(ニューヨーク)-インドネシアでは、家事労働者に対する搾取と虐待が長く問題となっている。2010年2月14日のインドネシアの「家事労働者の日」にあたり、インドネシア国内外の5つの団体が、2010年中に、より強力な法律上の保護措置を導入するよう政府に求めた。ヒューマン・ライツ・ウォッチとジャラPRT(Jala PRT)、ラムプン・ゲマ・ペレムプアン(Rumpun Gema Perempuan)、マイグラントケア(Migrant Care)、セリカトPRTチュナス・ムリア(Serikat PRT Tunas Mulia)の5団体は、インドネシア人家事労働者たちは、通常の労働法の保護も受けられずに、休暇もない過度の長時間労働や賃金未払い、暴力や性的虐待を耐え忍んでいる、と述べた。インドネシアのなかの家事労働者もこうした実態に直面しているほか、国外に出稼ぎにでたインドネシア人たちもこうした事態に苦しんでいる。

ジャラPRTのコーディネーターのリタ・アングレイニ(Lita Anggraini)は、「家事労働者は、いわゆる『正規』セクターで働く労働者に劣らない厳しい労働環境におかれている」と語る。「これはシンプルな平等の問題。家事労働者も、他の労働者と同じ権利、同じ保護、同じ支援を受けられるようにすべきだ。」

2010年はインドネシア政府にとって、法律上の保護を改善する重要なチャンスである、と5団体は述べた。総合的な家事労働者法案が起草され、本年国会で議論される予定である。加えて、インドネシア政府は、インドネシア人がたくさん働いているマレーシア及びクウェートと、移民家事労働者に関する覚書(MOUs)の作成に向けて交渉中であるほか、国際労働機構(ILO)における家事労働に関する新たな国際基準作成にむけた交渉にも参加する見込みである。

2003年のILOの研究によれば、インドネシア全域で、およそ260万人が家事労働者として雇用されている。うち約70万人は子ども。また、100万人を超える女性や未成年の少女たちが、サウジアラビア、クウェート、マレーシア、シンガポールなどの中東地域やアジア地域で、出稼ぎ家事労働者として雇われている。こうした人びとが、様々な人権侵害の犠牲となっているにも拘わらず、政府の対応が不適切である実態を、ヒューマン・ライツ・ウォッチは詳細に取りまとめてきた。(報告書「陰の労働者たち」及び報告書「人間扱いされない労働者」を参照のこと)

2009年12月、インドネシア法律制定評議会(Baden Legislatif; BALEG、Legislation Council) は、新たな家事労働者法の起草・裁決を、2010年の議会の議題にすることに合意。この法律は、インドネシアの現行労働法における差別を是正するチャンスとなる。インドネシアの現行労働法の下で、「正規労働者」は、最低賃金、時間外手当、1日8時間労働、1週40時間労働、週休1日、休暇の権利を与えられているが、こうした諸権利は、家事労働者には認められていない。労働者としての保護対象から全家事労働者を基本的に除外するインドネシアの現行法は、家事労働者の大多数を占める女性と少女に対する差別となっている、と5団体は述べる。新法は、家事労働者として雇われている15歳から17歳までの数十万人の子どもたちに、適切な保護を保障すべきである。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの子どもの権利局のアジア調査員ビード・シェパードは、「安い賃金で働き、こき使いやすいからという理由で、大人よりも未成年の少女を雇いたがる雇い主もいる」と語る。「こうした要因に加えて、個人の家の内で外界から隔絶されるという悪条件が重なり、家事労働者は人権侵害と搾取の対象になりがちだ。家事労働者として雇われている未成年の少女たちに対する特別な保護が必要とされている。」

必要な保護には、たとえば、最低限の食事と居住スペース、教育や職業訓練を受ける時間を保証することなどがある、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

新法は、家事労働者の雇用に際し、最低年齢15歳を守らせるために、厳格な法執行も求められる、と5団体は述べた。家事労働者を募集し派遣する派遣機関と雇用者に、被雇用者の出生証明書や小学校卒業証明書の写しを審査及び保存させ、年齢を確認することを義務付けるべきである。

2009年6月、インドネシア政府は、家事労働に就労する目的でマレーシアに渡航することを一時禁止。この渡航禁止措置は、マレーシアでおきた一連の重大な人権侵害事件と、これに対する政府のお粗末な対応が明るみにでたことに対する対応だ。2009年9月、クウェートでも同様の事件が明るみにでた結果、インドネシア政府は、クウェートへの家事労働者の渡航も一時禁止。インドネシア政府は、現在、両国との間で、渡航の一時禁止を解除するために、出稼ぎの家事労働者の保護を改善する覚書(MOUs)を交渉中である。

マレーシア政府との交渉は最終段階にあり、覚書(MOUs)では、週休1日の権利とパスポートを取り上げられない権利や、自由に職を辞す自由が認めれるとみられる。最低賃金が、今も議論されている最中だ。

マイグラントケアの事務局長アニス・ヒダヤー(Anis Hidayah)は、「両国の間で保護が合意されることは重要な前進。しかし、海外で働くインドネシア女性が直面している搾取や人権侵害を防止するには、到底十分ではない」と語る。「新しい覚書は、時間外手当、結社の自由、労働時間の制限、就職あっせん手数料の制限などの重要な労働者保護も定めるべきだ。」

こうした国家間交渉は、規制を無視して国際的な労働者斡旋を行なう業者に対する監視のあり方を調整する場にもなるし、国境をまたいで人権侵害を行なう者の訴追のあり方を調整する場にもなる。マレーシアで働いているインドネシア人の出稼ぎ家事労働者たちは、あっせん手数料を支払うために、最初の6ヶ月間の給与をもらえないのが一般的だ。しかも、人権侵害を被った多くの労働者は、被害を申し立てる機会もないまま、本国に送還されてしまうことも多い。

2010年6月、インドネシアは、ILOの他の加盟国とともに、家事労働者に最低限の労働環境を定める新たな国際基準を議論する世界会議に参加する見込みである。インドネシアは、このプロセスを通じて、家事労働者にも平等な権利を拡大するための強い拘束力を持つ条約の作成を目指すべきである。そうした条約があれば、世界中で働く全てのインドネシア人の家事労働者の保護を確保することが可能となる。

「拘束力のある条約を支持しないと当初表明したインドネシア政府は、自国で速やかかつ断固たる行動を取らなかったこともあいまって、信用を失った」と前出のシェパードは語る。「失われた信用を回復するため、インドネシア政府は、2010年中にもっとリーダーシップを発揮すべきである。そして、国内外の家事労働者にも法的保護を与えるべく尽力すべきである。」