矯正職員を配置するよう要請した。

「司法救済を受けること自体が困難で、しかも裁判に不正が横行しているため、紛争を自力救済や地域間暴力で解決してきた。そんな時代に終わりを告げる必要がある。コートジボワール紛争は、法の支配の欠如が大きな原因なのであるから、外国政府は、そのODAにおいて、司法制度内の欠陥を解決するのを支援する必要がある」と前出のダフカは語った。

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