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ホンジュラス:人権状況報告書で人権侵害明らかに。国際的圧力もっと必要

米州委員会の報告で、広範囲な人権侵害が続いていることが明らかに

(ワシントン、DC)-米州人権委員会の報告書が明らかにしたホンジュラスでの広範囲な人権侵害。ホンジュラスで現在進行中のこの危機を解決するため、ホンジュラスに対し、個人制裁を含む対象限定制裁など、国際社会は断固たる措置を行うべきである。本日ヒューマン・ライツ・ウォッチはこのように述べた。

米州人権委員会は、2009年8月21日に報告書を発表。その中で、ホンジュラス暫定政権は、過度の強制力行使、恣意的拘禁、性暴力、そしてメディアへの攻撃(死者と身元不明者がでている)などの重大な違法行為を行っている、と述べた。この報告書は、人権侵害の被害者に対する効果的な法的保護が欠如している現状にも言及している。

「米州人権委員会がホンジュラスの人権状況を明らかにして報告した。こうした人権侵害に対して現在の暫定政権が効果的な法的保護を提供できていない現状では、ホンジュラスの民主的政権が復権できるよう、国際社会が協調して効果的な圧力をかけることが緊急の課題である」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアメリカ局長、ホセ・ミゲル・ビバンコは述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、その他のホンジュラス国内のアドボカシーグループや国際アドボカシーグループとともに、6月28日のクーデター以降、事実上の暫定政府によってホンジュラスで行われている重大な人権侵害の解決のための措置をとるよう、米州機構(OAS)に求めた。

ホンジュラスですでに広範な人権侵害が報告されていることや、中米地域で過去に何度も血塗られたクーデターがおきて多くの人権侵害が犯されたことを考えれば、米州で最も権威がある人権調査組織の米州人権委員会が直接本件を取り上げる必要がある、と人権団体は考えている。

米州人権委員会は、8月17日から21日まで実態調査のための調査団をホンジュラスに派遣。この調査団は、事実上の暫定政府の要人や市民社会の様々な階層の関係者たちと面会し、100人以上の人物から人権侵害の申立や証言、情報などを聞き取った。

「OASはいまだ、ホンジュラスの民主主義の危機に対する解決策を示せていない。ホンジュラスにおける法の支配が無視される中、米州人権委員会は、非常に重要な役割を果たせるということを示した」と、ビバンコ氏は述べた。

米州人権委員会の調査結果

予備調査の結果、米州人権委員会は、軍隊と警察に「不当に過大な公権的強制力使用の傾向」があったと明らかにし、その結果、少なくとも4名が死亡し、多数の負傷者、何千もの恣意的拘禁が行なわれたと指摘。

そして、クーデター後の暫定政府が、集会の自由と表現の自由を制限するために軍隊を使用し、非常事態権限を濫用したことも明らかにした。米州人権委員会は、女性たちに対する性暴行があったことも確認し、ジャーナリストへの脅威、拘禁や暴力が相次ぎ、そのため、報道機関はクーデター後の政権を批判できない雰囲気になっていると指摘。米州人権委員会は、クーデターに対する抗議行動のうち、いくつか深刻な暴力と破壊行為があったものの、大多数の抗議行動は平和的に行なわれていた、と述べた。

死者と「失踪」

米州人権委員会は、クーデター後の暫定政府による過剰な強制力の行使の結果、死亡した4名の事件の詳細を明らかにした。

イシス・オベド・ムリージョ・メンシャス(Isis Obed Murillo Mnecias)は、7月5日にテグシガルパのトンコンティン空港の外で抗議活動に参加している際、頭を撃たれ、死亡した。

エルパラで、7月25日に見つかったペドロ・マグディエル・ムニョス(Pedro Magdiel Munos)の身体には、拷問の痕があった。ムニョスはその日、軍のバリケードの前で集会に参加したために軍によって逮捕されたと、目撃者は委員会に話した。

教師であるロジャー・ハジェホ・ソリアーノ(Roger Vallejos Soriano)は、7月30日にコマヤゲラでの抗議運動に参加していて、頭を撃たれた。

委員会が収集した証言によると、ペドロ・パブロ・ヘルナンデス(Pedro Pablo Hernandez)は、8月2日、ジャマストラン谷にある軍のバリケードで兵士によって頭を撃たれた。

米州人権委員会は、4件の事件についてクーデター後の暫定政権に情報提供を求めたものの、政府は2人の人物に関して情報提供しなかったことも、委員会は明らかにした。1人は7月12日の抗議で最後に目撃されたきりである。もう1人は7月26日に自宅で捕まったきりである。

過度の強制力行使

米州人権委員会は、軍隊と警察に「不当に過大な公権的強制力使用の傾向」があったと明らかにした。100人以上の人々が、抗議行動を鎮圧するために、不当な強制力行使があったと証言。エルパラ地方の都市テグシガルパ、サンペドロスラ、チョロマ、コマヤグアで、治安部隊が抗議行動を鎮圧するために、過度の強制力を行使した。これにより、死者がでたほか、拷問・虐待を受けた者も多く、何百人もの人びとが負傷した。

米州人権委員会の報告書は「委員会は、訪問した各地で、鉛の弾丸で傷害を負った人々や、ゴム・鉄・木製の警棒あるいはその他の鈍器による殴打で傷害を負った人々などから証言を聞いたほか、抗議行動を散らす一般的な方法である催涙ガスの無差別使用で傷害を負った人々からも話を聞いた。その他、委員会は、警察官や軍人たちによる強制力行使の結果、頭部に重傷を負った何十もの人びとから証言を聞いた」としている。

恣意的拘禁

抗議行動を鎮圧し、そして予防するため、広範囲にわたり恣意的な拘禁が行なわれていることに、米州人権委員会は抗議。抗議行動中、3,500人~4,000人の人々が軍隊と警察によって根拠なく逮捕され、45分から24時間にわたって拘禁されたと、委員会は結論付けた。多くの被拘禁者が、拘禁中に暴行、脅迫及び言葉による暴力にさらされた。

多くの場合、個人の適正手続の権利も侵害された。被拘禁者は逮捕の理由を知らされず、拘禁の記録も残されず、裁判所・検察官に拘禁の事実は通知されなかったことが委員会の調査で判明。さらに、拘禁の理由に異議を申立てる被拘禁者の権利も、保障されなかった。人身保護令状の申立の審理に応じた裁判官たちの中には、虐待され、銃で脅迫された人びともいる。その上、多くの場合、検察庁は、傷害の被害者たちや監禁されていた人びとの事件を、捜査しなかった。

性暴力

「女性は、女性であるがゆえに、特別に暴力と『はずかしめ』を受けた。」と委員会の調査はまとめている。

委員会は、サンペドロスラで起きた2つの事件(女性が、警官によって強姦された事件と、女性が、腰から下を裸にされ棒で叩かれた事件)に関する証言の聴取を行なった。

米州人権委員会は、警察や軍が、拘禁されている女性たちの胸や性器をもてあそんだことも認定。女性は、拘禁施設の警備員に強制的に足を広げさせられ、警棒で性器を触れられたと訴えた。

メディアへの攻撃

米州人権委員会は、「表現の自由の自由な行使を禁止する威嚇的な雰囲気」が蔓延し、メディアへの攻撃がここ数週間で強まったと認定。クーデター後の政権や軍隊と警察は、テレビ局やラジオ局を一時休業させたり閉鎖するなど、様々な弾圧を行なった。メディアの職員たちは脅迫されたり、拘禁されたり、暴行されたりした。クーデターに批判的な報道機関のオフィスは攻撃を受けた。

米州人権委員会は、少なくとも8つの全国テレビ局、3つの主なラジオ局、そし数個の国際ニュースチャンネルが、6月28日のクーデターの間、一時停止されていたことを確認した。

米州人権委員会は、抗議行動の様子を報道しようとしたところ、治安部隊によって襲われた10人のジャーナリストと、警察や軍隊によって拘禁されて暴力を受けたと証言した5人のジャーナリストから、証言を聴取した。

委員会は、ジャーナリストに対する約20件の脅迫事件と、批判的な報道局に対する5件の大規模な攻撃に関する情報も収集した。

たとえば、8月12日に、チャンネル36のカメラマンであるリチャード・カズラは、テグシガルパでの集会を撮影していた時、警察官に襲われ、殴られてカメラを破壊された。

主にクーデターに批判的な人物たちに攻撃が行われているが、一方で、クーデターを支持するジャーナリストやメディア(例えば新聞「エルヘラルド」)への攻撃もあったことを委員会は報告。エルヘラルド社は、覆面をした男の集団によって、8月14日に建物に火炎瓶を投げつけられ、攻撃された。

非常事態権限の濫用

米州人権委員会は、抗議行動を抑制し社会秩序を維持するために、軍隊を継続的に使用していることに懸念を表明した。

委員会は「特別な状況においては、軍隊は抗議行動の抑制を行うこともある」とした一方、ホンジュラスの軍隊は警備のための訓練が欠如しており、軍隊の参加は限定的でなければならないとした。

軍隊は現在も夜間外出禁止令を発令しているが、報告書はこの禁止令を、法的根拠がなく、差別的に適用されているとして批判した。米州人権委員会は、正当な理由がなく設置された軍の検問所で、数千人が身動きが取れなくなっていることを報告した。7月24日から27日までの間、4,000人から5,000人の人びとがニカラグアとの国境付近で軍により足を止められた。人びとは委員会に対し、軍隊は催涙ガスを使い、食料や水を与えず、負傷者の治療もしなかったと語った。

法的保護の欠如

広範な虐待の報告に加え、米州人権委員会は、ホンジュラス国内法及び国際法の明確な違反と、法的見直しを求める様々な申立(amparos)にもかかわらず、司法当局は暫定政府の行動を確認する義務を怠ったと報告した。

さらに委員会は、司法当局は行政を監視する責任を怠り、暫定政府によって実行された緊急政策の合法性も調査しなかったことを明らかにした。

司法当局の行動不足と、違法行為への不十分な対応の結果、委員会は「クーデターが起きた今、ホンジュラスの司法制度は、人権侵害から効率的かつ効果的に人びとを保護できていない」とした。

米州人権委員会は、検察庁の活動にも疑問を呈した。委員会は、「検察庁が、負傷し拘禁された人びとについて公式な捜査を開始していないことが確認できる情報を、繰り返し入手した」と報告した。

(最高裁判所の裁判長と司法長官がクーデターを公に支持していることで、司法制度が基本的権利を公平に保障しているとの信頼は、更に傷つけられている。さらに、米州人権委員会が報告書を公表した2日後である8月23日、最高裁は マヌエル・セラヤ大統領の解任と暫定政府の正当性を正式に認める判決を下した。)

セラヤ大統領支持者による暴力と破壊行為

米州人権委員会委員会は、抗議行動の大多数が平和的であったとした一方、何件かの暴力的な行為もあり、中には人やものに対する深刻な事件も含まれていたと報告した。これらの行為には、レストランの放火や、議会議員への暴力も含まれている。

協調した国際的圧力の必要性

OAS代表派遣団は、サン・ホゼ協定(11月末に開催される選挙までの間、セラヤ氏を政権に復帰させる計画)への署名を進めることを目的として様々な政府や民間の関係者に会うため、8月24日にホンジュラスに到着した。代表派遣団は、OAS事務総長ホセ・ミゲル・インスルサ氏に加え、アルゼンチン、カナダ、コスタリカ、ジャマイカ、メキシコ、パナマとドミニカ共和国の外務大臣を含んでいる。

「もしOAS代表派遣団が、セラヤの大統領復帰を許可するよう、今週にも暫定政府を説得できないならば、残された唯一の選択肢は国際的な圧力を強めることである。」とビバンコは述べた。「特に米国政府は、慎重に目標を定めた制裁を科すことで、重要な役割を担うこととなるだろう。」

米国はクーデターを非難し、大部分が軍事と開発援助である1800万ドルの暫定政権に対する援助を中断した。しかしオバマ政権はこれまで、ホンジュラスの悪化する経済への悪影響を理由に、より大規模な制裁を行わずにいる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、以前からオバマ政権に対し、民間人に影響を及ぼすことなく、暫定政府のみを対象とした慎重に考慮された制裁を行うことを検討するよう要求してきた。このような制裁には、暫定政権のメンバーのビザの発給停止、米国の銀行システムの使用の禁止、個人の収入源を対象とする制裁などが含まれる。

皆様のあたたかなご支援で、世界各地の人権を守る活動を続けることができます。

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